港区北青山の閑静な住宅街の一角に中川政七商店 表参道店はある。西洋文化が広がる現代に自然と溶け込む日本の工芸品が、秩序を保ちながら並んでいる。奈良の地で創業し、303年の歴史を紡いできた中川政七商店は、日本の工芸品の世界に新たな風を吹かせようとしている。彼らはいま、日本のものづくりをどのように捉えているのか。そして、どんな未来を描こうとしているのか。日本のものづくりを支える彼らの根底には、時代の変化にさらされながらも、保ち続けてきた“軽やかさ”があった。
中川政七商店の屋号を掲げて初めての路面店「中川政七商店 表参道店」。同ビルの2階には東京事務所がある。
談・千石あや
ビジョンに共感する者が集まった会社だから、チームとして闘える
十三代 中川政七(現会長)から社長を譲り受けたのは2018年のこと。中川家以外の人間が社長になったのは初めてのことでした。長い歴史を持つ中川政七商店には、代々受け継がれてきた 社訓、社是と呼べるようなものは、何一つ残されていません。歴史や伝統を必要以上に重んじることなく、軽やかにその時代に合わせて業態を変えてきたからこそ、中川政七商店は激動の時代を生き抜くことができたのかもしれません。もし受け継がれてきたことがあるとすれば、それは“軽やかさ”なんじゃないかなと思っています。
“軽やかな企業”ではありますが、そこには全社員が心に留める、掲げるビジョンがあります。そのビジョンこそが「日本の工芸を元気にする!」というもので、これは中川政七が2007年に掲げたものです。私を含め、このビジョンに共感した社員と共に、日本のものづくりに変化を与えたいと思っています。十四代としてできること、それはトップダウン体制ではなく、社員全員で成長し続けてチームワークで挑む体制を築くことだと思っています。
2019年に開催された大日本市の様子。
中川政七商店が工芸を元気にする取り組みとして行っている事業の一つが、当社主催の合同展示会「大日本市」です。もともとは、自社で企画製造した商品やコンサルティングを行ったパートナー企業の商品をバイヤーの方たちに披露するための催しでしたが、2018年には全国の作り手に門戸を広げるようになり、今では一般公募も含め50を超える作り手たちが一同に集まる一大イベントに成長しました。
「大日本市」は日本国内で衣・食・住のものづくりを行う事業者を対象に行う合同展示会。
ここでは作り手たちが身振り手振りを交えながら、訪れるバイヤーの方たちに一生懸命に自らが生み出した商品をプレゼンしています。自分たちが作ったものを自分たちの言葉で伝える。それが一番本質が伝わります。ただ、普段は職人をされてる方も多く、接客自体が初めての方も多いのでお互い練習し合ったりと横のつながりも生まれています。また年2回開催される大日本市出展が彼らの商品開発の目標にもなっています。単純に大規模な展示会にしたいというよりも、「大日本市」は作り手にとっても、バイヤーの皆さんにとっても学びと発見の場でありたいと思っているんです。
2019年11月に渋谷スクランブルスクエアにオープンした、日本最大旗艦店である「中川政七商店 渋谷店」。ここは唯一4,000点を超える中川政七商店の商品がフルラインアップで揃う。
中川政七商店のヒット商品のひとつ「花ふきん」。花ふきんは奈良県産の「かや織」の生地で作られている。かや織は吸水性に優れ、乾きやすい。
日本のものづくりを100年後に残すために必要なことは何か。これは私たちの事業の柱の一つでもあるコンサルティング事業を行う上で、いつもクライアントにもお話しすることですが、経済的に自立することであり、ものづくりの誇りを取り戻すことだと思っています。日本の工芸の世界は、後継者不足の問題がありますが、ちゃんと食べていけて、仕事に誇りを持つことができたら、後継者不足は解消できるはずです。その為にも、日本の工芸品をありがたがるということではなく今の生活に寄り添ういいものを作り、ちゃんと何がどういいのかを伝えていくということが大切なのかなと思っています。
いまの日本の暮らしに寄り添うように、軽やかに工芸品をアップデートする。その手助けが、少しずつ成果を見せはじめているように思います。日本の作り手たちはいま、誇りを取り戻しつつあります。彼らが真の誇りを取り戻した時、日本の工芸品は、もっと多様性を見せるはずです。
→次は堀田将矢(株式会社堀田カーペット代表取締役社長)です。
(敬称略)
対象者:小売店バイヤー/行政関係者/プレス/出展検討中の工芸メーカー
会期:2020年2月5日(水)– 2月7日(金)の3日間
2月5日〜6日:10時〜18時 2月7日:10時〜15時
会場:B&C HALL 東京都品川区東品川2丁目1−3
お問い合せ先:中川政七商店 卸売課
*事前登録が必要です。
Profile
享保元(1716)年、奈良晒の商いが会社の歴史の始まり。奈良晒とは、麻の生平(きびら)をさらして真っ白にした高級な麻織物で、武士の裃(かみしも)や僧侶の法衣として使われてきたもの。18世紀に最盛期を迎えるがその後は衰退し廃業寸前にまで追い込まれる中、十代中川政七は奈良晒の自社工場をもつことで製造卸として商売を再建。パリ万国博覧会(1925年)にも出展した。戦後、十一代中川巖吉は機械化を選ばず、一部の生産拠点を海外に移して昔ながらの手績み手織りの製法を守る。十二代中川巌雄は茶道具全般を扱う卸へと事業を拡大。1985年には麻小物の小売「遊 中川」を立ち上げる。2002年、のちに十三代となる中川淳(中川政七)が入社。新ブランドの立ち上げ、直営店の開発に取り組む。2008年、中川淳が十三代社長に就任。コンサルティング事業の開始、新ブランド「中川政七商店」発表、合同展示会「大日本市」の開催など、新たな取り組みに挑む。2018年3月、十四代社長に千石あやが就任。先代は会長に就任し、コンサルティング・教育事業を率いている。
Profile
千石あや Aya Sengoku
第十四代社長
1976年生まれ。大阪芸術大学を卒業後、大手印刷会社に入社。デザイナー、制作ディレクターとして勤務。2011年中川政七商店入社。小売課スーパーバイザー、生産管理課、社長秘書、商品企画課課長、minoのコンサルティングアシスタント、山のくじら舎のコンサルティング、「遊 中川」ブランドマネージャー、ブランドマネジメント室室長を経験したのち、2018年3月、社長に就任。
Photography by ©Nakagawa Masashichi Shoten
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