世界の伝統工芸を紹介するウェブサイト『マイスターストラーセ 日本版』に参加する匠たち。今回は、北山杉の育成から加工を行う老舗、中源を紹介しよう。

京都の町の中心部から車で小一時間ほど走ると、すっかり自然に囲まれた北山町中川に到着する。川沿いにあるこの地区の伝統産業として知られるのが北山杉だ。この杉は茶室や料亭といった高級感の高い建築に用いられ、重要な見せ場では、丸太の状態で使われる。つまり、単なる構造材ではなく、建築の意匠となる特別な杉なのだ。

個性豊かな北山杉の表面の秘密

北山杉の魅力は、なんといっても美しい表面の仕上げにある。30年～40年をかけて成育した杉は、伐採されたのち、通常は3mの長さにカット。樹皮をはがし、地元の水と砂で表面が丹念に磨かれる。独特の滑らかさは、この磨きによるものだ。

また、木材表面の個性豊かな表情にも注目したい。自然のまま育成したもののほか、育成中に表面にプラスチックの棒を巻き付けることで、表面の凹凸を強調したり、滑らかに仕上げたりと、自在に味わい深い表現が可能となる。

一般的な杉の場合、根元が太くどっしりとしており、先細りに育つ。一方、北山杉は、木と木との間隔を狭く密集して植えたのち、こまめにほとんどの枝を打つ（切る）ことで、意図的に細く育つように管理されているのも興味深い。

600年続く伝統産業

北山杉の生産の歴史は約600年前にはじまったとされ、地区の拠り所である中川八幡宮に生える白杉は樹齢600年。また、先述の砂磨きについても、興味を引かれる言い伝えがある。昔、病気で倒れた僧侶を、中川の村人が助け、丁寧に看病をした。すると、その僧侶が中川の奥の菩提の滝で採れる砂で杉を磨くと、とても美しい杉になることを教え、北山杉が都で評判になったという話だ。

出荷ではなく「嫁に出す」

約130年にわたり、北山杉を送り出してきた中源の4代目・中田 治さんは、杉を出荷することを「私たちは嫁に出すと言います」と説明する。丹精を込めて、美しい姿に整えられた苦労や、自分たちの仕事への愛着を強く感じさせる言葉だ。

「林業には辛いこともあるけれど、僕は（自分を）山の子だなと思います。そして、木が好きだな、なかでも北山杉が好きだ、との思いが、最近はすごく強い」と中田さん。いまは北山杉の単一産業で成り立っている自分たちの地域をさらに盛り上げようと日々、取り組みも行っている最中だ。最近は、丸太の磨きや、枝打ち（成育中の杉の枝を落とす作業）などの体験会も開催。北山杉の伝統を守っていきたいとの思いはとても強い。そうした努力の甲斐もあり、いまでは海外企業との新たな取り組みも始まったそうだ。

伝統を守り600年。そしてこれから、北山杉の新しい時代が始まろうとしている。