成人式や婚礼などをはじめ、晴れの場に欠かすことのできないきものや帯。美術織物の至高に名を連ね、多くの女流作家や女優に愛されながら、令和の現代においてもなお新鮮で格調高い龍村美術織物の粋美を、その礎を築いた初代龍村平藏の精神とともに紹介する。
蒔絵や金工などの日本工芸の精華を帯に再現する
陶芸や漆工芸の名品の姿かたちを、染めや織りで表す表現方法がある。いかに本歌、つまり実際の工芸品を、美しい構図で布としてリアルに表現できるか。それは技術とセンス、そして本歌へのオマージュをもって表現することにほかならない。
龍村美術織物の祖であり、染織の研究に心を砕き、近代染織の世界において名プロデューサーとして名を馳せた初代龍村平藏(1876〜1967)。その偉業のひとつとして、実際の工芸品を染色で表す如くの美があり、それは現代も受け継がれている。写真上の袋帯「漆彩大華錦(しっさいたいかにしき)」は、洋風建築の扉の装飾よりインスピレーションを得て製作されたもの。蒔絵技法の一種で高く盛り上げ、立体的に表現した高蒔絵や、貝の内側の七色に輝く部分を用いて作る螺鈿(らでん)細工などを用いた唐花文の扉を表現している。箔を貼った和紙を細かく裁断した糸を箔糸というが、漆箔、色箔などの糸を用いることで蒔絵の複雑な表情を見事に写している。
帯「耀映芳華錦」(龍村美術織物)
金工細工の透かし彫の技法を帯に表現
帯「装華遥映錦」(龍村美術織物)
寺院の柱を飾る装飾絵画を主題とした袋帯
時代は下がり、染織以外の名品を帯に写した袋帯が次々に生まれている。例えば写真中央の「耀映芳華錦(ようえいほうかにしき)」は、奈良県の寺院の寺宝の金工工芸を本歌としている。国宝である鎌倉時代最高峰と誉れ高い金工の舎利塔、その牡丹や竜胆(りんどう)の流麗、かつ繊細な唐草の金工の曲線や透かしを、帯では黒地に金糸で表現。また、振袖などに合わせたい華やかな「装華遥映錦(そうかようえいにしき)」は、寺院の柱を飾る装飾絵画を主題にした一点。柱に描かれた花菱文様と大小の宝相華(ほうそうげ。唐草文様の一種)が華やかな装いを演出する。
帯:龍村美術織物
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