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《第2話》堀木エリ子氏(堀木エリ子&アソシエイツ代表)x 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.02.26
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術開発で伝統産業を未来へつなぐ

齋藤「堀木さんはご自分をどのように位置づけられていますか?」

堀木「自分は職人でありたいと思っています。ものの表現をすることが目的ではなく、日本の伝統産業を未来につなぐ仕事をしたいんです。それには技術開発が大事です。一つは福井の工房でコラボレーションしながら和紙職人さんの伝統的な技術を未来につなぐ。もう一つは、京都の工房で糊を使わずに立体的に漉く和紙や、10メーター以上の大きな和紙を作る技術を開発していて、その革新的な技術を50年後100年後の伝統に育てるという二つの方向性で進めています」

 

の役に立つことに価値がある

齋藤「日本の優れたものはたくさんありますが、伝統工芸に限ると現代の住環境で普通に使えるものが少なくなっています。和紙は堀木さんがやってくださるから現代のものだと思えるわけですが、ほかの素材は皆苦労されている。だからその鍵として、和紙の偶然性まで取り入れていくことは、うまいやり方だなと」

堀木「機械漉きとの大きな違いは偶然性です。機械でできない、手漉き和紙ならではの表現が大切です。和紙が光で変化するという特長は、ほかの素材には代用できないんです。そこで和紙を合わせ硝子に加工して外壁に使い、都市環境に影響を与えるところまで押し出すことができたのですが、周りの人からは、和じゃないから残念だと言われました。この感覚が伝統産業をだめにしているんだと思います。和か洋かという境界は必要無く、新素材だと解釈すれば職人さんの技は活きます。それでも私は残念と言われないよう、そこからアレンジしていくわけです。一人ひとりの声や時代のニーズを聞いて、他の素材に代用できないものを開発することが重要です。」

齋藤「職人さんが和紙を一つの段階に閉じ込めてしまったのを、堀木さんが自由に解放された感じがします」

堀木「解放するには、機能や用途を広げることが大切です。例えば、消防法で建築物に燃えるものを入れてはいけないとなると、いくら素晴らしい作品でも使えないですよね。子供に破られるとか、ペットに汚されるという不安があっても使えない。だから、解決するための技術開発に取り組んでいかない限り、人の役には立たないんです。使ってもらって人の役に立つことが目的なので、しっかり問題点を見つけないといけない」

齋藤「僕はいつも職人さんに言っているんです。使われて初めてものの価値が出てくるし、使う人に何らかの恩恵を与えられると。堀木さんとしては、日本の伝統文化をなんとかしたいという思いがある」

堀木「もちろんです。伝統的なもの作りに関しては、ものの背景にある精神性や日本人の美学こそつないでいかなければいけないと思います。太古の昔より、人は自然への畏敬の念や、命に対する祈りの気持ちから手を動かしてものを作ってきました。そういう想いを忘れずに生活してもらうために、私の作品では、吉祥の意味合いのある日本の古典文様をモチーフにした提案もしています」

齋藤「今、こういう日本的な精神性を外国人も求めていると思うんです。自然を神様から与えられたものとして加工し、役に立たせるという。和紙には日本の精神性があるから、外国人もそれを感じるのだと思います」


 
ミラノサローネ2011 ユーロルーチェ「Baccarat Highlights」
(左)Sora  旋律 ランタン (右)  Sora 雫 シャンデリア


堀木「私は和紙という和の素材を扱っていますが、あまり和のイメージに寄らずに表現することを心がけています。面白いエピソードがあって。バカラとのプロジェクトで和紙のシャンデリアを作っているときに、先方から今年は真っ白なLEDで展開するので、堀木の作品も白く発光する電球を入れると言われたんです。でも、和紙は温かい電球色が一番落ち着くので赤く発光する電球にしてほしいと言ったら、それはできないと。そこで私は原点に戻ってみて、和紙を始めた頃は、固定概念なく自由な発想で取り組んでいたのが、二十数年でいつのまにか固定概念が身についてしまっていたことに気づきました。そしてフランスの人たちが白い電球がきれいと言うなら、和紙素材そのものがどこまで世界に通用するのかを見てみようと。結果、和紙シャンデリアは、とてもモダンな印象の照明になり、それ以降は、私たちも白く発光するLEDをたびたび使うようになりました。対比する素材や思考とのコラボレーションは、新しい発見や反省の機会となり、新しい挑戦をすることで、未来の可能性につながっていきます。」

 

《第3話へ続く》

 

<プロフィール>

堀木エリ子&アソシエイツ代表・和紙作家
堀木エリ子

1987年SHIMUS設立。
2000年(株)堀木エリ子アンドアソシエイツ設立。
「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、
2700×2100mmを基本サイズとしたオリジナル和紙を制作。
和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。
近年の作品は、「東京ミッドタウン」「パシフィコ横浜」のアートワークの他、
バカラとのコラボレーション、ニューヨークカーネギーホールでの
「ヨーヨー・マ・シルクロードプロジェクト」の舞台美術等。
「和紙のある空間 – 堀木エリ子作品集」(エー・アンド・ユー)、
「堀木エリ子の生きる力~ソリストの思考術」(六耀社)、
「挑戦のススメ」(ディスカヴァー)など著書多数。

 

文・山本真由美 写真・伊藤信