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Portraits

「茶禅華」川田智也の和魂漢才の哲学

2019.6.12

「茶禅華(さぜんか)」シェフ川田智也の「究極の中庸」を旨とする中国料理

東京・広尾の住宅地にある「茶禅華」は、一見中国料理の店には思えない。しかし、一歩店の中に入ると、そこここに中国の「趣(おもむき)」が散りばめられている。それは五本爪の龍の大皿だったり、台湾で買ったという湯沸かし用アルコールランプだったりする。しっとりと落ち着いたインテリアは、シンプルな見た目の料理の印象と重なっている。

 

シェフの川田智也は中国料理の「麻布長江」で働き、その後に「日本料理 龍吟」で日本料理を経験した。日本の素材を使うなら、日本料理の料理法を知りたいと思ったからだ。日本料理店の中でも、繊細さと迫力を併せ持つ「龍吟」に教えを請いたいと考えた。

 

「『龍吟』の山本征治さんにお願いして、東京で3年、台湾店の副料理長として立ち上げのときに2年、働かせてもらいました。日本料理の食材の手当て、生かし方、考え方、すべてがとても勉強になりましたね。見えるものも変わりました。台湾では地元の食材で日本料理を作る、今と真逆の仕事でした。その経験も大きかったです。台湾は日本の統治時代が50年間ありましたから、日本料理の影響も受けていて、鰹節、昆布は当たり前のように使います。これもおもしろいと思いました」

 

日本料理の修行後、川田は2017年に「茶禅華」を開店。その料理は、「和魂漢才(わこんかんさい)」の哲学で作られている。繊細な味わいながらうまみの余韻が長く、素材の持ち味をじっくりとわからせてくれる。

冷茶はワイングラスで出される。グラスの形のおかげで香りがよくわかる。この日の冷茶は京都の玉露だった。 冷茶はワイングラスで出される。グラスの形のおかげで香りがよくわかる。この日の冷茶は京都の玉露だった。

冷茶はワイングラスで出される。グラスの形のおかげで香りがよくわかる。この日の冷茶は京都の玉露だった。

ゆっくりと開いていく清香鉄観音茶(ちんしゃんてっかんのんちゃ)。爽やかな香りが立ち上る。 ゆっくりと開いていく清香鉄観音茶(ちんしゃんてっかんのんちゃ)。爽やかな香りが立ち上る。

ゆっくりと開いていく​清香鉄観音茶(ちんしゃんてっかんのんちゃ)​。爽やかな香りが立ち上る。


料理のように茶葉の深みを感じる、
新しい「ティーペアリング」を提案する

さらに、川田が長年研究してきた中国茶と料理を組み合せることで、「茶禅華」には独自の世界が生まれている。「ティーペアリング」と呼ばれる、料理に組み合わせるお茶のコースがそれだ。温かいお茶だけでなく、じっくり浸出した冷茶もあり、茶葉の産地も製法も違うので、飲み飽きるということがない。

 

「お茶をいれる場所は、お客様から見えるところにあり、茶葉を調理するという感覚なの で、調理場の延長と捉えています。お茶は食材の一部ですから、一番だしをひくような感覚です」と言いながら、川田はお茶をいれてくれた。

お茶をいれる川田の「一番だしをひくつもりで」という言葉が印象的だ。 お茶をいれる川田の「一番だしをひくつもりで」という言葉が印象的だ。

お茶をいれる川田の「一番だしをひくつもりで」という言葉が印象的だ。

「お茶はいれる道具によっても味が変わります。磁器の蓋碗(ガイワン)でいれてガラスの容器に入れ替えると、​お茶の性質をニュートラルに出してくれます。​焼き物の土の性質によってもお茶の味が変わると中国人に言われたときは眉唾ものだと思いましたが、実際にはそのとおりでした」

1. 太平猴魁(たいへいこうかい)
長さ7センチほどもある大きな茶葉をプレスして、釜入りにした緑茶。猿の王の墓から生えた茶樹から採られたという伝説がある。

 

2. 古樹銀針(こじゅぎんしん)
雲南省に生える樹齢600年になる古樹から採られた茶葉。繊細な味わいの白茶。

 

3. 大雪山野生茶(おおゆきやまやせいちゃ)
生プーアール茶という古い製法で作られている。普通のプーアール茶よりもフレッシュでフルーティー。

 

4. 翠峰茶(すいほうちゃ)
台湾の翠峰という山で採れる茶葉を中発酵にしたもの。アプリコットのような香りがする。

常時、40から50種類の茶葉を用意し、季節によって銘柄を変えていく。「お酒が得意でないこともあって、お茶は『麻布長江』時代からずいぶん試してきました。緑茶から発酵が進んだプーアール熟茶まで、日本のお茶よりかなり種類が多いですね。お茶は料理の余韻をさらに伸ばすものだと考えていますので、料理に最適のティーペアリングを提案することにしました」

 

中国では各地方で作られるお茶を飲むのが一般的だ。北京ならジャスミン茶や鉄観音が主流で、龍井(ロンジン)なら龍井茶になる。川田は、日本でさまざまな茶葉を揃えることも、一つのオリジナリティにもなると考えている。「春は軽やかな低発酵な烏龍茶、夏はすっきりとした高山茶、秋冬になってきたら岩茶(がんちゃ)とか山東省の包種茶とかが飲みたくなってくる。スタッフで話し合って、飲みたくなってきたものを出しています」

 

現在人気なのが、ミックスペアリングというお茶とお酒両方を出す仕組みだ。「お客様のお好みでお酒を多めにしたり、お茶を多めにしたり。お茶もお酒も料理の余韻を切らないように考えています」

 

中国、台湾にはないスタイルの中国料理。川田智也は、日本でしか味わえない味の世界を作り上げている。

 

→「茶禅華」川田智也の和魂漢才の哲学(後編)へつづく
(敬称略)

川田智也 Tomoya Kawada
1982年生まれ、栃木県出身。調理師学校卒業後、18歳で『麻布長江』でアルバイトとして働き、2年後に入社。26歳で副料理長に就任後、28歳のときに日本料理『龍吟』で修業を開始する。台湾『龍吟』の立ち上げから参加し、副料理長を務めた後、退社。帰国後、準備期間を経て2017年2月に『茶禅華』をオープン。 同年12月にミシュラン東京2018 二つ星獲得。翌年にはMADRID FUSION 2018に参加、また5月にはDINNINGOUT Kunisaki with Lexusに参加。。2019年のアジアベストレストラン50にて初登場で23位に入賞。

 

茶禅華 Sazenka
東京都港区南麻布4-7-5
ご予約専用TEL:050-3188-8819
info@sazenka.com
営業時間:17:00~23:00 (Last Order 21:00)
定休日:日曜日・月曜日を中心に不定休
https://sazenka.com/

Photography by Noboru Morikawa
Text by Akiko Ishizuka

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