日本有数のニット産地として知られる新潟県五泉市で、57年に渡って良質のニットを生産してきたサイフク。レディースニットを中心に、アパレルメーカーのOEM(受託生産)を行ってきた。そんなサイフクが2012年に自社ブランド「mino(みの)」を立ち上げ、新たな転機を迎えた。「mino」は雪深いこの地域を想起させる「蓑(みの)」にヒントを得たニット製のポンチョを展開するオンリーワンのブランド。サイフクが中川政七商店の千石あやと出会ったのは、このブランドの立ち上げを思い立ったころ。ブランドマネージャーの斉藤佳奈子は、千石らのコンサルティングを受けながら、大切に「mino」を育んできた。
談:斉藤佳奈子
サイフクは祖父母が立ち上げた会社で、当時からアパレルメーカーのOEMを中心とする事業形態でした。以前は、生産が追いつかないほど繁盛した時期もあったようですが、私がこの会社に入った十数年前は、すでに受注をとることが難しくなっていた時期。繁忙期と閑散期の差が激しく、1年を通じて、工場の稼働を平準化する課題がありました。そこで、2012年に自社ブランドを立ち上げて、自分たちでコントロールしながらものづくりを行なっていく体制に舵を切るために「mino」を立ち上げました。
色見本選びからニット制作はスタートする。3月28日(土)・5月9日(土)にサイフクのニット工場見学が実施される。
リンキングと呼ばれる、ニットの編み目を一目ずつ、針に通して縫い上げていく作業。
とはいえ、これまで数多くのアパレルメーカーさんとお取引をして続いてきた会社です。なんとか競合せずに、共存する形で自社ブランドを立ち上げたいと思っていました。また、それまでアパレル業界のものづくりを見て感じていたのは、生鮮食品のように商品サイクルが短いということ。自分たちが立ち上げるブランドでは、流行にながされることなく、単純な形で何年も長く使っていただける商品をイメージしていました。その考えに、ぴったりと当てはまったのが、minoでした。
古くから湧き水や地下水に恵まれた新潟県五泉市は、古くから絹織物の生産がさかんな地だったが、洋服の需要が高まりニット製造へと発展した。現在は日本一のニット産地。
蓑は、雪国で古くから生活に根付いてきた防寒着。新潟では、農家の軒先にボロボロになった蓑が吊るしてあるご家庭もあります。私たちは郷土資料館にも足を運び、古い蓑を探し歩くうちに、いろんなバリエーションの蓑に出会いました。例えば、新潟より北に行くと、木の皮を剥いだものが使われていたり、寒さが厳しい地域では素材も変わることに気づきました。こうして「蓑」のルーツをたどりながら、デザインや素材に関するヒントを得ていきました。
夏の五泉の風景(トップ画像と同じ位置から撮影)。夏の日差しや室内の冷房から身を守るsummer nicoは人気商品。
この蓑を単純なものづくりにこだわって作ったのが「mino」です。「mino」は広げると四角くなるのですが、ニット地の中心から縦にスリットを入れた羽織るタイプの「tate」、ニット地の中央から横方向にスリットを入れた被るタイプの「yoko」、ニット地に穴が2個空いていて着るタイプの「nico」の3タイプがあります。これらはいずれも、シンプルなものづくりから外れないように心がけながら作られたものです。
正方形のニット地の中央から横方向にスリットを入れた、かぶるタイプのポンチョ「yoko」。ベビーアルパカを使用。14,300円(税込)
一方で、「mino」という単純なものづくりだけでは、ニットの魅力を伝えきれていないと感じることがありました。ニットの魅力は、糸や編み方など、もっと複雑で奥深いところもあるという思いがだんだん強くなっていったんですね。そんな思いを実現したのが、今回新たに立ち上げた「226(つつむ)」というニットの総合ブランドです。
使用後のペットボトルをニットでつつんで花瓶にアップサイクルできる。くらしをつつむシリーズ1,650円(税込)
今回「226(つつむ)」では、「包む」をテーマにたくさんの雑貨を作っています。例えば、『くらしをつつむ』というテーマのもと、日用品をニットで優しく包んで、インテリアに馴染むようにしたり。また、『いつもをつつむ』というメッセージとともに、コンビニで買うコーヒーのカップをニットで包んでみたり。変わったところでは、スマホを包むためのものもあります。スマホを包むと画面が見えなくなってしまいますが、デジタルデトックスのような感じで、あえてスマホを包んでスマホを休ませる、スマホのお布団という発想で作っています。
熱々のコーヒーカップをつつんで持ち歩けるニットホルダー。ほっとをつつむシリーズ1,430円(税込)
サイフクでは、これまで57年間のニット工場のものづくりの中で、柄や糸がたくさん生まれてきました。「226」では、その膨大なアーカイブを活用し、雑貨やインテリアなどこれまでやってこなかったものづくりを行ないながら、ニットの新たな魅力を伝えていければと思っています。
以前より工場見学を実施しているのですが、それが大人気でわざわざ遠くから五泉市まで足を運んでくださる方も多いんです。私たちのものづくりは、無人の工場で原材料を入れたら向こう側から製品が出てくるというものではなく、人の手から人の手へと、たくさんの手が入るので、その現場を見ていただいています。感動されたお客様から「もっと大切に着ます」といった声をいただくと本当にうれしいです。
今後も、時代や使う人のニーズに合わせて、ものづくりを柔軟に変化させていければいいですね。
(敬称略)
斉藤佳奈子 Kanako Saito
有限会社サイフク 常務取締役 mino・226ブランドマネージャー
1978年生まれ。白百合女子大学を卒業後、家業であるニットメーカー「サイフク」に入社。大手アパレルのOEM生産を担当する営業を受け持つ。2012年にニットポンチョのブランド「mino」をスタートさせる。2019年には、五泉ニットの魅力を更に発信すべく新ブランド「226」を立ち上げ、衣服だけでなく雑貨アイテムを企画。毎月開催する「ニット工場見学」では、ニットの魅力やその工程を伝えている。
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