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第3回:エレガンスについて《後編》

2018.02.23
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がこの言葉と最初に出逢ったのは高校生の頃で、三島由紀夫の小説「春の雪」の中でのこと。物語のヒロイン、華族の一人娘、聡子がスープを口に運ぶシーンだ。英国式の正式な作法には反するにも拘らず、その仕草があまりに優雅で彼女の個性を引き立たせていた様子を、三島はまさにエレガンスという言葉で記述している。私にとっては衝撃的な発見だった。エレガンスとは単に決められたことを単に粗相なく行うことではなく、外界とのハーモニーを保ちながら、自分の個性表現を行う上での洗練されたやり方を指すのだ

ところでエレガンスの意味を理解するために使った、センスが良いと言う時のセンスとはどんな単語なのであろうか。センスの語源はやはりラテン語で知覚するという言葉で、感覚や知覚を意味する。従って、ファッションセンスがいいと言うのは、ファッションがわかる感覚をもっていると言うことで、これは日本語でも日常的に使われる言葉である。ただ同時に、ものの意味、考え方、捉え方といった意味ももっており、物事の真意を感じる心の働きを指してもいる。つまり、センスがいいと言うのは、ものの本質がわかっていると言うことに他ならない。日本では野球の選手を指して、この選手は野球センスがあるとかないとか言ったりするし、ナンセンスは、意味がないと言うことを指すのは皆知っている。ラテン語と並行してゲルマン語のセンスは道や方向を意味する単語で、17世紀ごろからラテン語のセンスの意味とゲルマン語の意味が混ざり合ったらしく、現代のフランス語でsens uniqueと言えば一方通行を意味し、bon sens と言えば、正しい方向という意味と、道理にかなっているという両方の意味を持つ。つまりはセンスがあると言うのは、ものの本質、あるいは道理がわかっていることを指すのだ。お気付きかもしれないが、日本語の道理という言葉にも道という字が入っている。

をエレガンスに戻すと、エレガンスはセンスが良いこと、つまりはものの道理をわきまえていることが前提になる上に、周りの世界との協調の中で、どのように自己表現をして行くかという生きる知恵のひとつが高度に洗練されたものに他ならない。エレガンスは高度に発展した文化の中で育まれた、人によって表現される美しさの一つの状態である。その意味で、日本人は周りとの協調においては昔から常に気を使って生きてきた国民であり、自分と社会、あるいは自然との共生は日本人のメンタリティーに深く根付いている。そして中でも茶の湯に見られるのは究極のエレガンスだと言ってよい。招くものと招かれるもののお互いを尊重する関係、無粋な装飾を排しシンプルながら洗練されたしつらえ、そして一切無駄な動きのないお点前の動作は、真のエレガンスを生み出す。それは自然や人間社会への敬意と共生の精神の中で醸成されたものに他ならない。

戦後の高度成長時代は、日本に物質的な豊かさをもたらしたが、私たちの先祖が長い間育んできた日本人ならではのエレガンスを一部置き去りにしてきた感が否めない。この洗練された文化が生んだもの、風習、感性や精神をもう一度掘り起こし、そのエレガンスにもう一度注目するべきではないのか。そこには大量生産、大量消費を追った20世紀の日本とは違う、本来の日本の姿があるに違いない。そしてまた21世紀は精神的な豊かさや、自然との共生を求める世紀であり、それこそが世界が日本に注目し、求めていることであろうと思う。

 

《前編はコチラから》

 

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<プロフィール>

齋藤 峰明(さいとう・みねあき)

シーナリーインターナショナル代表 
プレミアムジャパン エグゼクティブ・キュレーター
1952年静岡県生まれ。高校卒業後渡仏。パリ第一(ソルボンヌ)大学芸術学部卒業。1975年フランス三越に入社。1992年、40歳の時にパリのエルメス本社に入社後、エルメスジャポン株式会社に赴任。営業本部長、専務取締役を経て、1998年より代表取締役社長として、日本でのエルメスの発展に尽くす。2008年外国人として初めて、エルメスパリ本社副社長に就任した。
2015年、エルメス社を退社後、シーナリーインターナショナルを設立。代表として、新コンセプトのフットウエアブランド「イグアナアイ」の紹介や、日本の伝統技術及びデザインアイテムを紹介するギャラリー「アトリエ・ブランマント」をパリにオープンするなど、パリと東京をベースに日本の新しいライフスタイルの創出と、世界への発信の活動を開始。ほかにライカカメラジャパン株式会社 取締役、パリ商工会議所日仏経済交流委員会 理事など。
1997年 フランス共和国 国家功労勲章シュヴァリエ 叙勲。

ATELIER BLANCS MANTEAUX (アトリエ・ブランマント)  http://www.abmparis.com/ja/latelier/#1