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日常 08.マルニ木工×深澤直人のHIROSHIMA 

2018.06.25
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マルニ木工と深澤直人氏とのパートナーシップにより、「世界の定番」を目指して作られたHIROSHIMAのアームチェア
発表から10年の時を経て、日本が誇る名作椅子として世界中で愛される家具となった

 

 

ンプルながらも手仕事の温もりを感じる美しい佇まい。背からアームにかけて緩やかにカーブしたフォルムの滑らかで優しい手触り。ビーチ、オーク、ウォルナット―――無垢の木から彫り出された工芸品のような静謐なオーラを持つ、HIROSHIMA(ヒロシマ)と名付けられたこの椅子は、現在では日本を代表する名作椅子となりました。

広島県に本社を構え、今年創業90周年を迎えるマルニ木工を代表するHIROSHIMAは、「100年使っても飽きのこないデザインと堅牢さを兼ね備えた家具を世界に向けて発表する」という同社の理念を体現したMARUNI COLLECTION(マルニコレクション)と呼ばれるシリーズのひとつ。開発パートナーに世界的なプロダクトデザイナーの深澤直人氏を迎えて2008年に誕生し、現在では29か国51店舗で販売されています。

ップル社の新社屋Apple Parkに数千脚が納品され、イギリスのヴィクトリア&アルバートミュージアムではパーマネントコレクションに認定・展示されたHIROSHIMAアームチェアは、香港国際空港のキャセイ・パシフィックのファーストクラス・ラウンジ、カリフォルニアのブルーボトルコーヒーのショップなど、世界各地の感度の高い場所で選ばれています。

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ル・コルビジェやハンス・J・ヴェグナーといった偉大なデザイナーたちは、一つのメーカーと組んでタイムレスに愛され続ける名作椅子を世に出しました。マルニ木工とパートナーシップを組んだ深澤氏は次のように語ります。「HIROSHIMAは私にとって生涯のマスターピースとなりました。シリーズ名としてHIROSHIMAと名付けるには勇気と覚悟が必要でした。しかし、この名前をつけられるのは広島にルーツをもつマルニ木工しかないと考えたのです」。

間は木を好みます。マルニ木工の仕事を受けようと思ったのは、長年培った木工技術に、同社が自信とプライドを持っていたから。私は子どもの頃、彫刻家になりたいと思っていました。木工会社であるマルニ木工には彫刻的な加工技術を備え、他のメーカーではできない難しい仕事ができる。『椅子は座る道具。しかし彫刻的な椅子を作りたい』という考え方が合致したんです」。マルニ木工とは生涯のパートナーになれる。深澤氏はそう感じたといいます。

厳島神社を支える宮島の宮大工や、宮島の工芸品に影響を受けたマルニ木工の創業者である山中武夫氏の「日本の住宅文化を広めたい」との思いのもと、1928(昭和3)年にマルニ木工は創業しました。そのモットーは「工芸の工業化」。始まりはブナの曲木椅子で、世界で初めて曲木椅子の量産・普及に成功したドイツのトーネット社より、およそ80年遅れて登場したのがマルニ木工だったのです。「木の椅子は難しい。デザイナーの感性だけでなく、職人からの提案が必要です」と語る深澤氏。例えばHIROSHIMAのアームチェアは左右の木目がシンメトリーになっていますが、これはデザイナーからのリクエストではなく、職人の自発的な制作によるもので、これこそがまさにマルニ木工の工房に伝統的に伝わる、プロフェッショナルな感性といいます。

 

 

澤氏がマルニ木工と仕事をして今年で10年。その間、マルニ木工と共に成就した仕事に連なる大きな出来事が2つありました。1つ目は、今年の5月にイサム・ノグチ賞を受賞したこと。この賞は世界的な彫刻家イサム・ノグチ氏の革新性や国際性を共有する芸術家に贈られるものです。子どものころから彫刻家になりたいと夢見ていた深澤氏が、最も影響を受けた人物のひとりがイサム・ノグチ氏だったこともあり、この受賞の喜びは何にも代えがたい大きなものとなりました。

2つ目は生涯の代表作と呼べる作品を得たこと。それはすなわちHIROSHIMAであり、この春、英国PHAIDON(ファイドン)社から発行された深澤氏の2冊目の作品集の表紙を飾ったのもHIROSHIMAのアームチェアでした。「生きている間に作品集を出すことは何度もありません。作品集は仕事の総まとめでもあります。HIROSHIMAは工業的な椅子ではなく、彫刻的な椅子。イサム・ノグチ賞の受賞の理由もHIROSHIMAが彫刻的だからということもあるのです」。

「世界一きれいな無垢の木の椅子をデザインしたいと思っていた」という深澤氏がマルニ木工と巡り合うことで生まれた、日本を代表する名作椅子、HIROSHIMA。「今はやり終えたというよりも、ここから始まると感じています。この思いを皆で共有できる場が欲しい。自分の仕事を残していきたいと思うようになりました」と語る深澤氏。今後10年で視野に入れている目標は、マルニ木工のふるさとである緑豊かな里山に木工の聖地のような社屋をつくることといいます。木工を志す世界中の人が一度は訪れることを夢見る場所として、日本の広島の名前を挙げる日はそう遠くないのかもしれません。

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Photo by Nacása & Partners Inc.

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(写真)椅子の写真すべて、HIROSHIMAアームチェア beech  上:広島県広島市佐伯区のマルニ木工本社全景 中:マルニ木工直営ショップ maruni tokyo

  下:深澤氏の2冊目の作品集『Naoto Fukasawa EMBODIMENT』(PHAIDON)

 

 

写真提供 マルニ木工

HP http://www.maruni.com/jp/

 

 

選・文 藤野淑恵

 

TOSHIE FUJINO エディター/ジャーナリスト 「W(ダブリュー)」日本版、「流行通信」、「ラセーヌ」の編集部を経て、2000年春に創刊した日経ビジネス定期購読者のためのライフスタイル誌「Priv.(プライヴ)」(日経BP社発行)の編集長に。「日経ビジネススタイルマガジンDIGNIO」編集長、オウンドメディア「GENUIN(ジェヌイン)」の編集統括など、クオリティ・マガジンの編集に携わる。センテナリアン時代のクオリティライフ実現に向けて、新しいライフスタイルやロールモデルを紹介し、BESPOKE LIVINGを提案することが現在のミッション。