世界の伝統工芸を紹介するウェブサイト『マイスターストラーセ 日本版』。そこに集う、素晴らしき日本の匠たちを紹介していく。今回は、京都の和傘店 日吉屋である。
1000年前に仏教とともに伝来したとされる和傘を、約160年間、5代にわたり京都で製造している和傘店がある。それが日吉屋だ。一般には、雨具としてとらえられている和傘は、本来、高貴な人物を陽射しや魔物から守るものであり、身分の高さを示す権威の象徴のような道具であった。それが雨具に用いられるようになるが、時代とともにライフスタイルが変化し、現在、京都で京和傘を製造するのは、日吉屋ただ一軒だけである。
日吉屋の和傘の製造工程の様子。日吉屋では、一般向けの和傘のほかに、お茶会の野点傘や、祇園祭、葵祭といった祭礼の傘修理も手掛けている。
5代目の信条、「伝統は革新の連続である」
「さまざまな文化のなかで日本の伝統を担う意味がある」と日吉屋5代目当主である西堀耕太郎氏は話す。ライフスタイルが大きく変わるのは現代だけの話ではない。先人もそうであったはずで、自分たちも変化に対応していかなくてはいけないというのが彼の考えだ。とはいえ、いま、和傘は和装の小物としての意味合いが強い。
「和傘を現代の生活にそのまま使うのは無理があります。でも、その時代において、いま求められる工芸、お洒落だと評価してもらえる製品づくりの努力が必要」と西堀氏。彼自身も、店主でありながら和傘職人である。その信条は「伝統は革新の連続である」との言葉だ。
日吉屋5代目当主 西堀耕太郎氏 photo by Yoshinori Yamazaki
伝統を継承しながら進化し、照明器具へとメタモルフォーゼした和傘
彼の説明によると、開閉式の和傘が生まれたのは、安土桃山時代のこと。そして、江戸時代に防水技術が発達し、現在の和傘の形に落ち着いた。和傘が普及したのは、開閉できる技術があったからこそ。つまり、過去にも革新があった証にほかならない。そんな歴史を踏まえ、西堀さんが思いついたのは和傘の開閉構造を転用した照明器具だ。
傘の製造で、和紙を乾燥させるため天日干しをする工程がある。作業中、西堀氏が目にしたのは和紙を通した太陽光の美しさ。優しい光は、ランプシェイドでは内側からの光となって見るものを魅了する。これなら、和傘づくりの技術は時代に即しながら継承され、失われることはない。もちろん、従来の和傘も製造は続いている。伝統の継承と進化を同時に行う、機転の利いたアイデアに脱帽する。
日吉屋の開発したランプシェード。ペンダント、フロアスタンドなど、バリエーションがある。
ランプシェードは、住宅のほかホテルなどでも使用されている。
日本の優れた工芸を守り育み世界へ。「マイスターストラーセ日本版」への思い
また、西堀氏は、日本の優れた工芸を継承・発展させるためにウェブサイト「マイスターストラーセ」日本版の運営も行っている。このサイトは、世界中の工芸品を紹介する目的で、オーストリアで生まれたもの。その日本版を立ち上げ、世界に日本の優れた工芸を発信しようというのだ。すでに日本国内のさまざまな工芸に関わる職人たちとの活動も始まっており、プロジェクトは順調に進行中だ。
時代とともに使われる機会の少なくなったとはいえ、和傘の素晴らしい技術は使い方次第で、まだまだ進化の余地はある。京都に唯一残った和傘店の、これからに注目していきたい。
Premium Japan Members へのご招待
最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。
Stories
Premium X
「マイスターストラーセ日本版」 …
Premium X