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非日常03.Gimelの工房~美の育まれる場所  

2018.01.20
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日本の自然をモチーフにデザインされるギメルのジュエリー。透けるような羽根の質感をもつダイヤモンドとルビーのトンボのブローチ、そして工房のある奥池の雑木林から舞い落ちてきたような、イエローからグリーンへの絶妙なグラデーションの葉っぱのブローチ。2点共にギメルの代名詞ともいえる、メレーと呼ばれる小さな宝石を埋め込む高度なパヴェ・セッティングの技術が可能にした、繊細で日本的感性が光るジュエリー。

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虫食いのある葉っぱの裏側の小さな青虫の姿はジュエリーをつける人だけの愉しみ。

 

池にあるギメルの工房を訪れた人は、ここがどこであるのかわからない不思議な感覚に包まれます。芦屋と有馬を結ぶ芦有ドライブウェイを走ること約20分、下界の喧騒とは一線を画した穏やかな静寂。耳を澄ませば聞こえるのは、樹々のさざめき、鳥の囀り。ずっと以前からここにあったかのような古い煉瓦の建物、滑らかで光沢のあるスタッコ壁の内観。李朝の調度品、コンテンポラリー・アート。

ギメルのアートディレクターであり代表取締役の穐原かおるさんは「ここ奥池に本社屋を移した理由は、仕事をする環境こそがアトリエの職人たちにとっての何よりの教材であると考えたからです」と語ります。穐原さんのジュエリーブランド、ギメルの工房がある奥池は、六甲山の中腹に位置する豊かな自然に恵まれた場所。名だたる経営者や財界人が、別荘や自宅を構える風致地区として知られています。

 

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 (左)六甲山の豊かな自然が目の前に広がるサロンのテラスからの眺め。空の色の移ろい、雲の流れ、月の満ち欠け、樹々の芽吹き、紅葉から落葉まで、ここからは一年を通して自然を手の中に感じることができる。(左)ギメルの本社屋は婆佐羅建築工房の村中壽夫氏の設計によるもの。ガーデンデザインは武部正俊氏。シンボルツリーの緋寒桜の他、周囲には「四季に咲く花、香る木」が100本ほど植栽された。その樹木も竣工から15年を経て、奥池の自然の一部に。

原さんがギメルの移転を果たしたのは2003年のこと。芦屋市街の月若町にあった瀟洒なたたずまいの工房から、懐深い樹木に囲まれたここ奥池へと移り15年の月日を経て、工房で仕事をするスタッフのライフスタイルも表情も一変したといいます。「環境は人を変えます。朝、早起きして山菜を摘んだり、休み時間に菜園で土に触れたり、自然を楽しむことに目覚めた人が多いですね」。

室内にいても鳥の囀りが聞こえてくるアトリエ。一歩外に出れば、ギメルのジュエリーの大切なモチーフである四季の自然が、手の届く環境にあります。取材の途中には、昨年8月に穐原さんが動物愛護センターから引き取った屋久島犬のドゥシャを連れて散歩しているスタッフに出会いました。そのリラックスした表情が印象に残っています。

 

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(左)テラスから、季節の野菜を育てる菜園もあるガーデンに向かう穐原さん。春にはインゲン、夏にはキュウリなどが植えられ、菜園からの収穫は毎日スタッフ全員で頂く昼食のテーブルに並ぶ。敷地内には穐原さんの愛犬たちが眠る記念碑もある。(右) 大きな窓から奥池の自然へと開かれたサロンは、ゲストをもてなすスペースであると同時に、工房で働くスタッフの食事会や、読書会も開催されるギメルのリビングルーム的な役割も果たす大切な場所。

メルの工房で働く職人は、現在20名(うちカボションを作る石ずり専門の職人が2名)。ヨーロッパではジュエリー職人は分業制が一般的ですが、ギメルでは一人の職人が一貫して一つのジュエリーを手掛けます。ブランドの代名詞でもあるダイヤモンドの表情豊かなジュエリーを作る高度な技術を取得するまでに、最低10年。確かな技術のみでなく、作る人の内面や感性の豊かさがジュエリー制作に反映されると考える穐原さんは、これまで一貫してスタッフの働く環境や食生活に留意してきました。

