世界の伝統工芸を紹介するウェブサイト『マイスターストラーセ 日本版』に参加する匠たち。今回は、100年以上の歴史を持ち、新たな技術で独創的な清水焼を手掛ける紅村窯(こうそんがま)4代目の技と魅力に迫る。
清水焼の中心地として知られるのが京都・五条坂界隈である。その一角をなすのが清水寺へと続く茶わん坂。この場所にある紅村窯は、青磁と白磁を得意としており、現在3代目・林 克行さんと4代目・林 侑子さんが創作を行っている。
(左から)紅村窯3代目・林 克行さんと4代目・林 侑子さん。侑子さんは2006年から父である3代目に師事。創作の一方で、子どもや視覚障害者に陶芸の体験の場を提供するといった活動も行っている。
4代目が生み出した独創的な技術
今回、紹介するのは4代目が独自に開発した土鋏(つちばさみ)と呼ばれる技法を駆使した作品である。土の表面に細かく鋏を入れて切り口を持ち上げることで、繊細な花びらやうろこ状の立体的な文様を表現するこの技は、実に斬新かつ洗練されている。
侑子さんは、幼いころから、父である3代目の仕事を見ていたため、家業が特別な仕事という意識はなかったそうだ。
「一人っ子でしたから、私が継がなければ(窯が)なくなってしまうとの気持ちは、ずっと心のどこかにありました」と侑子さん。
一方、3代目は「家業を継がせるべきとは思っていませんでした。けれど、展示会を手伝わせたときに、娘が興味を持った印象を受けたので『やってみては?』と勧めてみたんです。こういう世界ですから、背中を見るなりして創作してもらえればいい。ああしなさい、こうしなさいと、私からは言いませんでした」と語る。
土鋏により生まれる繊細な花びら。そこに流麗な葉が添えられていく。
意外なものから着想された土鋏
自分のスタイルを模索するなか、彼女はピンクの器やレースを使った技法などにもチャレンジしている。しかし、納得のいくものがなかなか見つからないなか、ヒントとなったのが和菓子の“はさみ菊”。これは上生菓子の表面にはさみを入れ、菊の花のような花びらを表現する技法である。
「それがあまりに衝撃的で、土をはさみで切れば、魅力ある作品をつくれるのではないかと思いつきました。自分の窯の土味を生かし、伝統の中から、新しいものを生み出せたことは、とてもうれしい体験です。はさみ菊以外にも、はさみを使った和菓子の表現は本当に多種多様。いま、私は主に2つパターンの切り方を駆使しています。今後、いろいろな切り方を駆使して、土で表現できる世界を広げていきたい」(侑子さん)。
ディテールについて聞くと、和菓子の練り切りと土の性質には、当然ながら違いがあり、和菓子の技法が、すべて使えるわけではないという。また、深くはさみ入れることができないなど、さまざまなハードルを乗り越えつつ、技法の探求はいまも続いている。
アトリエで作品に向き合う侑子さん。「好きでなくてはできない仕事」という一言が印象に残る。
次世代に残したい自分の仕事
現在、侑子さんが考えているのは、土鋏の技術を確立しながら、自分の仕事を残すこと。自分の子供たちが、「この仕事が楽しい。挑戦してみたい」と思ったときに継承できるようにしておきたいとの願いが心の内にあるのだ。
作品は色付けをすることで、より表情が豊かになる。2019年「京ものユースコンペティショングランプリ&LEXUS賞」受賞、2020年2月 rooms40(東京)Discover Japan Award に認定など、年々、4代目の作品への評価は高まっている。
しかし、彼女が目を向けているのは自分の創作だけではない。
「このエリアは、清水焼発祥の地でもあるので、多くの人に焼き物の町と知って観光をしてもらえたらうれしい。コロナ禍が収束したら、この地が焼き物の町であるとアピールもしていきたいですね」。
そんな侑子さんの、前向きな言葉は、京都の陶芸の明るい未来を示しているように思えた。
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