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Portraits

「茶禅華」川田智也の和魂漢才の哲学(後編)

2019.6.14

中国料理「茶禅華(さぜんか)」独自の世界「ティーペアリング」

川田智也は栃木県足利市の出身だ。小さい頃、四川料理店が家の近くにあった。麻婆豆腐、棒棒鶏、担々麺といった料理が特に好きだったという。

 

「幼稚園の頃から料理人になりたくて、中でも中国料理がいいと思っていました。中国という壮大なスケールの国に興味があって、漢字も好きでしたね。近くに足利学校があって、幼稚園が足利学校の隣だったので、儒教の教えに触れる環境で育ちました」

 

足利学校とは、中世に成立した高等教育機関。川田の言葉の中に「中庸」が出てくるのは早くから儒教に触れていたからかもしれない。「中庸」とは、足すことも引くこともできない状態。川田の料理は、まさにそのイメージだ。


味わいも、見た目も、その澄んだ
美しい料理はゆっくりと心に染み入る

例えば、キジのスープ。「茶禅華」の代表的な料理のひとつである「雉雲呑湯」。

クリアな味と余韻が印象的な「雉雲呑湯」。ワンタンにはキジ肉と少量のトリ肉のミンチが入っている。最後に季節の野菜(クレソン)を浮かべて。 クリアな味と余韻が印象的な「雉雲呑湯」。ワンタンにはキジ肉と少量のトリ肉のミンチが入っている。最後に季節の野菜(クレソン)を浮かべて。

クリアな味と余韻が印象的な「雉雲呑湯」。ワンタンにはキジ肉と少量のトリ肉のミンチが入っている。最後に季節の野菜(クレソン)を浮かべて。

「キジ肉は血ごと入れてスープストックをとり、その後清澄させます。丁寧にアクを引いて、真空調理器にかけたものを三日間氷の中で寝かせると、うまみが増えます。香りはお出しする前に清湯(チンタン)という方法で立たせます。調味料は15年ものの紹興酒しか入れません。金華ハムと昆布を少し加えて、沸いてから5分したら一番だしをひく感覚で取り出します」

キジ肉のミンチをスープストックに少しずつ入れていく。 キジ肉のミンチをスープストックに少しずつ入れていく。

キジ肉のミンチをスープストックに少しずつ入れていく。

その後加熱すると、ミンチにアクなどが吸着されていく。 その後加熱すると、ミンチにアクなどが吸着されていく。

その後加熱すると、ミンチにアクなどが吸着されていく。

ミンチは入れたまま、アクをひく。スープが黄金色に輝いてきた。 ミンチは入れたまま、アクをひく。スープが黄金色に輝いてきた。

ミンチは入れたまま、アクをひく。スープが黄金色に輝いてきた。

繊細な味のキジは煮込みに使ってもおいしくないが、スープにするといいという。すっきりとしていて味の面は広く、川田の求める日本の中国料理のうまさを語っている。

アワビのうまみが詰まったソースをかけた「清淡干鮑(チンダンカンパオ)」。 アワビのうまみが詰まったソースをかけた「清淡干鮑(チンダンカンパオ)」。

アワビのうまみが詰まったソースをかけた「清淡干鮑(チンダンカンパオ)」。

干しアワビの料理も、シンプルに仕上げている。

 

「干しアワビは35頭(1斤600gあたりの個数)と20頭を用意しています。日本の吉浜産がいちばんです。中心部に干しアワビの味が残っている程度の仕上げ方がいいと思います。アワビはブタとトリと一緒に煮ますが、ブタとトリのゼラチン質で戻るんです。以前、昆布だしで戻してみたら全然おいしくなくて、戻りも悪かったですね。中国料理の技術はすごいと思います」

干しアワビは岩手県大船渡市吉浜産。中国で最高峰とされている。 干しアワビは岩手県大船渡市吉浜産。中国で最高峰とされている。

干しアワビは岩手県大船渡市吉浜産。中国で最高峰とされている。

干しアワビは2日間水につけ、1日炊く。そこにブタとトリと金華ハムも入れる。少しの数の干しアワビでゆっくり炊かないとやわらかくはならない。 干しアワビは2日間水につけ、1日炊く。そこにブタとトリと金華ハムも入れる。少しの数の干しアワビでゆっくり炊かないとやわらかくはならない。

干しアワビは2日間水につけ、1日炊く。そこにブタとトリと金華ハムも入れる。少しの数の干しアワビでゆっくり炊かないとやわらかくはならない。

調味は紹興酒と中国醤油のみ。「清淡干鮑(チンダンカンパオ)」というこの料理は、寿昆布茶とペアリングする。爽やかな緑茶に寿字型に抜いた昆布が入っていて、底の方にいくほど昆布のうまみが感じられる。

 

「お茶と一緒になってこのお料理は完成します。アワビが食べている昆布のうまみを、後 から足すことにしたんです。中国の皇帝が愛したのはこういう味なんだろうなと思います」

 

この味を淡(タン)という。清(チン)は水に近い味、淡はさんずいに炎で力強さを持ち合わせている味だと考える。

 

「淡という漢字は好きです。いい漢字だなと思います。炎が入っていて、繊細なだけじゃなく強さを持ち合わせた感じです」

 

淡は和魂の水と漢才の火のせめぎ合いを字にしていると川田は考えている。「料理では中庸を大切にしています。足すことも引くこともできない状態、料理はそこに尽きますね。究極はそこにあると思います」

 

「茶禅華」のコースは徐々に盛り上がっていく。さまざまな季節の食材が使われていて、食べた後にも体が楽な料理でもある。とろみと油を少なくして、満腹になりにくくしているという。コース料理とはいえ、テーブルによってコースの中身が違う。日によっては、7種類くらいのコースが厨房で作られている。

 

「メニューは四文字で料理を表しています。話が盛り上がるように、中国語ではなく日本人がわかるような、漢詩のような雰囲気にしているんですよ。まずは読んでイメージしてもらいたいですね」と川田智也は微笑んだ。

 

→「茶禅華」川田智也の和魂漢才の哲学(前編)はこちら

(敬称略)

川田智也 Tomoya Kawada
1982年生まれ、栃木県出身。調理師学校卒業後、18歳で『麻布長江』でアルバイトとして働き、2年後に入社。26歳で副料理長に就任後、28歳のときに日本料理『龍吟』で修業を開始する。台湾『龍吟』の立ち上げから参加し、副料理長を務めた後、退社。帰国後、準備期間を経て2017年2月に『茶禅華』をオープン。 同年12月にミシュラン東京2018 二つ星獲得。翌年にはMADRID FUSION 2018に参加、また5月にはDINNINGOUT Kunisaki with Lexusに参加。。2019年のアジアベストレストラン50にて初登場で23位に入賞。

 

茶禅華 Sazenka
東京都港区南麻布4-7-5
ご予約専用TEL:050-3188-8819
info@sazenka.com
営業時間:17:00~23:00 (Last Order 21:00)
定休日:日曜日・月曜日を中心に不定休
https://sazenka.com/

Photography by Noboru Morikawa
Text by Akiko Ishizuka
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