類いまれなブランドストーリーを持つ企業のエグゼクティブにご登場いただくのが、Premium Japan代表・島村美緒によるエグゼクティブ・インタビュー。彼らが生み出す商品やサービス、そして企業理念を通して、そのブランドが表現する「日本の感性」や「日本の美意識」の真髄を紐解いていく。今回は、日本を代表するエレクトロニクス企業であり、現在はゲームとネットワークサービスから映画、音楽、金融や半導体まで多岐にわたる事業を擁するソニーグループ株式会社でAIロボティクスビジネスグループ部門長を務める常務 川西泉氏に話を聞いた。
人工知能とロボット工学を核に新たな製品を開発
1946年、終戦からまだ1年も経たない東京で、「東京通信工業」としてスタートしたソニー。ラジオやウォークマン、ビデオカメラなど日本初・世界初の商品を国内外で次々と発売し、日本のエレクトロニクスメーカーとして一時代を築き、現在はソニーグループ株式会社として、多岐にわたる分野の事業を展開する一大複合企業となっている。その中で、ソニーのAIおよびロボット開発のトップを務めるのが川西泉氏だ。
ゲーム開発は長く、プレイステーションの初代からPS3までを担当。
AIロボティクス事業では、その名の通りAIとロボット工学をベースにさまざまな商品を生み出しているが、中でも一般的によく知られているのが、犬型のロボット「aibo(アイボ)」だ。1999年に発表後人気を博し、いったんは生産中止となったが、2018年に多彩なセンサーとAI、ロボティクス技術を搭載した新モデルとして再登場した。
2018年から発売されている新生aibo ERS-1000。
「最初のAIBOがスタートした当時は、AI、人工知能はまだまだ一般的に認知されていない時代でした。しかし昨今ではAIという言葉も当たり前のように社会に浸透しています。新型のaiboは、そんな社会変化と技術の進化の中で、もう一度エンタテインメントロボットに取り組むタイミングが来た、という判断で開発しました」
Airpeak S1。一眼カメラαを搭載できる。
ソニーの先端技術を集結、映像クリエイターのためのドローン
また最近では、ソニー初のドローン「Airpeak S1(エアピーク S1)」を商品化。産業用から個人向けまですでに数多くのメーカーが存在するドローン市場だが、新たに参入するAirpeakが目指すのは、映像のプロフェッショナルへのアプローチだ。
「ソニーでは長年、放送・業務用ビデオカメラなども手掛けており、映像制作の分野では歴史と知見があります。ドローンの開発においては、それら映像のプロに向けて、ソニーならどう貢献できるのかを考えて取り組みました。クリエイターの方にはデジタル一眼カメラαのユーザーも多く、αに最も適したドローンなら、よりダイナミックな映像制作を実現してもらえるのではないかとスタートしたのがこのAirpeakなのです」
さらにドローンは、機体制御やセンシング、情報処理などの技術が必要だからこそ手掛けるべきという思いもあったという。
「ドローンは“メカの塊”といえます。そうであれば、ソニーの先端技術を存分に活かせるはずで、その思いが開発の起点になりました」
「映像クリエイターに喜んでいただけるドローンを目指しました」
川西氏自身は生粋のエンジニア。入社後ゲーム畑が長く、プレイステーションは初代の開発からPS3までを手掛けた。その後は業務用カメラなどの放送機器、スマートフォンXperia(エクスペリア)などの事業を経て、2017年AIロボティクス事業が本格的に立ち上がったタイミングでそのトップに就いた。現在は常務という経営の要職にはあるが、別の社員の言葉を借りればまさにソニーの“スーパーエンジニア”だ。
車ではなくモビリティ、ロボティクスだからこその発想
そんな彼のチームが手掛け、世界中をあっと驚かせたのが、ソニー初の電気自動車(EV)「VISION-S Prototype」の発表だ。ソニーがクルマを?そして、なぜAIロボティクスチームが?そんな疑問がわくが、そこには一貫性があると川西氏は言う。
「人間や動物の行動と同様に、自律的なロボットは『周りを見て認識し、自分がどうするかを考え、行動に移す』という、『認識』『思考』『行動』のサイクルを繰り返しています。aiboはまさにそのサイクルでペットのように行動しますし、Airpeakも障害物の検知や自動飛行が可能です。VISION-S Prototypeも現時点では実現していませんが、将来的には自動運転への進化も考えており、そうなれば目的地に自ら走行していくことになります。VISION-S Prototypeはモビリティであり、車というよりも移動のためのロボットと捉えることもできます」
