若手陶芸家・河合和美の手の温もりが伝わってくる手びねりの作品には、独特な感性が光る。そのアトリエは岡山県の人里離れた山の中。築140年の元茅葺きの古民家で、毎日草刈りや芝刈りなどの野良仕事に追われながら、集めてきた薪で風呂を焚き、その灰で釉薬を作り、装飾に使う。自然から得た閃きや学びが、その作品に生かされている。
文・河合和美
「中国茶に触れて、中国茶から学ぶ
きらきらと
茶盃の底から返る光を額に
香りは脳の
隅々まで届けられ
口へ運べばすうっと透明に
染み込み消えて行くような感覚
それと行き違うように
幸福な味わいが波のように押し寄せる」
「白椿」と名づけられた器。
5年程前、台湾での展示会のオファーがきっかけで向き合う事となった中国茶器。小曼先生との出会いはその後に先生が企画した、台北のホテルでのグループ展でした。繋いで下さったのは和紙職人ハタノワタルさん。繊細な香りと味を追い求める中国茶の世界、茶人の方が茶器に高い精度を求める事は知っていましたが、知識も技術も不十分な私の茶器は至らず奔放なまま。しかし先生は初めて手にする私の器をおおらかに受け入れ、むしろ楽しんで、すぐさま使いこなして下さいました。
「小曼先生のお茶会の席は
まるで舞台を見ているよう
うつわはキャストとなり
美しい所作で操られ
見惚れるうちに
小さな盃に注がれた
とろり甘美なお茶が
笑顔と共に届けられる」
2018年京都小慢での河合和美の個展での様子。
そのお茶のなんと美味しいこと。魅了された瞬間でした。昨年2月、京都小慢がオープンし、そちらで始まったお稽古に通い始めました。茶器制作の参考にお茶を知り、楽しむため、何よりも先生の世界にもっと触れてみたかったのが理由でした。小慢のお茶はすべて無農薬無肥料。時には野生の木のものも。大地のエネルギーを自力で吸い上げ、宿した、その力強さ。お茶の辿ってきた長き道のり、お茶作りに関わる茶農家さんや製茶師さん、そして自然への敬意。お稽古では先生の、惜しみなく伝えたいという本気の思いを強く感じました。
桜の頃、岡山の山中にある自邸の庭。二階の窓からの風景。
月に一度、京都にて何らかのテーマを受け取り、持ち帰る。それはお茶のみならず、暮らしと仕事にもリンクして展開されていきます。街へ下りなければ人と会うこともない、山の家に一人暮らすようになり3年目。意外にも孤独と感じる事はなく、植物、動物、虫たちなど、たくさんのいのちに囲まれて生きている、彼らと同列にいるということに気づきました。調和によってのみ、姿や実りを授かる野生の力強いきらめきは、茶盃の底から返るそれと同じものと感じました。
アトリエから見る風景。庭と向かいの山が見渡せる。
ここに暮らすようになってから、うつわには少しずつでも庭の土や暮らしから出る灰をまとわせたいと思うようになりました。日々自然から差し出され、受け取るもの、その喜びを乗せ、届けたい。
2019年台北小慢の展示会で様子。灰釉のスプーンが並ぶ。
お茶・食べ物・花・土や灰……。
遥々ここへやってきたいのちや出来事と、響き合う。うつわはそれを祝福するものでありたいと願うようになりました。小曼先生、お茶、山の暮らしから、投げかけられたいくつものテーマ、そこから多くの実りを授かり今へ辿り着きました。山に引き篭もる私をよそに、うつわたちは時に海を渡り、空を越え、実りは種を、時に思いがけぬ遠くで芽吹かせ、微笑みかけてくれるので、私はまたその喜びに動かされ、今日もうつわを作っているのです。
→次回は沓沢佐知子(彫刻家)です。
(敬称略)
Profile
河合和美 Kazumi Kawai
陶芸家
1984年愛知県生まれ。瀬戸市にて焼きものを学んだのち、岡山へ。山に一人暮らす。いのち響き合う喜びを、うつわで祝福できることを願いながら陶芸活動に励む。主な常設は京都小慢。
2019年11月30日~ Les trois entrepots(愛知)で「ハタノワタル・河合和美 二人展」を開催予定。
https://shop.lt-entrepots.com/about
2020年4月17日~ EDANE(大阪)で個展を開催予定。http://edane.net/
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