Daisuke Ohki

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ミラノサローネにおける日本の存在感(中編)

2019.6.11

ミラノサローネでフィロソフィを世界に発信する日本企業の取り組み

GRAND SEIKOミラノの中心地に位置するマンゾーニ通りの邸宅美術館ポルディ・ペッツオーリ美術館を会場に、愛媛の大洲和紙を用いて作る「紙縒り(こより)和紙」のパネルによる柔らかな和空間を演出。昨年に続き2回目のミラノデザインウィーク出展を果たしたグランドセイコー。日本の繊細なものづくりと先端技術の融合で高い評価を受ける、セイコー独自の機構「スプリングドライブ」を用いたインスタレーションで、「流動」と「絶え間ない変化」を表現した。Photography by Daisuke Ohki

時代はデザインからスタイル構築へ。
サローネの新機軸Sプロジェクトに
日本から唯一選ばれたマルニ木工

ミラノサローネがスタートして、58年に渡り新作家具が作り続けられてきた現在、完璧に新しいデザイン言語を生みだすのは容易ではない。ここに及んでデザインはスタイルの構築の方向に進んでいる。家具のみではなく、小物や敷物、美術品、さらに展示の方法や空間など、様々な要素との組み合わせが要求され、スタイルの考案が必要になっている。インテリア・スタイリスト、あるいはインテリア・コーディネーターの時代である。

マルニ木工 マルニ木工
マルニ木工 マルニ木工

マルニ木工 今年からミラノサローネに新設されたSプロジェクトに日本から唯一選ばれ、ロー・フィエラのミラノサローネのHALL22に出展したマルニ木工。昨年の倍近くのスペースで提案したのは、生活を楽しむための上質な空間。深澤直人、ジャスパー・モリソンといったマルニ木工を代表するプロダクトのデザイナーの作品による、住宅とオフィスの境界線をあいまいにしたライフスタイル空間を表現した。


今年のサローネにおいて、87社が選別されて新たに組み立てられたSプロジェクトは、まさにそうした考えの反映に他ならない。スタイルの構築のために、商品内容を異にするメーカーがひとつの会場に出展し、お互いの相乗効果を狙っていく。日本の企業では唯一、マルニ木工が選ばれた。87社の中には佐藤オオキ率いるnendo(ネンド)の新作を発表したFLOS(フロス)、イタリアモダンファニチャーの雄B&B Italia(ビーアンドビーイタリア)、北欧の名作照明で知られるLOUIS POLUSEN(ルイス・ポールセン)といったブランドが含まれる。Sプロジェクト会場となったフィエラHALL22、24には、マルニ木工の代表作である深澤直人デザインのHIROSHIMAチェアが並び、クリーンでくつろぎ感漂う空間が表現されていた。

このような現在の潮流を土台にした時に、ミラノ市街で開催されるフオリサローネも含めて、今回参加した日本企業のあり方は異なる観点を持つようにも伺われる。サローネへの参加の歴史が浅いこともあるが、マーケットの拡大を狙うというよりも、企業のイメージやフィロソフィを訴える傾向があるようだ。2019年は特にインスタレーションが目立って多かった。ミラノデザインウィークの位置づけが商業活動というよりも、いわば、発表の場と捉えられているように受け取れた。

LEXUS LEXUS

LEXUS  通算12回目の出展を果たしたレクサスは、ミラノデザインウィークで日本企業を牽引する存在。レクサスの思想であるHuman-Centered(人間中心)デザインを光のメディアアートで表現した。Photography by Hisayuki Amae


フオリサローネでは日本企業の出展が増加。
ブランドのイメージやフィロソフィ、
そして伝統と革新を発信する

日本の企業が集中していた会場のひとつが、ミラノ市内中心部、トルトーナ地区にあるスーパーストゥディオピュウ。ここではレクサスやキャノン、東芝など5社の日本企業が出展した。プレスプレビューの日からすでに待ち時間があったレクサスは、一般公開期間は、入口に長蛇の列。石橋素、真鍋大度が率いるアーティスト集団ライゾマテイックスとの協働による「LEADING WITH LIGHT」と銘打ったインスタレーションでは、ショーと観客参加の双方の組み合わせで、将来のライティング技術であるブレードスキャン®式AHS(Adaptive High-beam System)を応用した。

 

ダンサーと一群の壁面ロボットとの相関的な動きに反応するのは、強烈に明るく照らす無数のスポットライト。それらが空間の形を構成し変形していく。ダンサーを起用して、ハイテクな空間に柔らかさを加えているところにレクサスの視点がある。日々の暮らしの中でひしひしと感じざるを得ないテクノロジーの進化を肯定し、共存の可能性を謳っているようにも受け取れる。