ソニー初のEV, VISION-S Prototype。現在ヨーロッパで走行テスト中だ。
人を乗せて目的地に運ぶモビリティとして、デザインは社内のデザイナーのコンペからスタート。
「ソニーでは、これまでは大きくてもTV位までで、あれだけの質量のものを作るということはありませんでした。社員にクルマ好きはいても、そのデザインは未経験ですから、最初は本当にできるのかと思っていました。安全基準もクリアさせた上で、自分たちが考えたデザインが本当に車として成立しているか検証するため、デザイナー同士で様々な意見を交わしました」
エンタテインメントを備えた新たな移動体
そして約2年をかけ、車内の小さなボタンのひとつにいたるまでオリジナルデザインで出来上がったのが、EV「VISION-S Prototype」だ。
「自分たちが追求した近未来感や、室内のエンタテインメントは実現できていると思います。運転席から助手席までフロントパネル全面をディスプレイにするなど、普通の車ではやらないようなことにこだわったところに、ソニーらしさがでているかもしれません」
この日、ソニーのスタッフによる運転で試乗の機会をいただいたが、スムーズな走りだけではなく、驚くのは空間に広がる音の迫力。一見気づかないが各シートにスピーカーが内蔵されており、車内では360度音に包まれる。自動運転が可能になれば、心地よい空間のまま目的地へと人を運ぶ、VISION-S Prototypeがまさに究極の移動空間を目指していることを感じた貴重な体験だった。
最先端の技術で“人に寄り添う”商品を
実は、日本企業で初めてニューヨーク証券取引所に上場したのがソニー。映画や音楽など海外に拠点がある事業も傘下に置くグローバル企業として、川西氏が日本らしさを意識することはあるのだろうか?
「商品そのものは、どんな方にも楽しんでいただけるようにと考えているので、必ずしも日本だからという意識はありません。ただ、デザインも含め細部にとてもこだわりを持つのがソニーの考え方であり、そこは日本的かもしれませんね。特に製造に関しては、Airpeakもaiboも国内で生産し、品質にはかなりこだわりを持っています」
自宅ではペットの犬とaiboが共存しているそう。
そしてどんなに先進の技術を盛り込んでも、AIロボティクスが生み出す商品に一貫してあるのは、「人に寄り添う」というコンセプトだ。
「人がいかに接しやすいか、あるいは人に近づけるかが、基本的なコンセプトです。従って、新たなアイデアを考える時にはユーザー目線を大切にしています。人にどう使ってもらえるか、どう感じるのかが大事だという思いからです」
ソニーの創業者の一人である井深大氏が、創業時に自ら綴った「設立趣意書」には「技術者が、その技能を最大限に発揮することのできる“自由闊達にして愉快なる理想工場“を建設し、技術を通じて日本の文化に貢献すること」と記されている。
現代の最先端の技術者である川西氏、そして彼が率いるAIロボティクス事業は、まさにソニーの文化とその未来を現しているのではないだろうか。
川西 泉 Izumi Kawanishi
1963年生まれ。1986年ソニー株式会社入社。1995年ゲーム事業を担うソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に出向し、プレイステーションの開発を担当。2014年ソニー株式会社執行役員就任。2017年AIロボティクスビジネスの立ち上げに際し責任者に。2021年常務に就任。AIロボティクスビジネス担当 AIロボティクスビジネスグループ 部門長。
島村美緒 Mio Shimamura
Premium Japan代表・発行人。外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、 ティファニー&Co.などのトップブランドにてマーケティング/PR の責任者を歴任。2013年株式会社ルッソを設立。様々なトップブランドのPRを手がける。実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える環境にあったことから、 2017年にプレミアムジャパンの事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。2019年株式会社アマナとの業務提携により現職。
Photography by Hyemi Cho(amana)
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