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第11回:和歌山県有田川町で開催された、地元高校生が主役の美食イベントに参加

2018.08.09
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有田川町のシンボルとなっている、あらぎ島
日本の棚田百選に選ばれ、周囲の景観とともに「蘭島及び三田・清水の農山村景観」として国の重要文化的景観に指定されている

 

る7月9日、和歌山県有田川町を舞台に、「G.G project 〜感性の授業〜」というタイトルのユニークな美食イベントが開催された。発起人は、地元和歌山県を代表する「Villa AiDA」の小林寛司 シェフであった。最初に驚いたのは、小林シェフの呼びかけに応じたシェフやスタッフの多彩な顔ぶれだった。「Florilege」川手寛康シェフ、「La Cime」高田裕介シェフ、「メツゲライクスダ」楠田裕彦シェフ、「里山十帖」の北崎裕シェフと桑木野恵子シェフ、そしてサービススタッフとして「もうひとつのdaidokoro」の菊池博文さんが参加するという。いまのガストロノミー業界で注目される若手プロたちが一同に集い、有田川町の食材を使って料理を作ると聞けば、私でなくとも食指が動くに違いない。


今回は、各シェフがコンペ風に料理を競っているのが面白かった。こちらは「Villa AiDA」の小林寛司 シェフのヤマメを使った一皿


野外で、特産のぶどう山椒のアミューズをつくる小林寛司 シェフ。天候にも恵まれた

 

もっとも、私が興味を抱いたのは、これがただの美食のポップアップ・レストランではなく、地元の高校生たちがシェフと一緒になって料理を作り、そして提供するというコンセプトだった。地元の有田中央高校には、「食育コース」というのがあり、今回のイベントは、その生徒さんたちの“食育”の一環なのだという。今回、その高校の本校と清水分校合わせて27名の生徒が参加するということだった。「その高校生たちに学んで欲しかったのは、トップシェフたちのクリエーションの素晴らしさだけでなく、むしろ地元の食材や食文化の素晴らしさを知ってもらいたかった」と、発起人の小林シェフはいう。有田川町は、最高品質のみかん産地として知られているが、その他にも有田川の鮎や鰻などの川魚、イノシシや鹿といったジビエのほか、“山のダイヤ”とも称され「ぶどう山椒」の産地でもある。そうした食材がトップシェフたちによって、珠玉の料理に仕立てられていく様子を五感で体験できるのは、私を含めてゲストたちにとって愉しい体験であったが、それ以上に高校生たちにとっても、かけがえのない瞬間であったに違いない。それは、彼らがイキイキと手伝う表情からも読み取ることができるのであった。


初々しい表情でサービスを手伝う有田中央高校の学生たち

 


メインディッシュは、炭火で仕立てられた特製の猪鍋が供された

育の必要性が叫ばれて久しい。

一般的に食育とは、ライフスタイルの近代化や効率化が進む都市問題として論じられがちであるのだが、実は食材や食文化の多様性を支えている地方にこそ、重要な課題を孕んでいる。食材の生産者の高齢化や、後継者問題の解決など喫緊の対策はもちろんだが、むしろ若い世代に自分たちが住んでいる地域の食材や伝統食の文化の価値に目覚めてもらうことも重要であろう。その意味で言えば、今回のイベントのように、高校生にターゲットを絞り、トッププロを招いて実戦で体験させることの意義は大きい。シェフたちが、日常的に馴染んでいる食材を、思いもよらぬ作品に仕上げるクリエーションだけでなく、ウルサ方のゲストたちが、その料理のどの部分に興味や感動を抱くのかを観察できることも重要だ。そうした感性の教育こそ、ローカルガストロノミーの将来を支えるのだと思う

 

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左から主催の「里山十帖」の岩佐十良さん、「Florilege」川手寛康シェフ、「La Cime」高田裕介シェフ、「メツゲライクスダ」楠田裕彦シェフ

回は、そのローカルガストロノミーの発信源でもある、南魚沼の「里山十帖」と雑誌「自遊人」が主催となり、有田川町との協働で開催されたが、日本の多くの地方自治体も参考にして欲しいと願うばかりだ。若者の地方離れ対策としても、多くの示唆に富んでいると思う。

 

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。