IWAIWA

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PREMIUM JAPAN AWARD

PREMIUM JAPAN AWARD 2026

2026.9.30

日本酒の境界を越えて。白岩「IWA」がもたらした革新と独創性

富山・立山町に蔵を構える白岩は、ドン ペリニヨンの醸造最高責任者を28年務めたリシャール・ジョフロワさんが手がける日本酒ブランド「IWA」の拠点である。伝統的な酒造りに、複数の酒を組み合わせる「アッサンブラージュ」の発想を取り入れ、日本酒の新たな可能性を切り拓いている。 その日本文化への敬意と革新性、国際性が評価され、「PREMIUM JAPAN AWARD 2026」を受賞した。

 

 

 


日本酒業界に黒船あらわる





日本酒業界の黒船ともいわれる富山県の白岩。世界的なシャンパーニュ「ドン ペリニヨン」の醸造最高責任者を28年間にわたって務めたリシャール・ジョフロワさんが、7年前に始動した日本酒造りへの挑戦である。



1991年の初来日以来、毎年のように日本を訪れ日本の文化に親しんできたジョフロワさん。今でこそ旨みを口にしないシェフは皆無だが、フランス料理界ではその存在に懐疑的なシェフが少なくなかった90年代、日本の料理人とのコラボレーションを通じて旨みに言及したワイン醸造家の嚆矢(こうし)であり、その探究をつねに欠かさなかった。

そもそもシャンパーニュの醸造では、気泡を得る過程で生じる澱が瓶内熟成中にアミノ酸を生み出す。日本で旨みと出会う以前から、彼は旨みと密接に繋がっていたのだ。

そのジョフロワさんの興味をつねに惹きつけたのが日本酒だった。




フランスのシャンパーニュ地方ヴェルデュ村生まれのリシャール・ジョフロワさん。ワイン醸造を営む家系に生まれ、ワインが身近にある環境で育つ。医学を学んだ後、カリフォルニアの「ドメーヌ・シャンドン」でキャリアをスタートさせる。1990年に「ドン ペリニヨン」醸造最高責任者となり、28年間メゾンを牽引した。





赤ワインや白ワインの品質は、ブドウが育つ土地、すなわちテロワールの良し悪しが8割以上を握る。しかし、複雑な醸造工程を経て出来上がるシャンパーニュは、醸造家の技量がテロワールと同等に品質を左右する。

日本酒も原料となる米や仕込み水のテロワールは大切な要素のひとつだが、麹作りや酛(酒母)作りなどシャンパーニュ以上に工程が複雑で、優れた酒を造るには杜氏や蔵人の技量に負うところが大きい。変数が多いがゆえにさまざまな可能性を秘めており、シャンパーニュの醸造を極めた人物が第二の人生の目標として日本酒造りを選んだのは、ごく当然の成り行きといえよう。



世界的クリエーターたちとのコラボレーション





2018年をもってドン ペリニヨン醸造最高責任者の職を辞し、後任にすべてを託したジョフロワさんだが、日本酒造りの構想はその前から水面下で進められていた。プロジェクトの成功には日本でキーとなる人物の存在が不可欠と考え、まず連絡をとったのが世界的建築家の隈研吾さんだったという。

 

ふたりは15年来の交流があり、酒蔵を建てるなら設計は隈さんにと決めていたそうだが、このプロジェクトにおける隈さんの存在は単なる建築家にとどまらなかった。同じ醸造酒といってもワイン、シャンパーニュと日本酒とでは違いが大きすぎる。





そこで隈さんは水先案内人として、「満寿泉」で知られる枡田酒造の枡田隆一郎さんを紹介した。
酒蔵の場所が富山に決まったのもそうした経緯からだが、南に日本三霊山のひとつ立山が聳え、北には日本海が広がり、多くの起業家たちから注目を集める富山市がある。自然と人が共生し、伝統と革新が共存する富山は、新たな日本酒造りを目指すジョフロワさんにとって理想の場所だった。




