アート・ディレクター、尾原史和は、「こども本の森 中之島」において、ロゴマークやオリジナルグッズから書架サイン、封筒や名刺などの印刷物まで数多くのデザインを手掛け、施設の斬新なイメージ作りに貢献した。クリエイティブ・ディレクターである幅允孝とは公私に渡り長い付き合いがある尾原は、同じ目線でコンセプトを考え、信頼が置ける“同志”としてプロジェクトを支えている。
談・尾原史和
「こども本の森 中之島」のプロジェクトでは、ロゴマークとオリジナルグッズのデザインの他、テーマ別の書架サインや封筒、名刺などのデザインをしました。一番初めに決定したのはロゴマークです。「こども本の森 中之島」は、これまでの公共施設の枠組みを超えるような仕組みづくりにも挑戦していこうとしています。ロゴマークに関しても、一般的に公共施設ではロゴマークを文字だけで展開していることが多いですが、それとは違う方法を考えながら作りました。施設名にある「こども」「本」「森」の3つのアイコンをデザインして使用することで、来館者と「こども本の森 中之島」の距離感を近づけることを考えました。シンプルにアイコンを「こども、本、森」と並べるとこどもたちは直感的に理解してくれるのではないかと思います。
3つのアイコンを配置した、こどもから大人まで対応のサイズ展開。KIDS 110/130各2,200円 M/L各2,700円
Phorography by Shunsuke Ito
安藤忠雄さんは少しでもたくさんのこどもたちに訪れてほしいとおっしゃっているので、硬いイメージの物を作って敷居が高いという印象を与えてしまうより、軟らかいイメージでオープンな印象を持ってもらいたいという判断です。オリジナルグッズにもアイコンを使いました。このアイコンがグッズやショッパーなどを介していろいろな場所に一人歩きしていってくれたら、それだけで「こども本の森 中之島」の認知度が高まりやすくなります。このアイコンを見て、「どこかで見たことがある」と思ってくれれば、それで十分だと思っています。
「こども本の森 中之島」のエントランス。
Phorography by Shunsuke Ito
書体についても、英語のロゴにはベースがありますが、日本語は僕が作りました。手書きのようなニュアンスがいいと思いましたが、手書きそのものだと、絵本のイメージに寄り過ぎる印象になります。こどものための本の施設とはいえ、幅さんが選書をするのは絵本だけではないと想像ができていたので、絵本の施設に見えてしまうのは避けたいと。シンプルに見えるけれど、手書きのような柔らかい印象で、来館者が身近に感じてもらえるものを考えました。
この施設では書架はもちろんですが、オリジナルアイテムを販売するショップをぜひ見てほしいですね。独立自営は簡単ではないと思いますが、公共の施設にはめずらしく経営の視点を持った運営を目指しています。ですので、何か一つでも手にとっていただけると嬉しいです。ショッパーも結構可愛いものに仕上がったので、喜んでもらえるのではないかと思います。
幅さんとはもう15年以上の付き合いになります。ずいぶんと時間が経ちました。公私ともに長い付き合いは続いており、一緒に仕事をする機会も多く、お互い考えていることがなんとなく分かるような関係で仕事もとてもやり易いですね。友人だからと惰性にはなることはなく、お互いそれぞれのプロフェッショナルとしてしっかり仕事をしながら同志でもある、とてもいい関係です。
1996年に開館の城崎温泉ゆかりの作家に関する展示を行う豊岡市立城崎文芸館。2016年秋に、城崎を訪ねる旅人や地元の方に、より深く愉しく文学に親しんでもらえる施設へ展示内容を大幅にリニューアル。ブートレグはアートディレクションを行なっている。
Photography by ©︎豊岡市立城崎文芸館
僕の「ブートレグ」という会社では、主に書籍や雑誌、カタログなどのエディトリアル・デザインの仕事がメインで活動しています。主にはクライアントから仕事を受注することが多いですが、我々の会社として写真集や画集の出版もしています。
ブートレグの仕事。左:『ATLENTIS』 Issue1 ブートレグで自社出版している不定期雑誌。中:『HEAVEN』中村桃子 イラストレー・アーティストとして活躍する中村桃子の作品集。右:『Loose』カワイハルナ 幾何学の立体物を組み合わせた独自の造形物を描くアーティスト、カワイハルナの新作ドローイング12点をおさめたポストカードセット。
また事務所の1階には「ブートレグ・ギャラリー」を開いていて、展示の仕事もしています。先日まで手製本の画集や版画、イラストなどの作品を作り続けている原葉太くんという高校生の初めての個展を開催しました。原くんとは偶然の出会いから、彼の作品に心惹かれて個展をやってみようと提案し、セレクトショップの「OUTBOUND」や「Roundabout」のオーナーである小林和人さんと一緒にキュレーションしました。高校生で個展を開催し、それがアーカイブにも残っていく、これによって彼の人生が変わるかもしれない、なんとも刺激的です。実際、かなり作品が売れ、仕事の依頼もあったようです。今回の「こども本の森 中之島」もそうですが、出合いのきっかけが生まれる場を作ることはとても面白いですね。
Profile
尾原史和 Fumikazu Ohara
アートディレクター/株式会社ブートレグ(元スープ・デザイン)代表。
1975年高知生まれ。雑誌や書籍、図録、ファッションカタログなどのデザインを中心として、店舗や展覧会のアートディレクションなど多岐にわたり活動。出版社としても写真集や画集などのアートブックや雑誌『ATLANTIS』を発行。1階はギャラリーを運営中。著書に『逆行』(ミシマ社)、『デザインの手がかり』(誠文堂新光社)、プロダクト作品『Rule Book』(E&Y)がある。
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