ものづくりの現場で日々コツコツと制作に向き合うアトリエの職人と、顧客からの要望を抱える営業担当者たちからのリクエストの両方の声に耳を傾けて調整し、双方のコミュケーションを円滑にする役割を果たす「リエゾン」と呼ばれるスタッフの存在はギメルならではのものです。これは穐原さんの「人を大切にする」スタイルの表れのように思えます。穐原さんは社員たちに語ります。「私を船長だと思ってついてきて。間違えることもあるかもしれないけれど、間違いに気がついたら方向転換する。今日よりも明日、より良くなろうとして間違うことは、進歩するということだから」と。

 

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(左) 季節感溢れる調度で整えられる、ギャラリーのようなエントランスのスペース。飾られているのは穐原さんが収集しているロシアのコンテンポラリー・アーティスト、ラヴレンティ・ブルーニの油彩『Memories』。この作品は昨年9月に名古屋の松坂屋美術館で開催されたギメルの展覧会『Four Seasons of Gimel ギメル 美の軌跡-“神は細部に宿る”-』でも展示された。(右) 社屋のゲートにあるGimelのロゴマーク。周囲の植栽が季節感をさりげなく演出する。

 

の食材や庭の菜園で育てた収穫物を駆使してテーブルに並ぶ美味しい昼食は、専任の料理人が工房内のキッチンで調理するもの。これを毎日スタッフ全員でいただくのがギメルのスタイルです。工房のサロンで2ヶ月に一度は開かれるという社員のための夜の食事会では、アトリエの職人、営業、販売など、ギメルのスタッフ全員が集まって、各地から取り寄せられた選りすぐりの日本酒や極上のワイン、それに合わせた季節の料理に舌鼓を打ちます。「食べ物に興味がないという人は信用しません。物理的に私たちを支えてくれる食べ物に敬意も愛情も持たないなんて、信じられませんよね」。スタッフたちと美味しいものをいただくこの時間を誰よりも楽しみにしているのは、穐原さんご本人かもしれません。

「いろんなことを言葉にしたり、説明したりするよりも、『本物』を経験してもらったほうがはやいんです」。春は満開の桜の樹の下で、夏には降り注ぐような満点の星を見上げて、秋には裏山で切った柿の枝を大きな花器に生けて、冬は暖炉に火を入れてぱちぱちとはじける薪の音を聞きながら―――――五感で季節を味わう豊かな時間。私たちにとっては「非日常」である奥池の美しいジュエリー工房は、ギメルの美しいジュエリーを育む人々にとっては、かけがえのない「日常」の舞台なのでしょう。



 

 

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穐原かおる Kaoru Akihara

ギメル アートディレクター/代表取締役 28歳のときにGIA G.G.(米国宝石学協会の宝石学修了)を取得。1974年、「ギメル」の前身であるギモー商事設立。1984年にギメル制作部を発足し1991年に「ギメル」のブランドを立ち上げる。2000年、「革新的で影響力のある21世紀のジュエラー」としてサザビーズに選ばれる。昨年は松坂屋美術館において初の展覧会である『Four Seasons of Gimel ギメル 美の軌跡-“神は細部に宿る”-』を開催。今春、作品集『Gimel』(3万円 限定1,000部)を思文閣出版より発行予定。

Gimel HP: http://gimelgimel.com/

 

(日常/非日常のPREMIUMのGimelのストーリーは、次回ジュエリー編へと続きます。)

 

 

写真・川瀬典子

選・文 藤野淑恵

 

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト 「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。趣味・関心事はガーデンツーリズム、オペラツーリズム、ワインツーリズム、庭造り、オールドローズ、ジェロントロジー、ガンドッグ、保護犬/猫など。