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京都通信

2025.8.14

【京料理講演会レポート第3回】歴史に学び、今を活かす──木乃婦三代目主人・髙橋拓児氏が語る京料理の「伝統と革新」

2025年5月14日(水)〜19日(月)の6日間、京都髙島屋S.C.にて「京都 食の博覧会」が開催されました。京のグルメを集めたこのイベントでは、京都府内各地の料理店・和洋菓子店のグルメやスイーツ、人気ベーカリーのパンなどが集結。特設スペースでは、日替わりで京都を代表する料亭3店による出汁の飲み比べ体験も行われるなど、伝統を受け継ぐ料理人たちの技と豊かな食文化を堪能できる絶好の機会となりました。




そして14日(水)〜16日(金)には、京の料理人による講演会も実施。伝承の技や和食の未来について、貴重なお話が繰り広げられました。




木乃婦 三代目主人の髙橋拓児氏 木乃婦 三代目主人の髙橋拓児氏

木乃婦 三代目主人の髙橋拓児氏




髙橋拓児氏[木乃婦 三代目主人]──歴史の中から新しさを見出す




3回にわたってお届けしてきた講演会レポートも、今回が最終回。この日は料亭「木乃婦」の三代目主人・髙橋拓児氏が登壇し、京料理の「本質」と「創造性」についてお話ししてくださいました。




京料理とは何か──情緒と技術の融合




京料理は国の無形文化財に登録されています。そこでは「京料理とは、京都の地で育まれてきた調理・しつらい・接遇・食を通じた「京都らしさ」の表現」であると定義されています。では、京都らしさとは?

 

講演の冒頭で髙橋氏が見せてくれたのは、下記の写真でした。




一見すると3つ並んだ「金団」のよう 一見すると3つ並んだ「金団」のよう

一見すると「金団(きんとん/餡を裏ごししてそぼろ状にしたものを餡玉や求肥にまぶした和菓子のこと)」が3つ並んでいるよう。




「実はこれ、アイスクリームなんです」と髙橋氏。3色のアイスクリームを裏ごししたものを金団風に仕立てています。




食籠に盛り付けられた金団風アイスクリーム 食籠に盛り付けられた金団風アイスクリーム

食籠に盛り付けると、アイスクリームも金団にしか見えない。まったく異なる印象に。







次に映し出されたのは、水ようかんのような一枚。

しかしこれも、和菓子ではなく、チョコレートでできた寒天なのです。




洋皿に盛られたチョコレート寒天 洋皿に盛られたチョコレート寒天

丸型でつくったチョコレート寒天。洋皿に盛ると、和の要素が感じられない。







いかにも水ようかんらしい佇まい いかにも水ようかんらしい佇まい

同じ材料を使っていても器や盛り方を変えると、いかにも水ようかんらしい佇まいに。




「イタリアンやフレンチのような料理は、うちの店では出しにくいです。でも、まったく同じ材料を使って盛り方や演出に工夫を凝らせば、なんとなく和食の店にもなじむ」

 

ここに“京料理らしさ”を考える上でのヒントがありそうです。




さらに例として挙がったのが、ブリ大根。家庭料理としてのブリ大根と、料亭で供されるブリ大根では、表現がまったく異なるといいます。

 

「ブリは薄くそぎ切りにして、大根は細かいおろし、粗いおろし、鬼おろしの3種類におろして合わせ、みぞれ鍋仕立てに。ニンジンは薄く丸くスライスし、細かく切った柚子皮をあられのように散らします。ブリの旬は、冬の時分。あられが降り、雪が積もって、非常に寒い。雪の下にはニンジンを越冬させて……という情景美を込めた料理に仕立てます」




美しく華やかなブリ大根 美しく華やかなブリ大根

大根は三角に、人参は丸く、切る形を変えることで家庭でも美しく華やかなブリ大根が作れる。




とくに京都では、高度な調理技術はもちろん、抒情的な表現力が欠かせないのだとか。

 

「うちの店に食べに来られるお客様は、ご来店前に寺社仏閣に寄って来られる方もいらっしゃいます。そこで過ごした雰囲気を持ったまま来られますので、その道程とともに季節の風情をまとった料理を楽しんでいただく。それが料理屋の考え方じゃないかと思います」




ブリ大根と同じ食材で生み出された風情ある景色 ブリ大根と同じ食材で生み出された風情ある景色

同じ食材でも表現を変えると、器のなかに風情のある景色が生まれる。




そして話題は、料亭と割烹との違いに移っていきます。

 