外観 外観

南には飛騨山脈が広がり、日本三霊山の一つである立山が聳え立つ地に白岩はある。




酒蔵の建設地は富山市の南東、立山町の白岩地区。そこから酒蔵の名前も「白岩」と決まった。なんともシャンパーニュ地方のテロワールを象徴する白亜(チョーク)質土壌を想起させる名前である。隈さんにとっても酒蔵の設計は初めての試みで、ジョフロワさんとともに場所探しから始まったという。



富山駅から車で40分ほどかかる長閑な田園地帯。その景観を損ねることなく自然の中に溶け込んだ酒蔵が現れる。外観はストイックなまでにシンプルで、ここが世界に衝撃を与える新しい日本酒の生産拠点であることを示すような威圧感はない。

酒蔵の設計にあたり、ジョフロワさんが隈さんに依頼したリクエストは「ひとつ屋根の下」というコンセプトだ。これはジョフロワさんが五箇山を訪ねた際、その合掌造りの家屋からインスピレーションを得たものという。昔の農家はひとつ屋根の下に農作業をする場と日々の生活の場が一体となっていた。それを自分の酒蔵でも実現したいと考え、醸造設備のほかにキッチンや宿坊を備えた建築物としたのだ。さらに隈さんがこだわったのが”土間”だ。




土間 土間

建築家の隈研吾さんが手がけた建物。エントランスの先にある土間と呼ばれるレセプションルーム。



土間は農家の作業場、すなわち、ものづくりの現場であると同時に人々が集うコミュニケーションの場でもある。酒蔵に入ると、テーブルを囲む一角が一段低くなった大きな土間があり、ゲストを迎え入れ、時には食事を提供しながら語り合える場となっている。

 

そしてこの土間からガラス越しに醸造設備が見える。造りの基本は伝統に忠実ながら、設備自体は最新の機材を導入。ステンレス製のタンクが規則正しく並んでいる。このタンクの並びは、ジョフロワさんが京都の三十三間堂を訪れた際、1001躯が並ぶ千手観音立像に感動を覚え、それを模したものである。




白岩が造る日本酒の名前は「IWA 5」。IWAはもちろん白岩の岩、5は原酒の醸造に5種類の酵母が使われることに加え、米の品種、米の産地、酵母、酛、熟成と、IWAの醸造を構成する主要な要素が5つあることに由来する。そしてジョフロワさんによると、5は調和を表す数字でもあるらしい。

 

そしてパッケージデザインを手がけたのは、フェラーリ初のBEVもデザインした世界的プロダクトデザイナーのマーク・ニューソンさん。ほぼ漆黒に見えるダークブラウンの磨りガラスでできたボトルに、艶を帯びた白で「IWA」の三文字。ガラス製の栓、ヴィノロックを使用しているのも革新的だ。日本人以外は理解しづらい漢字表記ではなくシンプルなアルファベットにしたのは、当然、海外市場を意識してのことであろう。



仕込み部屋 仕込み部屋

仕込み部屋の窓からも美しい景色が広がる。




日本酒にシャンパーニュ造りの思想をもちこむ


このIWA 5が従来の日本酒と大きく異なる点をひとつ挙げるならアッサンブラージュである。

アッサンブラージュとはシャンパーニュの醸造では欠かせない概念で、ブドウ品種や収穫地、収穫年の異なる原酒を調合し、調和の取れたワインに仕上げることをいう。
日本酒は多くの場合、単一の酒米を単一年度に醸造して瓶詰めするが、IWA 5では山田錦、五百万石、雄町などの異なる酒米を用い、ワイン酵母も含めた5種類の酵母で発酵。

さらに異なる醸造年の原酒も加えることで、従来の日本酒では得難い、何層にも重なり合うレイヤーを獲得している。



さらにもうひとつ付け加えると、日本酒の世界に熟成という概念を持ち込んだ点である。日本酒は一般に瓶詰め後ただちに出荷されるが、IWA 5は最低18ヶ月寝かせた後にリリースされる。アッサンブラージュされた個々の原酒がなじみ、調和がとれるには十分な時間を要するからだ。



