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第6回《前編》:奥琵琶湖から世界へ!ローカル・ガストロノミーの新たな挑戦

2018.02.17
外観(湖側)

「ロテル・デユ・ラク」から望む奥琵琶湖の風景は、まるで北欧のフィヨルドのよう。客室数はわずか15。日本では数少ないSLH(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ)のメンバーでもある。

 「ここはまるで、ノルウエーの海岸線の景色のようではないか」

 先ごろ訪れた冬の奥琵琶湖の風景は、ノルウエーのフィヨルドのように、雪の合間から入江が自然深く切り込んでいた。このエリアは、羽柴秀吉と柴田勝家が覇権を争った賤ヶ岳の合戦場としても知られるが、複雑に入り組んだ琵琶湖と、鏡面のような美しさを湛える余呉湖の織りなす大自然もまた、大きな魅力である。そして、琵琶湖岸に面して建つ『ロテル・デュ・ラク』は、このエリアを代表するスモール・ラグジュアリーの宿として人気が高い。

 さる1月23日、私がこの宿を訪れたのだが、目的はこの宿が主催するガストロノミー・イベント「7Spears」に参加するためであった。今回で3回目を迎えるこのイベントは、『ロテル・デュ・ラク』の常務取締役の田中秀和氏と、地元の発酵料理人の第一人者の『徳山鮓』の徳山浩明氏が協働でスタートさせた、地元発信型の美食プロジェクトである。発足されたのは2017年5月のこと。「この湖北エリアの魅力ある食の資源を発掘し、生産者と消費者をつなげたい」というのが発足の理念になったと徳山氏はいう。「そのためには、地元の料理人が自ら発信しなければならない」今回のイベントで選ばれたのは、いずれも地元の気鋭の若手料理人たちばかりである。

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今回で3回目を迎えるガストロノミー・イベント「7Spears」には、『徳山鮓』の徳山浩明氏を中心に、地元の若手料理人たちが参加する。それぞれ料理のジャンルも様々だが、今回は「冬のジビエと発酵」をテーマに、新たな料理に挑戦した。

   ンバーは、回によって多少の変更はあるが、「賤ヶ岳の七本槍」にかけて、徳山氏の他に毎回6名のシェフの計7名が担当し、それぞれがテーマに合った料理を作り、一つのコース料理を作り上げるというものだ。ちなみに、今回の料理を担当したのは『徳山鮓』の徳山舞氏(発酵料理)、『ロテル・デュ・ラク』の北山英樹氏(フランス料理)、松浦弘昭氏(中国料理)、『京極寿司』の眞杉国史氏、イタリア料理『PASSO』の押谷俊孝氏、洋菓子『オ・ボン・カドー』の村方 純氏と、ジャンルも様々だ。「地元の人間が変わらなければ地域は変わらない」という徳山氏。「志の高い20代~30代の地元の若手の料理人に声をかけて実現しました」ともに切磋琢磨し、あるいは競いながら、個々のブレイクスルーを導き出す、というのが隠れた狙いのようでもある。

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料理人たちは、会場となった「ロテル・デュ・ラク」の厨房で、それぞれの皿を担当するが、共に協力しながらコースを作り上げる。

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こちらは『徳山鮓』の徳山浩明氏のお嬢様の舞氏 が創作した一皿。中央にはフレーク状にした猪肉をメインに、その下には発酵したキャベツが敷かれている。鮒鮓の飯(いい)とかぼちゃをソース代わりに。

 て、3回目となる今回は、「冬のジビエと発酵」をテーマに、それぞれの料理人がクリエーションを行なった。このエリアは鮒鮓に代表されるように、発酵食品の宝庫でもあるが、そこにジビエという要素を加えたらどうなるのか。それぞれに磨いた技術とアイデアで新たな近江の味を生み出そうというのが狙いだ。フレンチの北山英樹氏は、地元伝統食のエビ豆や丁稚羊羹をモティフにした前菜で楽しませてくれた。徳山舞氏は、鮒鮓の代わりに猪を使って、鮒酢の米の部分の飯(いい)を合わせることで、独特なフレーバーの可能性を模索する。押谷俊孝氏は鹿肉を端正なテリーヌに。眞杉国史氏は普段握る寿司ではなく、ビワマスに発酵を加えた一皿に仕上げていた。松浦弘昭氏は東坡肉風に仕立たてた猪に、中国のスパイスを添えて、村方 純氏のデザートは、発酵のプロセスを取り入れた、洋菓子仕立てのいちご大福で、それぞれの創意工夫がなされていた。それぞれ湖北の冬のジビエや、発酵という調理法を取り入れて自分の店では普段作らない料理に挑戦していることは好印象だった。

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多くのゲストたちは、このイベントを目当てに、県外から駆けつけた。料理だけでなく、料理人たちによるプレゼンや、ワインのペアリングなども、楽しみの一つだ。

 土地に根付いた食材や食文化を、地元の料理人がレシピから再編集するという試みは、ルーツに根ざしている分だけ、重みと面白さに満ちていた。少なくとも素材やストーリーにウソやまやかしがないというのは、食す上で最も大切なことだ。私を含む地域外から来るゲストたちが望むのは、ここの土地でしか食べられない風土の味わいに根ざした、新たなクリエーションであるのだから。こうしたイベントが有意義だと思うのは、彼らが試行錯誤するプロセスを追体験することは、味覚を通じて旅をすることと同じだからだ。それを、地元が自発的に行なっているということに、大きな可能性も見出すイベントになった。機会が合えば、次回も参加したいと強く思う、奥琵琶湖の旅であった。

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今回で3回目を迎えるガストロノミー・イベント「7Spears」には、『徳山鮓』の徳山浩明氏を中心に、地元の若手料理人たちが参加する。それぞれ料理のジャンルも様々だが、今回は「冬のジビエと発酵」をテーマに、新たな料理に挑戦した。

 

後編に続く》 

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。

文・中村 孝則
写真・野口 伽那子