「割烹は、主にそのとき主人が作りたい料理を提供しますが、私たち料亭は非常に受け身です。お客様のご要望に応じた料理を用意できないと具合が悪い。ですから、料理長になる者は、創業当初からの料理─うちなら347品を、全部作れないといけないんです」と髙橋氏。




京料理の継承と創造─歴史に学び、今を活かす





革新ともよく言われますが、京料理の創造性とは、単に新しさを追い求めることではありません。決まった枠組みのなかで、工夫を凝らしていくことで、創造性豊かなものになるのです。

 

「時代が変われば、見え方も変わる。だからこそ、過去を見直すことで、新しい発見がある」と、歴史に学ぶことの重要性を強調されていました。




木乃婦は寺社仏閣への仕出しも多く手がけており、そこから学ぶことも多いのだそう。

 

「お寺さんごとに歴史的な背景やお好みがございますので、それぞれに合わせて味の加減、色合い、素材の扱い方などのルールを作っていきます。制約のあるなかで創意工夫を重ねることで、豊かな創造性が生まれてくるのです」




錚々たる寺社仏閣の御用達となっている木乃婦 錚々たる寺社仏閣の御用達となっている木乃婦

料亭のイメージが強い木乃婦だが、創業当時は「仕出し」が専門。そのため、京都一円の錚々たる寺社仏閣の御用達となっている。




工夫という点では、近年増加しているベジタリアンやヴィーガンの方への対応も、伝統的な精進料理の技術を応用しているそう。

 

「たとえば、カボチャを雲丹に見立てて調理することで、ベジタリアンの方でも、同席する他のゲストと同じ料理を共有することができる。同じものを食べている感覚で食事が楽しめるので、とても喜ばれます。精進料理においてこういった、本来とは異なる食材で味や食感、見た目を似せて作る“もどき料理”がどうして生まれたのか。それはやっぱり、おもてなしの心だと思います」




カボチャのペーストを雲丹に模した一皿 カボチャのペーストを雲丹に模した一皿

雲丹のように見えるのは、カボチャのペースト。塩加減を強めにして、味わいのバランスも近づけている。




最後に語られたのは、「名物をつくる」ということについて。それは料理人にとって、永遠のテーマだといいます。

 

「名物は、型から外れなければ生まれない。僕らは常に、これを名物にしようと思って料理をつくっています」そう語る髙橋氏が考案したのが、「ふかひれ胡麻豆腐」です。




木乃婦の名物「ふかひれ胡麻豆腐」 木乃婦の名物「ふかひれ胡麻豆腐」

木乃婦の「ふかひれ胡麻豆腐」。考案から四半世紀が経ったいま、根強いファンを持つ名物料理となった。




ふかひれは中華料理の食材だという思い込み。それを軽やかに塗り替えたこのひと皿は、いまや押しも押されもせぬ名物となっています。

 

近年は「“季節性”のローストビーフ」も好評。「実山椒や青柚子、葉唐辛子、きのこなど、時期によってソースをガラッと変えて、ローストビーフに季節感を与えました」




実山椒のローストビーフ 実山椒のローストビーフ

旬の時期にしか味わえない、実山椒のローストビーフ。




これまでのお話を踏まえ、立ち戻ったのは「京料理とは何か」という問い。

 

その答えとして「京都の人々が日々の暮らしの中で食べ続けられる料理でなければ、京料理とは言えない。皆さんが良いと思えるような料理こそが、京料理なのだと思います」と語り、講演を締めくくりました。




料亭「木乃婦」の個室 料亭「木乃婦」の個室

1935(昭和10)年、畳10畳ほどの仕出し屋からはじまった料亭「木乃婦」。いち早くワインと京料理のマリアージュを提案したことでも知られている。




【京料理 木乃婦(きのぶ)】
住所 京都市下京区新町通 仏光寺下ル岩戸山町416
TEL 075-352-0001
営業時間 昼の部12:00~15:00(L.O.13:30)、夜の部18:00~21:30(L.O.19:30)
定休日 不定休
HP http://www.kinobu.co.jp/




3日間にわたって開催された京料理講演会。

登壇されたお三方のお話から、京料理の豊かな世界にあらためて触れることができました。




Text by Erina Nomura

 

野村枝里奈
京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。







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