©︎ François Lacour  ©︎ François Lacour 

SONY なでてもらってうれしい、かまってくれなくて寂しい、などロボット犬aiboの感情を色で表現することで一目瞭然とし、人間とのより円滑なコミュニケーションを試みた(写真上)。目や鼻があるわけではない、立方体や球体のロボットの動きも素材も繊細で、無理なく受け入れることができる。(写真下)Photography by Hisayuki Amae


「Affinity in Autonomy(共生するロボティクス)」をテーマにした出展で、人工知能と共に暮らす近未来を、体験を通じて紹介したソニー。空間全体を包む特殊フィルムの光の効果とBGM音楽によって、抵抗なく現実から切り離され、暗闇を通過することで未来へとタイムスリップする。

 

立方体や球体のロボティクスのインスタレーションでは、センサーで我々の存在を探知しては自然な動きで近づいてくる。それらの動きも素材も繊細で、無理なく受け入れることができる。

 

こうした手法は、アニミズムに原点を持つ日本人ならではの表現なのかもしれない。ロボット犬aiboのコーナーが人気を博した。死んだ犬を生き返らせるために電池を買ってと母親に頼む子ども。アニメの世界が描いてきた、そんな世界はすでに到来している。

GRAND SEIKO GRAND SEIKO

GRAND SEIKO  グランドセイコーが常に追求してきた時の本質を「THE NATURE OF TIME」というテーマに託し、日本人の自然観がもたらす視覚的な時間を表現。写真は「スプリングドライブ」を有機的なフォルムのガラスで包んだ小宇宙のようなオブジェ。テクノロジーや特殊素材等を活用した実験的なアプローチを試みるデザインスタジオ、we+(ウィープラス)の林登志也と安藤北斗(写真右)によるインスタレーションとオブジェを発表。Photography by Hisayuki Amae

時間の意識と時の本質「THE NATURE OF TIME」をテーマにしたインタレーションを発表したのは、昨年に続く2回目のミラノデザインウィーク参加となるグランドセイコー。「流動」と「絶え間ない変化」をコンセプトに、「FLUX」と題したインスタレーションとオブジェを展示。インスタレーションを担当したデザインスタジオwe+(ウィープラス)の安藤は「精確な時間を刻む時計という道具と、日本人の自然観がもたらす視覚的な時間。これら二つの時間の観念を並列させた展示を狙った」と語り、「時は流れていくものである」というメッセージを、GS独自の機構であるスプリングドライブと光の波紋を用いて表現した。

AGC  プロダクトデザイナー鈴木啓太(写真中央)は、インスタレーション「Emergence of Form」で、ガラスとセラミックスという2つの素材でうつろう自然の美しさを表現した空間を作った。ガラスの三次元曲面成形加工技術を用いて、高さ約2メートルのガラスのシャボン玉が生まれるプロセスは圧巻。 AGC  プロダクトデザイナー鈴木啓太(写真中央)は、インスタレーション「Emergence of Form」で、ガラスとセラミックスという2つの素材でうつろう自然の美しさを表現した空間を作った。ガラスの三次元曲面成形加工技術を用いて、高さ約2メートルのガラスのシャボン玉が生まれるプロセスは圧巻。

AGC  プロダクトデザイナー鈴木啓太(写真中央)は、インスタレーション「Emergence of Form」で、ガラスとセラミックスという2つの素材でうつろう自然の美しさを表現した空間を作った。ガラスの三次元曲面成形加工技術を用いて、高さ約2メートルのガラスのシャボン玉が生まれるプロセスは圧巻。

ミラノ中央駅のヴェントゥーラ・チェントラーレは前述のトルトーナ地区と同じくフオリサローネの中心エリア。ここでミラノデザインウィーク5回目の出展を果たしたのは、昨年社名を旭硝子から変更したAGCだ。社名変更後初の出展となる今年は、ガラスに加えて多彩な素材やソリューションを提供しているAGCにふさわしい、ガラスとセラミックの2品目についての成形加工技術を紹介する展示となった。板ガラスから半球を作る技術への言及と、緻密にシミュレーションした水面の波紋3Dプリンティングし、釉薬をかけて焼成したセラミックスの二品の展示を通じて、デジタルデータの精密な造形と揺らぎのある工芸的な仕事を掛け合わせた。

 

ミラノサローネにおける日本の存在感(後編)につづく

Text by Miyuki Yajima
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