東京画廊 代表取締役社長 山本豊津氏インタビュー <<後編>>

2017.12.25
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美術品の価値のひとつは、時間にあり

 現在、「東京画廊」には東京・銀座ともうひとつ、2002年に北京に開廊した「B.T.A.P.」という拠点があります。こちらは弟・田畑幸人さんが手がけ、おふたりは両都市で日本・中国・韓国を中心としたアジアの現代美術と作家たちを紹介しています。「家業を継いだつもりはなかったんだけど…(笑)。気づいたら、これが自分たちにとって、一番大変だけど楽しいことになりました」。

 山本さんは先日、約508億円で落札されたレオナルド・ダ・ヴィンチの油絵を引き合いに出し、美術品の価値をこう説明します。「あの絵は500年、残った。508億円という値段の価値は、500年という歳月に対してです。500年間保存され、今ここにあるという奇跡。それだけ、人間にとって大事なものだという価値があったから、残った。つまり、『時間』ということです。美術の意義は、過ぎた時間つまり歴史を今現在、見ることができるということでもあるんです」。だから同時代のものが戦乱で壊れてしまうと、他のものの値が上がることになります。「時間っていうのは、壊れるっていうこと。だから残ったものは自ずと価値が上がっていくんです」。

 
山本さんは画商として、「美しいから」という理由でお客に作品を勧めることはないと言います。「美しいかどうかは、趣味性です。僕自身は美術の仕事を趣味性だと思っていない。美しいかどうかという主観はあくまで、見る人に担保されているもので、僕が押しつけることじゃないんです」。「美しい」という言葉は2種類の言語から成り立っている。それは「珍しい」と「懐かしい」だと、山本さんは説きます。「フランソワ1世が初めて、ダヴィンチの『モナ・リザ』を見た時は、珍しいと思ったんじゃないかと。でも年月が経つと懐かしくなったはずで、これがまた500年経つと懐かしさは倍増する。自分の人生で初めて出会ったものは、すべてが『珍しい』なんだけど、年を重ねていくと、それが『懐かしい』に変わる。その時に初めて、『美しい』という考え方が生まれる。だから、『珍しい』ものに対する好奇心がないと「懐かしい」が発生しないので『美しい』という価値が自分の中に構築されないんです」。こういう言い方で営業するとウチの作品が売れる(笑)と山本さんは冗談を言いますが、美術の価値をこうやって説明されると、モヤモヤした霧が晴れていきます。価値を言語化し、平易な言葉で伝えること。それが、画廊の役目であり、画商の才ともいうべきものなのかもしれません。

 山本さんは画廊の業務以外にも、美大生にショーウインドウディスプレイをデザインさせる「銀座スペースデザインコンペティション」や、茶道五流派と煎茶道が一堂に会する「銀茶会」など、さまざまなプロジェクトをしかけてきました。「こういったことに積極的なのは、美術が持っている面白さやコミュニケーション力を、できるだけ多くの人に知って貰いたいからなんです。また僕が持つ資産を若い人達に伝えたいという思いもありますね。僕自身、20代に先輩から学んだことがその後の大きな資産になったという意識がありますから。そろそろ70歳。先輩から受け取った必要不可欠なものを次世代に渡すことが僕は、『公共』という言葉だと思います」。

 

500年後の日本人に、どんな資産を残せるか

 
今、一番興味のあることは、2020年以降の日本の政治経済と社会だと、山本さん。これからは資本主義の社会から資産主義の社会へ移行せざるを得ないだろうと言います。「メディチ家は500年前に銀行を作り、僕らが今使っている複式簿記を考え、儲かったお金でフィレンツェを作り、ミケランジェロとダ・ヴィンチという天才を生んだ。それで500年、フィレンツェは食べてこられたんです。では僕らは、500年後の日本人が食べられるようなものを残せるか?経済成長が終わり、資本主義の終焉が見え、世界が閉じつつある今、残すべき資産とは何か?をいつも考えていますね」。また現在の取組のひとつに、税制改革を挙げられました。山本さんは全国美術商連合会の常務理事としても活動されており、日本に眠る数十兆円分の美術品を流動化できる、モノが動く社会構造を作るための税制を作って欲しいと、これから文化庁と共に財務省へ陳情したいと考えています。

 山本さんは先日、経済学者の水野和夫さんとの対談本『コレクションと資本主義』を出版されました。経済と美術という視点をおふたりが組み合わせたことで、従来になかった世界が見えてくるユニークで魅力的な内容です。「今の日本人は、考えることに興味がなくなってしまったように感じます。考えることの面白さにまた気づくことができれば、人生が豊かになりますよ。モノがあふれても、幸せにはならない。だから問題は、自分を失うこと。自分が生きている、自分というものが自分でちゃんと確認できている人は、豊かです。ですから当人が『美しい』と思うモノを手に入れられれば、それも一つの豊かさだと思うんです」。

 一見遠いように思える、美術と経済。そのふたつを行き来し、面白さを提示してくれる画商は多分、この世に山本さんおひとりかもしれません。

 

 

〈プロフィール〉

山本豊津

日本で最初の現代美術の企画画廊「東京画廊」の創始者である山本孝の長男。
武蔵野美術大学造型学部建築科卒業後、衆議院議員村山達雄氏の秘書を経て、1981年より東京画廊に参画、2000年より代表を務める。全銀座会催事委員会委員。アートフェア東京シニアアドバイザー。日本現代美術商協会理事。武蔵野美術大学芸術文化学科特別講師。
世界中のアートフェアへの参加や、展覧会や都市計画のコンサルティングも務める傍ら、日本の古典的表現の発掘・再発見や銀座の街づくり等、多くのプロジェクトを積極的に手がけている。
その他、若手アーティストの育成や大学・セミナーなどで学生への講演等、アート活性に幅広い領域で活動している。
著書に「アートは資本主義の行方を予言する」 (PHP新書)、「コレクションと資本主義」(角川新書)

http://www.tokyo-gallery.com

 

インタビュー 編集長 島村美緒 文 木原美芽