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ヴェネツィアと京都。ふたつの古都を太陽と月にたとえ、二都市を往来しながら、壮大なガラス作品を創作する三嶋りつ惠さん。《前編》

2018.11.06
160430-113

Photo:渞忠之

千年を超えるガラス製造の歴史を持つイタリア・ヴェネツィアで、精力的にガラス作品を創る三嶋さん。その作品はダイナミックで洗練され、原始的で有機的な印象も持ち、並外れた情熱とパワーを発しています。すべて透明なだけに、光を受けて、見る人の瞳と心に自由にさまざまに映ります。

30代半ばでガラス作家としてスタートし、今では世界各地にコレクターを持ち、パワフルに活躍されています。前編では、その才能を花開かせるまでの足跡と制作の源泉を、後編では、ヴェネツィアと京都で暮らす日常を聞きました。そこには、どんな試練や困難も創意工夫で乗り越え、人との縁に感謝しながら自由に生きる、しなやかで野性的な女性の姿がありました。

 
なぜイタリアへ渡って暮らそうと思われたのでしょうか?

イタリアに行く前は、東京で服飾や空間のスタイリングの仕事をしていました。80年代の後半当時、ロンドンやパリに行く友人が多く、私は別のところに、と思って旅したのがヴェネツィアでした。その旅の途中に出会ったイタリア人男性と結婚し、子供を持ち、そこでの生活が始まりました。


作家としてどのように活動を開始したのでしょう。

私は美術教育を受ける事なく、自由に湧き出る感性を信じて進んできました。ガラスとの出会いは、イタリア人の友人にムラーノのガラス工房に連れられたのがきっかけです。当時、自宅のテーブルに置く一輪挿しが見つからず、自分のデザインをムラーノ島のガラス工房に頼んで制作、これが最初の作品となりました。

職人たちの伝統技法によって、蜂蜜状に溶けたガラスが目の前で瞬時に形を変えながら、ひとつの形になる。その様子はとても刺激的で、見ていると次々にインスピレーションが降りてきて、やめられなくなりました。同じタイミングで離婚を経験した事で、ガラス作品の制作が生活の手段となり、多くの人との繋がりと縁にも助けられ、今に至っています。


「In Grimani. Ritsue Mishima Glass Works」第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展関連企画(2013)
国立パラッツオ・グリマーニ美術館展示風景 Photo: Andrea Martiradonna

2000年から本格的に個展を開催し、活躍されていますね。

はい、本格的に活動を始めて約20年になります。最初の個展はミラノ・サローネ(毎年4月に開催される世界最大のデザインと家具の見本市)の期間中、ミラノの古い温室を使ったインスタレーションでした。透明な温室に透明なガラス作品を置いたらどんな風に感じるだろう、どんな風に見えるだろうという好奇心に動かされて、植物のフォルムに着想を得たガラス作品を、木や草の上に設置しました。今でも、透明なガラス作品を空間に置くことによって「次に見えてくるもの」を見据えた表現を続けています。この個展を強く勧めてくれたのはミラノのアーティストの友人でした。イタリア人は本当に熱心に人を思いやり、ここは絶対に君が好きな空間だからぜひやってみたら、と励まされ、背中を押してくれました。


GALASSIA  2016(写真左上)CELLULA  2016(写真右上)SPIN  2016  (写真左下)TELLA NUVOLA  2017(写真右下)
Photo: Francesco Barasciutti

その作品は、自然の要素や光、また粒子といった目に見えないものを閉じ込め、熱いエネルギーのほとばしりを冷たいガラスに結晶させる、という印象を受けます。実際のガラス製作の手法とは?

私はムラーノ島の工房のマエストロ(親方)と彼を助ける2人ないし3人の職人たちとの共同作業によって作品を生み出しています。彼らとの制作の中で互いに切磋琢磨し、さまざまな造形を誕生させることで私も多くを学び、職人も技術を高めてきたと実感しています。

吹きガラスは一瞬の芸。炎の中でガラスのタネを360度回し、空中で吹き、遠心力や重力を考慮し、素早くねじり、重ね、付け加えて造形し…ガラスの彫刻作品が誕生します。職人は目で私に合図を送り、私は彼らの技を信頼し、細かな指示を出す。たとえるなら私はオーケストラの指揮者です。デザインするというより、素材がその形になりたがることを大切にしています。そこにアートという以上のパワーが生まれるのです。


ムラーノ島の工房。

長い歴史を持つヴェネツィアのガラスに、21世紀の今も新風が吹き込まれているのですね。

作家の創意やアイディアによってムラーノのガラスの可能性は広がり、試行錯誤することで職人たちも腕と技術を高め、新しい造形も生まれます。私も含め、誰かが新しい試みを持ち込まないと、ムラーノの技術も感覚も昔のままで停滞してしまいます。

創作のイメージやフォルムの源泉はどこから来るのでしょうか。

欧米の評論家やジャーナリストからは、作品にどのような日本らしさを込めているのか?と必ず聞かれますが、日本や東洋的なイメージを含めてはいません。でも自然に、形を超えた精神や、目に見えないものを作品に宿らせたいという意識はあり、それは日本的だと自分でも感じますね。


アトリエにて。(写真左)Photo: Benedetta Spinelli  三嶋りつ惠さん(写真右) Photo: Francesco Barasciutt

美的な感性を、どのようにつちかってきたのでしょうか。

私は特に芸術的な環境で育ったわけでもなく、美術教育も受けず、まったく無からのスタートでした。京都の南の自然豊かな土地で育ち、土手に基地をつくったり、自然の中で自由に遊んで過ごしたことが原点だと感じています。子供の頃から、興味のあるものには気おくれせずに飛び込み、恥をかきながら多くを吸収してきました。今は、向こうから来たものは全てありがたい課題や宿題だと思って取り組み、思い通りに実現するよう努めています。いくつになっても知らない世界に大いに興味があるのですね。

20代や30代は誰にとっても試練の時。その年月を経て今は、新たに出会う人や物事、仕事の依頼も、余裕を持って向き合えるようになりました。

 

《後編》に続く

 

<プロフィール>

三嶋りつ惠 Mishima Ritsue(みしま・りつえ)
1962年京都府生まれ。20代の半ばでイタリア・ヴェネツィアに移住し、1996年にムラーノ島で職人との共同作業によるガラス作品の制作を開始。現在は京都にも拠点を持ち、日本とイタリアを行き来して活動を行う。

◆主な個展に
「星々」ShugoArts、東京(2017)
「IN GRIMANI」 国立パラッツオ・グリマーニ美術館 、ヴェネツィア(2013)
「あるべきようわ」 資生堂ギャラリー、東京(2011)
「Frozen Garden / Fruits of Fire」 ボイマンス・ファン・ブーニンゲン美術館、ロッテルダム(2010)
「しずかな粒子」 ヴァンジ彫刻庭園美術館、静岡(2007)、他

 ◆パブリックコレクション  
ヴァンジ彫刻庭園美術館(日本 静岡県)  
Musee des Arts decoratifs(フランス パリ)  
Boijmans Van Beuningen(オランダ ロッテルダム)、他

http://shugoarts.com/artist/59/

 

文/山岸みすず、写真/作家提供、協力/ShugoArts