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PREMIUM SHIGA プレミアム滋賀

《第1回》五個荘(ごかしょう)商人屋敷で愛でる近江の国の新旧お雛様

2018.02.20


東近江在住の人形作家、東之湖(とうこ)による創作ひな人形「清湖雛(せいこびな)」は、段飾りではなく広い和室を縦横に使って飾られている。かつてひな人形が貴族の子女だけに許されたものだった頃は、このようにひな人形を飾って女の子が典雅に人形遊びをしたという。五箇荘近江商人屋敷 中江準五郎邸にて展示。

 

私たちが知らない、未だ見ぬ日本のプレミアムを求めて。

PREMIUM JAPANはローカルな街のグローバルな魅力を紐解く旅に出ます。

最初の目的地は琵琶湖の豊かな自然を抱き、由緒ある寺社や歴史情緒が残る風光明媚な滋賀県。季節は早春、近江商人のふるさとでひな人形めぐりからはじめましょう。


江戸時代後期から昭和初期にかけて活躍した五箇荘の近江商人が、故郷に残した娘のために贈ったひな人形が代々受け継がれ、当時のままに飾られている。外村繁邸、外村宇兵衛邸、藤井彦四郎邸、近江商人博物館にて展示。

 

PREMIUM SHIGA プレミアム滋賀《第1回》
五個荘(ごかしょう)商人屋敷で愛でる近江の国の新旧お雛様

江に春の訪れを告げるのは、頬をなでる琵琶湖からの柔らかい風だけではありません。長浜から大津坂本に至る、主に琵琶湖の東側の街々で、それぞれの歴史を背景に趣向を凝らしたひな人形めぐりこそ、春の到来を告げる風物詩なのです。例えば井伊家13代直弼の愛娘千代(1846~1927)の雛と雛道具を公開する彦根城博物館の特別公開。比叡山のお膝元、日本遺産にもなった西教寺でこの時期だけの雛御膳の精進料理が味わえる坂本ひな人形展。これらの10か所に及ぶ街で開催されるひな人形めぐりの中で今回ご紹介するのは、東近江市の五箇荘商人屋敷で開催されるひな人形めぐりです。


重要伝統的建造物群保存地区、及び日本遺産に認定された五箇荘金堂の街並みのひとつ。川戸と呼ばれる屋敷内に水路を引き込んだ生活用水。ひな人形めぐりの季節には、小さな郷土雛が町中のいたるところに飾られて、その風情を一層豊かにしている。


白壁と舟板張りの屋敷街

五箇荘金堂地区は近江商人のふるさと

近江市の五箇荘金堂地区はJR能登川駅からバスで10分、近江鉄道五箇荘駅から徒歩15分の、近江商人の本宅と農村集落が一体に溶け込んだエリアにあります。国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定され、2015年には日本遺産にも認定された集落内には、鯉の泳ぐ美しい水路が今も流れ、かつて近江商人が築いた美しい和風建築の屋敷が代々受け継がれてきました。白壁に舟板張りの屋敷が続く街並みを囲む、穏やかな農村の景色は、日本の原風景とも呼べるものです。

近江商人とは江戸時代後期から昭和戦前期にかけて活動した、滋賀県(近江国)出身の才覚に長けた商人のこと。西武グループ、高島屋といった流通業から伊藤忠、住友財閥の商社、西川産業、東レ、ワコールといった繊維関係まで日本を代表する企業の創始者が名を連ね、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の理念は有名です。近江商人たちは行商、出店で全国に進出した後も郷里を離れることなく、家族によって近江の本宅を守り、社寺や公共のために惜しみなく出資しました。五箇荘は主に繊維関係を生業とする商人が多く、故郷に残した娘のために贈ったひな人形が長年にわたり商人屋敷に引き継がれ、公共施設に寄贈されて現在に至ります。

 

近江上布を纏う創作ひな人形に
心を奪われる

今雛や御殿雛といったお雛様が瀟洒な商人屋敷の広間に当時のままに古式ゆかしく飾られている様子には、子どもの幸福をひな人形に託した人々の、時を遡っても変わることない親心が偲ばれます。そんな古のひな人形と同様、或いはそれ以上に私たちの心を捉えたのは、地元の人形師による創作ひな人形でした。昭和初期に朝鮮半島や中国で三中井百貨店を築いた中江家4兄弟の末っ子中江準五郎邸に飾られた、「清湖雛(せいこびな)」と名付けられたひな人形です。


人形作家東之湖による創作ひな人形「清湖雛(せいこびな)」は2004年より制作され、〈清湖雛物語〉として年を追う毎に新作人形が加わって悠久の近江八景を描く。人形が着用する着物はすべて滋賀県が誇る麻織物の近江上布。

琵琶湖をイメージしたこの「清湖雛(せいこびな)」の作者は京都に生まれ現在は滋賀県在住の東之湖(とうこ)。顔の絵付けをする人、胴体を作る人、着物を着せつける人、というように分業がスタンダードのひな人形制作の世界の中で、コンセプト、デザインに始まるひな人形作りの全行程を一人で行う「雛匠」の肩書を持つ人形作家です。今にも動き出しそうな人形たちの柔らかな体のライン、さらに目を奪われるのは、その名の通り清らかな湖を映したかのようなやわらかな色彩のひな人形の衣装。素材として使われているのは滋賀県で古くから発展した麻織物の近江上布でした。かつて東京での展覧会で「京都の人形師」と紹介された東之湖が、滋賀県在住の自分のアイデンティティ―を模索するうちに思いつき、近江上布の職人とのコラボレーションによって生まれたのが、近江上布のひな人形だったといいます。基本的には西陣織を使ったひな人形を制作していますが、近江上布、さらに各地方独自の織物を娘のひな人形に使用したいというオーダーメイドの注文が、ここ1、2年で増えてきたとのことでした。

域で大切に受け継がれてきた古のひな人形と、地域の誇りを表現するために新しく生まれたひな人形。新旧の貴重なお雛様をめぐる散策で立ち寄る近江商人屋敷街では、川戸と呼ばれる屋敷内に水路を引き込んだ昔ながらの洗い場、いくつものかまどが並んだ土間の石造りの台所、琵琶湖を模した池を中心に設えた日本庭園など、時代劇の中にタイムスリップしたような懐かしい日本の景色にあちらこちらで遭遇します。五箇荘でそぞろ歩きを楽しむなら、商人屋敷とひな人形を両方堪能できる早春はもっともおすすめの季節といえるでしょう。

 

五箇荘近江商人屋敷のひな人形めぐり
外村繁邸、外村宇兵衛邸、中江準五郎邸、藤井彦四郎邸
3月21日(木・祝)まで 3/12(月)休 9時半~16時半
東近江観光協会 www.higashiomi.net/

雛匠 東之湖
滋賀県東近江市五箇荘竜田町661-3
http://doll-touko.com/

 

プレミアム滋賀は第2回に続きます。

写真・野口伽那子

文・藤野淑恵