ユネスコ無形文化遺産に登録された本美濃紙を用いたモビールオブジェによるインスタレーション「Honminoshi Garden」

Style

Living in Japanese Senses

内田繁とアトリエ・オイをつなぐ感性(後編)

2019.5.14

内田繁がマエストロ。
アトリエ・オイが継承した、日本の感性と美意識

2016年9月、東京・青山のスパイラルガーデンにおいてアトリエ・オイが披露したのは、ユネスコ無形文化遺産に登録された本美濃紙を用いたモビールオブジェによるインスタレーション「Honminoshi Garden」。日本の折り紙から着想を得た。

今も大切にしている、内田繁の1冊の作品集。
常に光が活かされたプロジェクトに強いインスピレーションを受ける

「日本の空間にとって、もっとも大切なことは自然とのかかわりである。日々刻々と変化する自然は、人びとの心に深くかかわりあった。自然こそ、すべての生活文化の基準であった。それは一方で、日本人の自然観そのものが日本の空間のデザインを決定してきたともいえる」(内田 繁『インテリアと日本人』 晶文社)

 

内田 繁の作品に影響を受け、日本の素材、技術、美意識にも関心を持って活動を展開するスイスのatelier oï(アトリエ・オイ)。彼らの造形もまた、美しき変化を特色とする。

 

アトリエ・オイは、パトリック・レイモン、オーレル・エビ、アルマン・ルイによって、1991年、スイス ラ・ヌーヴヴィルで活動を開始した。4月のミラノ・サローネ / ミラノ・デザイン・ウィークでも話題となった「ルイ・ヴィトン オブジェ・ノマド コレクション」の家具デザインを始め、ブルガリ、オメガ、リモア、アルテミデなどのプロダクトをデザインしており、日本でも岐阜のプロジェクトに関わっている。


アトリエ・オイデザインによる「ルイ・ヴィトン オブジェ・ノマド コレクション」の最新作「SERPENTINE TABLE」 アトリエ・オイデザインによる「ルイ・ヴィトン オブジェ・ノマド コレクション」の最新作「SERPENTINE TABLE」

アトリエ・オイデザインによる「ルイ・ヴィトン オブジェ・ノマド コレクション」の最新作「SERPENTINE TABLE」

岐阜県のメーカー、オゼキとの協働で生まれたランプ「Fusionoi」 岐阜県のメーカー、オゼキとの協働で生まれたランプ「Fusionoi」

岐阜県のメーカー、オゼキとの協働で生まれたランプ「Fusionoï」


彼らが内田の作品に出会ったのはアトリエ・オイとして本格的に始動する前のことで、30年ほど前に遡る。内田繁の作品集『Interiors of Uchida, Mitsuhashi and Studio 80』(TASCHEN社)を目にして感銘を受けたのが始まりだった。

 

レイモンが振り返る。「学生時代から書籍を通して三宅一生さんや倉俣史朗さんの活動に触れ、奥深い日本の文化や独自の美学、空間に魅了されているなかで、内田さんの作品集に出会ったのです。内田さんのプロジェクトでは常に光が活かされています。多くを学んできました。また小さなスケールから大きなスケールへと、固定されているのではない表現にも強いインスピレーションを受け、興奮さえ覚えたほどです」。

1987年に発行された『Interiors of Uchida, Mitsuhashi and Studio 80』(TASCHEN社)。アトリエ・オイの3人の内田繁との出合いは、この作品集がきっかけ。 1987年に発行された『Interiors of Uchida, Mitsuhashi and Studio 80』(TASCHEN社)。アトリエ・オイの3人の内田繁との出合いは、この作品集がきっかけ。

1987年に発行された『Interiors of Uchida, Mitsuhashi and Studio 80』(TASCHEN社)。アトリエ・オイの3人の内田繁との出合いは、この作品集がきっかけ。

「連続する柱で区切られた空間や、ゆらぐ水の表現など、内田さんの作品は自然の表情そのもの。ムーヴメントという概念を感じます。変容であり、生命をもたらす動きです。オブジェクトとは静的なものであると考えられがちですが、動的な要素が内包されているものなのです」

 

