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《第3話》堀木エリ子氏(堀木エリ子&アソシエイツ代表)x 齋藤峰明(エグゼクティブ・キュレーター)

2018.03.09
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紙作りの考え方を多分野に応用

齋藤「日本の伝統工芸に使われる素材を現代に活かすことに、和紙は成功していますが、ほかのものはどう思われますか」

堀木「和紙と同様に機能や用途を広げて役立てる方法はあると思います。私、ロッテで商品のアドバイザーもしているんです。20年前に大ヒットした「紗々」という網目状のチョコレートを手掛けていますが、私の考え方は、伝統産業の見直しや開発と同じ。そのもの(チョコレート)の原点を見て、良さをピックアップして広げていこうと。パッケージデザインを変えて、売上も順調に上がってきています」

齋藤「そうなんですか」

堀木「例えば工場に行ってパッケージを変えたいと言っても変えられない理由が先に出てきます。視覚的には、網目状の美しさが特長の商品なのに、以前のパッケージでは、開けたときに小袋の中が見えなかったのです。袋を透明にしたいと言ったら、工場はできないと言う。ラインでカットして袋に封をするときに印刷面がないと、カット機能のセンサーが反応しないため、袋が色塗りされていたんです。『それなら、端と端だけ印刷すれば反応するよね』と言ったら、それならできると(笑)。だから、もの作りでは、いろいろな制約の中でいかにできないことをできることに変えていくか、その方法をどう考えるかということが大事なんです」

齋藤「堀木さん、ほかにももっといろいろやられたら(笑)」

堀木「私、モットーが『要望に沿う』ということなんです。すべての始まりは要望からなので、要望があれば取り組みます。包帯パンツの素材開発をお手伝いしたこともありますし、テント会社のアドバイザーにもなりました。できないことはないという考え方が重要なので、必ずその会社のデザイナーや開発者と組んで、不可能を可能に変える面白さを知ってもらおうと思っています。一度原点に戻って、これの良さは何で、ほかの素材との違いは何で、何が魅力で今日までそのものづくりがつながってきたのかということを考えて、その核をピックアップして広げていけばいいので」

齋藤「エルメスの話をすると、馬の鞍を作っていたエルメスが、馬がいなくなって自動車が出て来たときに何を作るかというと、エルメスの職人の技術の原点は革を縫い合わせることだと。特に鞍は人の命を預かるものだから、ほどけたりしない特別な縫い方をしている。それをバッグに応用することで、丈夫で一生使えるバッグができたわけです。要するに職人が大事なのは、革という素材をそういうふうに縫い合わせて丈夫なものを作ることなので、それなら鞍と違うものを作ってもいいと」

堀木「その時代の要望に合わせて思考すればいいわけですからね」

 

物の定義とは

堀木「今、本物がわかる人が少なくなっていますよね。例えば、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて素晴らしいと言っても、出汁の味を知らない子供たちが大人になって出汁をおいしいと思うかわからないし、本物の定義がどうなっていくのか不安になってくる。そこで本物とは何だろうと考えてみたんです。丹波にちりめんの生地を見に行ったことがあったのですが、壁一面に並ぶ微妙な色合いの糸がすごく美しくて。糸からちりめんになる工程を見学して、糸も、紡ぐ人も、手作業の機械も、もちろん生地や着物も、本物は、どの段階を切りとっても美しいのだと思いました。結局、本物とは、すべての段階で最高の次元を追求しているもので、例えば私たちが水を打っている姿も美しく見えないといけないし、和紙が経年変化しても美しくないといけない。見えないところまですべてに意識があることで結果がでるのですね」

齋藤「大工さんの仕事も、素晴らしい大工さんは見えないところがすごいですよね」

堀木「だからこそ、ものの背景にある精神性につながると思うんです。もの作りをする人たちが、自然に対する畏敬の念や命に対する祈りの気持ちを込めて、どこにも気を抜かずに最高の結果につなげていく。そういう繰り返しが、伝統を継承し、新たな文化を生み出すこととなっていくのだと思います」

齋藤「今日は本当に説得力のあるお話を沢山聞かせて頂いて、大いに得をした気分です。今後もますますのご活躍を期待しています」

 

 

 

<プロフィール>

堀木エリ子&アソシエイツ代表・和紙作家
堀木エリ子

1987年SHIMUS設立。
2000年(株)堀木エリ子アンドアソシエイツ設立。
「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに、
2700×2100mmを基本サイズとしたオリジナル和紙を制作。
和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。
近年の作品は、「東京ミッドタウン」「パシフィコ横浜」のアートワークの他、
バカラとのコラボレーション、ニューヨークカーネギーホールでの
「ヨーヨー・マ・シルクロードプロジェクト」の舞台美術等。
「和紙のある空間 - 堀木エリ子作品集」(エー・アンド・ユー)、
「堀木エリ子の生きる力~ソリストの思考術」(六耀社)、
「挑戦のススメ」(ディスカヴァー)など著書多数。

 

文・山本真由美 写真・伊藤信