雅な京友禅の着物には、手描きと型で染める手法がある。そのうち、型染めは、繊細な文様を切り抜いた型紙を、多数使い、幾重にも色を乗せ、美しい世界を描き出す。多くの人は、染めが施された完成品しか目にしないわけだが、今回の主役は型紙の匠。京友禅の型紙彫刻を専門に優れた技術を磨いてきた、西村友禅彫刻店の職人、西村武志さんである。
活躍の場が減少する友禅彫刻を残したい
工房を訪ねると、出迎えてくれた西村さんの温厚な人柄がすぐに伝わった。が、仕事となれば、ライトボックス(電灯を内蔵した作業デスク)に向かう姿は別人のよう。ただならぬ集中力と気迫がこちらにも伝わる。
西村さんによると、友禅彫刻の技術のはじまりは、400年前とも500年前とも言われる。一方で、着物の着用機会が減っている現代社会において、友禅彫刻の技を活かせる場が減少。また、シルクスクリーンやインクジェットプリントなどの技術の台頭で、友禅彫刻は高額なものになってしまい、そのよさを伝える機会が少なくなっている。
「世の流れに対して、あきらめるか、そうではないのか。400年、500年続いた技術なのだから、すぐに広められなくても、人々のお役に立つものにしたい」と西村さん。
膨大な時間と手間をかけて、繊細な型紙が彫られていく。
素材を変えて逆境を乗り越える
そして、西村さんが周囲の助言も得ながら、たどり着いたのは、紙ではなく、革やウッドシートといった異素材に彫刻を施すアイデアである。「彫れるものならなんでも彫ります。自分の技術を使って友禅彫刻の技を残したい」。
そんな熱意が、友禅彫刻を次のステージへと導いた。試行錯誤の末、生み出されたのは革小物や、ウッドシートを使った照明器具など。なかにはタブレットケースといった現代ならではのアイテムも含まれる。
世界中の人に技術を知ってもらえれば、そこからさらに「こんなこともできるのでは?」と新たなアイデアが次々に加わるだろう。そうして、新しい感性が自分の技術と交差することで、時代の波を乗り越えて生き続けるはずだと、西村さんは手応えを感じている。
レザーのタブレットケースは、電源をオンにすると作品が照らし出させる趣向になっている。
ライトボックスに浮かび上がる、四天王像の増長天(左)と多聞天(右)の友禅彫刻。
創作に欠かせないのは、なんと修験道
お話しのなかで、意外だったのは、西村さんが修験者であったこと。父の代から、修験道に邁進し、いまも山に登りつづけている。修験道は山岳を信仰するものである。
「いつも同じ場所に立つ木も、時期によって緑の色や葉の量が異なります。また花の表情もそうです」。
自然のなかで心身を鍛えるとともに、自然の繊細な変化を実際に見て感じることで、植物の彫刻一つにしても、より豊かな表現が生みだせる。また、自身の日常を見つめなおすなど、気持ちを整えるうえで、修験道は仕事に欠かせないものなのだ。
彼の作品から、気迫や優しさといった、さまざまな雰囲気を感じるのは、彫刻の腕だけを極めるのではなく、心の鍛錬、優れた観察力が伴っているからに違いない。現代人の暮らしにも溶け込めるように進化した、西村さんの友禅彫刻の技は、これから、さらに大きな世界に向けて広がっていく。
西村武志さん。西村友禅彫刻店は、西村さんの父親が1934年に創業。彼は18歳でこの世界に飛び込み、半世紀にわたり、活躍をしている。
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