このように昔ながらの日本酒造りに、シャンパーニュ醸造のエッセンスを取り入れたジョフロワさんだが、ドン ペリニヨンでの経験が反映されているのはそうした技法的な要素よりもむしろ精神的、あるいは哲学的な側面だと話す。

そしてドン ペリニヨンの醸造において、ジョフロワさんがつねに追い求め続けたのは究極の調和であった。今、IWAに求めているのも調和であり、そのためのアッサンブラージュである。



麹室 麹室

杉材を使った麹室(こうじむろ)で麹作りをしている様子。



またジョフロワさんによれば、日本酒のあるべき姿、そのエッセンスを大切にしながら新たな分野へと広げ、なかんずく世界中の異なる食文化に対応させるには、従来からある日本酒の模倣では限界があり、ジョフロワさんならではの視点が必要だったという。

 

2020年に初めて世に出たアッサンブラージュ1を皮切りに、2、3、4、5、6と毎年新たなアッサンブラージュがリリースされているIWA 5。しかし、アッサンブラージュ6以降、ジョフロワさんのマインドにも変化が生まれ、それまで足し算によってアッサンブラージュに取り組んできたが、現在では引き算を取り入れるようになった。これは新たなサイクルを迎えたIWA 5の正常進化とジョフロワさんはいう。



世界で日本酒のとらえ方を変える存在に




まず日本で受け入れられたのち、IWA 5は現在、海外37カ国に輸出されている。飲食店でのセールスがメインだが、世界的に急増する和食のレストランが主戦場かと思えば必ずしもそうではなく、米国ではフレンチやイタリアン、それに他のアジア料理など和食以外のレストランが半数を超えるという。これはIWA 5のヴァーサティリティにあるとジョフロワさんは確信している。



ジョフロワさんによるとワインの風味は垂直的で、料理とのペアリングではどちらが主か従かを競り合う。
しかしその点IWA 5の水平的な風味は料理と競合することなく、有機的に寄り添うのだと語る。
興味深い一例として、ジョフロワさんはスパイシーフードとのペアリングを挙げる。IWA  5は純米大吟醸の酒だがぬる燗でも楽しめる稀有な存在で、冷酒だとスパイスばかりが強調されペアリングが崩れるが、ぬる燗のIWA 5ならきれいなハーモニーを奏でるという。



今日、日本酒業界の状況は厳しく、1980年代には約3,000あった酒蔵も、現在では約1,200まで減少し、実際に稼働している蔵はさらに少なく800程度といわれる。10年前と比較して日本酒の総売り上げは23パーセントも減少しているが、その一方で輸出は3倍に増えている。
海外で売られている日本酒は、いずれも気鋭の蔵元が職人技を駆使して仕込んだプレミアムな酒であり、IWA 5もその一翼を担う存在であることは間違いない。ジョフロワさんはこう語る。


7 7

2026年10月1日に発売の「IWA 5 アッサンブラージュ7」(720ml 15,730円 税込)。モダンな日本酒造りの優れた要素と、余分なものを削ぎ落とし、本質を研ぎ澄ます「Épure(エピュール)」の探求から生まれた。購入は、公式ウェブショップ https://iwa-sake.shop および専門店で。また厳選されたレストランやホテルにて提供される予定。


「私は日本を心から愛しています。そして日本の友人にとても感謝しています。このプロジェクトの目的は日本の忘れ去られた風土や文化を再認識し、古来から伝わる職人的技法に敬意を払いつつ、革新的で独創性に溢れる日本酒を生み出すことにあります。日本酒の未来が海外市場にあることは間違いありません。IWA 5は世界における日本酒の捉え方を大きく変えるものとなるでしょう。私はこのIWA 5で日本に貢献したいのです」。


Text by Tadayuki Yanagi

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