ここ2年は海外に行くことが叶わず、日本国内のワインを精力的に見るようにしている中、ワイン仲間が「ぜひ訪問した方がいい」とすすめてくれたのは、北海道・余市町の登醸造だった。
ワイナリーの名前の由来は余市町の登地区にあり、栽培から醸造まで一手に担っているのは、東京から脱サラして移住した小西史明。小西氏の畑に立つと一面、日当たりが良く、気持ちの良い風が抜ける丘。まるでヨーロッパの田舎の葡萄畑に来ているかのような風景に包まれる。彼がブドウをこの地に植えて10年が経過した。1.9haの自社畑で、余市の気候に向いているというドイツ系品種のツヴァイゲルやケルナーを育てている。
畑を案内していただいた後に飲んだ「セツナウタ」。全く切なくなるどころか、口笛を吹きたくなるようなワインに出会えたことに心がときめいた。ロゼワインと謳っているが、明るいルビー色で軽い赤ワインのような深みのある色合い。ロゼにしては濃い色合いとは逆に、味わいはチャーミングで軽快だ。フレッシュなブルーベリー、ハスカップ、チェリー、赤紫蘇のような香りが広がり、溌剌とした酸味が軽快さをワインに与えている。でも、味わいの中盤にはじわりと広がる旨味や、果実味のジューシーさもある。
この軽快な酸味と旨味のある味わいのワインには、ささみを散らしたサラダチキンにバルサミコのドレッシングはいかがだろうか。バルサミコソースに酸味と旨味があるので、ワインと料理を上手に繋げてくれる組み合わせだ。もちろんローストビーフや鴨肉にバルサミコソースなら立派なメイン料理にもなる。気軽なおつまみならポテトサラダに柴漬けを刻んで混ぜると、このワインにあるシソの風味がうまく調和して、ワインがすすむ。
「せつない時に、このワインをかたわらに置いてほしい」という思いを込めて、ワイン名は「セツナウタ」にしたそうだ。小さな生産者ゆえ、生産本数も少ない。ぜひ毎年のワインの出来を追ってほしい一本だ。
セツナウタ 2019
造り手: 登醸造 / 小西史明
所在地:北海道余市郡余市町登
品種:搾汁ツバイゲルト 60%、醸しツバイゲルト 35%、搾汁ケルナー 5%
特徴:秋田県出身の小西史明氏は東京でのサラリーマン生活を経て2009年に余市に移住。2年間の農業研修を経て独立。2011年より自社農園にて夫婦二人でブドウ栽培を始めた。総畑面積1.9ha、1.3haからのブドウは10Rワイナリーに原料出荷。そして残りの0.6haのブドウで自家醸造「セツナウタ」を造る。「セツナウタ」は2015年ファーストヴィンテージ。
合わせる料理:赤ワインと合わせると、ワインが主張しすぎてしまうような時はロゼワインがおすすめだ。サラダチキン、ローストビーフ、鴨などにバルサミコソースでさっぱり食べたい時にこのワインがちょうどいい。他には梅の風味が料理にあるもので、柴漬けを混ぜたポテトサラダもおすすめ。
価格:2,750円(税込)
松木リエ Rie Matsuki
ソムリエ WSET® Level 4 Diploma、A.S.I.世界ソムリエ協会認定 International Sommelier Diploma- Gold。タイユバン・ロブションなどを経て2006年渡仏。南仏にて世界最優秀ソムリエのエンリコ・ベルナルド氏に師事し、その後パリの星付きレストランで6年間ソムリエとして従事。帰国後マンダリン オリエンタル 東京のソムリエを経て独立。現在はキャプラン ワインアカデミーなどで講師をつとめるほか、ワインの普及のための活動を行なっている。
Photography by Sogen Takahashi(amana)
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