均整のとれた「かたち」やその関係性を徹底して探究することから始まる内田繁の空間、家具デザインと、素材の可能性を徹底して探った後にストーリーを展開していくアトリエ・オイ。デザインのアプローチは異なるものの、生命力ともいえる動きを内包する表現を感性豊かに実現している点で、共通している。

 

「僕たちはスイスに生まれ、日本の美意識、素材、技術に興味を持ってきた。内田さんの活動は日本のエッセンスを軸としながらもイタリア的なデザインの要素があったことも興味深いことです」。内田の作品集は何度手にとったかわからない、とレイモン。

内田繁デザインの茶室「山居」のオリジナル。エンソウ アンゴに設置されているのはこちらの木素地をいかしたバージョン。 内田繁デザインの茶室「山居」のオリジナル。エンソウ アンゴに設置されているのはこちらの木素地をいかしたバージョン。

内田繁デザインの茶室「山居」のオリジナル。エンソウ アンゴに設置されているのはこちらの木素地をいかしたバージョン。


2014年に初来日した際に内田繁を訪ねたアトリエ・オイの3人。西麻布にあった、当時の内田デザイン研究所にて。 2014年に初来日した際に内田繁を訪ねたアトリエ・オイの3人。西麻布にあった、当時の内田デザイン研究所にて。

2014年に初来日した際に内田繁を訪ねたアトリエ・オイの3人。西麻布にあった、当時の内田デザイン研究所にて。

ものごとは常に変化を遂げ、同じではないのだということ。
手がけるオブジェによって豊かな状況、豊かな世界を創出することができる。

アトリエ・オイの3人が内田繁に初めて会ったのは2004年、ミラノ・サローネ / ミラノ・デザイン・ウィークでの「HANA展」の会場だった。日本での再会は2014年。岐阜県のプロジェクトに招かれたアトリエ・オイは、美濃和紙を用いた照明器具づくりで知られる浅野商店で内田がデザインした照明器具「ペーパー・ムーン」を直に目にする。3人は東京に移動するとまっさきに、内田デザイン研究所を訪ねた。

 

「自分たちのプロジェクトを紹介すると、内田さんは、『僕の理念と通じるものがあるね』と言ってくださった。『内田さんは僕たちのマエストロです』と答えました」

 

以来、親交を深め、内田が監修するギャラリーで展覧会も開かれた。内田デザイン研究所のスタッフの出張先を記すボードには「パトリック:スイス出張中」とユーモアに満ちた表記が目にできる。温かな交流の様子を知る。

 

 

2016年9月、アトリエ・オイは都内のスパイラルガーデンにおいて本美濃紙を用いたモビールオブジェによるインスタレーション「Honminoshi Garden」を披露した。アトリウム上部から注ぐ「不規則にきらめく美しい光の表現へと転化させる」作品は多くの人々を魅了し、来場者のなかには内田繁の姿もあった。その2ヶ月後、永眠。お別れの会の会場には、「Honminoshi Garden」が静かに、やさしく、浮遊していた。

スパイラルガーデンで開催された「Honminoshi Garden」のインスタレーションを見上げる内田繁。 スパイラルガーデンで開催された「Honminoshi Garden」のインスタレーションを見上げる内田繁。

スパイラルガーデンで開催された「Honminoshi Garden」のインスタレーションを見上げる内田繁。

「光を例とするように、『物質的ではない』ものが活かされ、動きが表現されていたのが内田さんの作品でした」とレイモン。「ものごとは常に変化を遂げ、同じではないのだということ。また、手がけるオブジェによって豊かな状況、豊かな世界を創出することができるのだということも、内田さんは僕たちに気づかせてくれた………」


アトリエ・オイとガラス作家の梶原雅之の協働により誕生したテーブルウェアは2019年4月のミラノ・デザイン・ウィークで発表されたもの。 アトリエ・オイとガラス作家の梶原雅之の協働により誕生したテーブルウェアは2019年4月のミラノ・デザイン・ウィークで発表されたもの。

アトリエ・オイとガラス作家の梶原雅之の協働により誕生したテーブルウェアは2019年4月のミラノ・デザイン・ウィークで発表されたもの。

マエストロから学び続けてきたことを糧に、アトリエ・オイの活躍の場はさらに広がっており、どれも世界的な注目を集めている。和紙、刃物、陶器と異なる素材や技術を活かした岐阜県のプロジェクトは、ミラノ・デザイン・ウィークでの紹介を経て、現在商品化も実現され始めている。ガラス作家の梶原雅之とつくりあげたテーブルウェアは、2019年4月に開催されたミラノ・デザイン・ウィークの際にミケランジェロ財団主催の「Doppia Firma」展で披露された。

