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第12回:フランスの高級スーツ生地で本格的な男の着物を仕立てる

2018.09.13
Dormeuil1

 

羽織はドーメルの「アイコニック(iconick)」のライトグレーの生地を使用した。と羽裏は、同じくドーメルの蝶柄のシルクのスカーフを見立てで取り入れた

 

洋ハイブリッド」とでも表現したらいいのだろうか。

先ごろ本格的な着物を一式新調したのだが、長着と羽織そして袴に至るまで、全てスーツの生地を使って仕立てた。そのつや感やしなやかさから、絹のように見えるが、全てウール素材で出来ている。しかも、フランスの高級服地ブランド「ドーメル(DORMEUIL)」のものを使用した。もともとウール素材の着物はあるにはあるが、スーツ用の生地で仕立てる人は稀だろう。そもそも、着物とスーツでは、素材の作り方や反物のサイズや規格も違うので、普通はそのような発想にすら至らないだろう。

「アイコニック(iconick)」は、ドーメルの近年のヒットシリーズで、極めて高い撥水性を誇る

長着には、ストレッチ機能のある「エクセル(exel)」というシリーズの生地を使用。遠くからだと無地に見えるが、細かいグレンチェック柄である

 

それでも、あえてスーツ生地で仕立てたのには幾つかの理由があった。スーツ生地は、着物用の絹の生地に比べて圧倒的に丈夫なうえ、手入れが簡単だから。しかも、羽織の生地に選んだ「アイコニック(iconick)」という生地は、100%スーパー120‘sのオーストラリアウールで、軽量かつ緻密なうえ、撥水機能まで備えている。ちなみに、長着の生地に選んだのは、ストレッチ機能のある「エクセル(exel)」というシリーズのグレンチェック柄。袴には、「トニック(tonik)」という、ハリ感のあるモヘアの生地を選んだ。門外漢の方はピンと来ないだろうが、スーツに詳しい人なら、誰でも知っているドーメルを代表するベストセラーの生地ばかりである。

基本的に、どれもスーツ生地なので洗濯はドライクリーニングで大丈夫。着物の初心者にこそ、勧めたいと思うのである。

ドーメルの着物を着て、お点前を立てる。和の空間でも調和がいい (撮影:桐島ローランド)

 

ーメルは、1842年創業のフランスの高級生地ブランドとしてよく知られている。スーツ用の生地としては世界最古のブランドであり、100近い国々に輸出され、多くのファッションブランドや各国の名士たちに服地を提供してきた。私も、ドーメルの生地で仕立てたスーツも愛用するが、着物の生地という発想に至るには、一つの言葉がきっかけだった。

今から数年前のこと、ドーメルの5代目ご当主のドミニク・ドーメルさんへのインタビューの時だった。「スーツの色柄は、それを着る場所の気候風土や風景に映えなければならない」という言葉だった。至極まっ当な話だと思いながら、そのような発想を伴ってスーツの色柄を選んでいる人は、少ないだろうなとも思ったのである。幸い、ドーメルは歴史も長く、数千にも及ぶであろう色柄のレパートリーを誇っている。だからこそ、世界中で支持されているのだが、中には日本の伝統色に近い色柄も豊富なのだ。私が着物目線で選んだ生地たちも、結果的に和の空間にも調和するのであった。

 

(写真左)ドーメル5代目ご当主のドミニク・ドーメルさん。着物姿も麗しい (写真右)とても初めての着物とは思えない優雅な動きのドミニクさん(撮影:桐島ローランド)

 

て、その5代目のドミニク・ドーメルさん自身も、ご自分用の着物を仕立てたのだという。そして、先ごろ来日された際に試着を兼ねて、弊社の茶室で抹茶を一服所望されたのである。写真はその時の模様だが、さすがは着巧者だけのことはある。初めての着物にも関わらず、ビシッと着こなすではないか。その優雅な所作に、ドーメルの着物がよく映えるのであった。ちなみに、羽織の五つ紋と、長着の紋は、長年の知人である紋章上絵師の波戸場耀次さんに頼んで、スワロフスキーで入れてもらった。これにはドミニクさんも驚かれていたが、こちらも和洋ハイブリッドと言ったところだろうか。諸先輩方からはおふざけが過ぎると、お叱りを受けるかも知れないが、テーラーメイドのスーツや、男の着物の愉しさを再認識する、きっかけになればとも願っている。

 
紋章上絵師の波戸場耀次に仕立てていただいた、スワロフスキーの家紋。一粒づつ手作業で仕立てられている。

 

<プロフィール>

中村 孝則(なかむら たかのり)

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。また最近は、テレビ番組の企画や出演、トークイベントや講演活動も積極的に展開している。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。