写真が第6芸術と定義された19世紀、さまざまな写真技法が開発された。プラチナプリントはそのひとつだ。1873年にイギリスで発明され、時代を超える耐久性と表現の豊かさを併せ持つことから、世界最高峰と称される写真印画法だ。一度は廃れたが、近年再評価されている。
プラチナプリントは、科学的に安定性の高い金属である白金(プラチナ)を利用して写真を焼き付ける技法。優れた保存性を有し、そのプリントは500年以上美しい状態で保たれることが実証されている。最大の魅力は、色の階調の幅が非常に広いこと。とりわけ漆黒の締まり、白に至るグレーの調子は無限であり、その階調の幅広さが色調豊かな滑らかさや、ディティールといった優雅さを作品にもたらす。
株式会社アマナは、世界最高レベルのプラチナプリントを企画・制作するamanasaltoによる、田原桂一、クー・ボンチャン、サラ・ムーンの作品展をアートフォトの専門ギャラリーIMA galleryにて開催中だ。3人のアーティストが、それぞれにプラチナプリントに挑んでいる。
田原桂一が終生表現しようとしたものは光だ。1972年に渡仏、日本の光とは違うヨーロッパの光の強さに魅了され、パリで写真家としての活動を始める。ヨーロッパでの評価が高いアーティストだ。
本作「IN-BETWEEN」で、地層のように何層にも堆積された過去の記憶と痕跡は、田原が映しだす光によってプリズムが乱反射するが如く、共鳴し、細分化し、あらたに派生し、際限なく新しい意味と感覚を生成する。それゆえ個人の記憶と経験を超えた、私たち人類に潜在する記憶が幾重にも交差し、邂逅を果たす概念的な場といえるかもしれない。


White Vessels © Koo Bohnchang
クー・ボンチャンは韓国を代表する写真家。飾り気のない素朴な陶磁は、「用の美」を唱えた柳宗悦をはじめ欧米や日本の民藝運動家たちを魅了し収集されてきたため、今では主に海外における美術館の収蔵品となっている。その経緯を知ったクー・ボンチャンは、海外に散逸した母国の遺産を追い求め、美術館やコレクターのもとに赴いては一つひとつを丹念に自身のカメラに収め、写真作品として残してきた。
作品「White Vessels」は、2006年に日本民藝館(東京・駒場)の協力を得て、柳宗悦が収集した白磁コレクションを撮り下ろしたシリーズから、作家とともに厳選したイメージを新たにプラチナプリント作品として制作したものである。韓国から旅してきたこの白磁は、クー・ボンチャンを日本へといざなった。プラチナプリントに収められ、今度は500年の時を旅する。


Horizon © Sarah Moon
サラ・ムーンは1941年フランス生まれ。モデル業のかたわら写真を撮り始め、70年から写真家として活動を開始。ファッション誌のエディトリアルやトップブランドの広告キャンペーンのほか、コマーシャル制作、映像なども手掛る。夢の中の物語のような幻想的な作品に魅了された熱狂的なファンを世界中に多く持つ。
この「Horizon」シリーズは、普段のファッション写真や演劇性のあるセットアップされたシーンではなく、90年代初頭から2014年にかけて旅したヨーロッパ各地の風景をモノクロームでとらえてきた作品から構成されている。
今回、本シリーズにて初めてプラチナプリントを試みたサラ。彼女の強い希望により、日本製の透けるように薄い土佐和紙を用いたプリントは、まるで宙に浮いているかのように額装され、オブジェのような作品に仕上がっている。些細な微風にも揺れるような繊細でいて儚げな存在感が、イメージを際立たせるとともに新たな魅力を引き出すことに成功している。
プラチナプリントを介し、3人のアーティストが日本の感性と美意識に呼応していることを発見するこの作品展は残すところあとわずか。プラチナプリントの豊かなモノクロームの世界観と対峙してみてほしい。
◆「amanasalto プラチナプリント作品展 – 田原桂一、クー・ボンチャン、サラ・ムーン –」
2019年5月13日(月)~5月25日(土)
11:00~19:00 日曜・祝日休/無料
IMA gallery:https://imaonline.jp/imaproject/ima-gallery/
amanasalto: http://amanasalto.com/
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