2015年9月にグランビスタギャラリー サッポロで開催されたアトリエ・オイの「FORM FOLLOWS EMOTïON」展 2015年9月にグランビスタギャラリー サッポロで開催されたアトリエ・オイの「FORM FOLLOWS EMOTïON」展

2015年9月にグランビスタギャラリー サッポロで開催されたアトリエ・オイの「FORM FOLLOWS EMOTïON」展

レイモンの愛読書は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』だという。同書のなかで谷崎は、「なんでもないところに陰影を生ぜしめて、美を創造する」東洋の美意識に触れていた。「美は物体にあるのではなく、物体と物体とのつくり出す陰翳のあや、明暗にあると考える」と。

 

光のあやのように繊細な美意識を大切にして、豊かな美の創出がなされている状況が、内田繁とアトリエ・オイの世代や文化の違いを超えて存在し、現代のデザインとして実現されていることの醍醐味を改めて考える。さまざまな人々の出会いを通して、時代のなかで生きる文化の本質が探られていることの楽しさを実感する。

 

「エンソウ アンゴでの内田デザイン研究所とのプロジェクトが重要なのは、それぞれのヴィジョンをかけあわせることができるから」とレイモン。そのことが心地よい魅力となって、私たちに伝わってくるのだ。

 

(敬称略)

内田 繁 Shigeru Uchida

インテリアデザイナー

1943年生まれ。1970年に内田デザイン事務所(2005年に現内田デザイン研究所に改称)、1981年にスタジオ80を設立。代表作に山本耀司のブティック、神戸ファッション美術館、茶室「受庵 想庵 行庵」、クレストタワー内部空間等。ホテル イル・パラッツォ、門司港ホテル、京都ホテル・ロビー、オリエンタルホテル広島、ザ・ゲートホテル雷門、札幌グランドホテル等、ホテルの総合的なデザインにも取り組んだ。毎日デザイン賞、芸術選奨文部大臣賞等受賞。2007年、インテリアデザイナーとして初の紫綬褒章を受賞。専門学校桑沢デザイン研究所所長を務める(2008-2011年)。2016年永眠。『インテリアと日本人』(晶文社)、『茶室とインテリア』(工作舎)、『普通のデザイン』(工作舎)、『戦後日本デザイン史』(みすず書房)など著書多数。メトロポリタン美術館、デンバー美術館、コンラン財団、M+美術館等で作品の永久コレクションがある。

 

 

アトリエ・オイ atelier oï

建築・デザイン スタジオ

1991年、パトリック・レイモン、オーレル・エビ、アルマン・ルイにより、自然豊かなスイス、ラ・ヌーヴヴィルで活動を開始。素材を徹底して探究したうえでのデザイン活動を展開しており、「ルイ・ヴィトン オブジェ・ノマド コレクション」の家具をはじめ、B&B イタリア、アルテミデ、フォスカリーニ、デサルト、USM、ブルガリ、リモア等、多くのブランドの製品デザインや建築デザイン・シノグラフィーを手がける。坂 茂の設計となる銀座、ニコラス・G・ハイエックセンターのインテリアデザインの一部も担当。岐阜県との連携プロジェクトでは飛騨産業との家具、オゼキとの照明器具、26代藤原兼房・長谷川刃物との日本刀、深山・芳泉窯・幸兵衛窯との陶磁器を発表。2018年、チューリッヒ・デザイン・ミュージアムで大規模個展が開催に。作品集『atelier oï: How Life Unfolds』(ラース・ミュラー・パブリッシャーズ)を2018年刊行。

 

 

→内田繁とアトリエ・オイをつなぐ感性(前編)はこちら

 

Text by Noriko Kawakami
Photography by Ooki Jingu ,Louis Vuitton Malletier, © atelier oï ,Michinori Aoki. © Laila Pozzo for Doppia Firma – Michelangelo Foundation for Creativity and Craftsmanship, Fondazione Cologni dei Mestieri d’Arte and Living Corriere della Sera, Kenzo Kosuge
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