窓からの眺望も素晴らしい、フランス料理レストラン「コトシエール」
JR京都駅直結のホテルとして1997年にオープンした「ホテルグランヴィア京都」は、開業当初からダイニングの充実度で、京都のみならず全国的に注目を集めている。その「ホテルグランヴィア京都」のメインダイニングが「コトシエール」。「コト」は「古都」、「シエール」はフランス語で青空を意味する。「ビュー&ダイニング」という名が冠されていることが物語るように、最上階の15階窓からは京都の南西側、遠くは大阪の市街地ビル群まで見渡すことができる絶景のフランス料理レストランだ。
シェフは河本英樹さん。30代で「コトシエール」のシェフに就任した新進気鋭の料理人である。
絶妙な火入れが生む、虹色の輝き
「完璧な火入れができました」
満足気な笑みを浮かべ、シェフ自らが魚料理をサーブしてくれた。高知県の沖合で一本釣りされた4キログラムのスジアラは、船上で神経締めがなされ、厨房で8日間寝かせたあとでも、弾けるような身の締まり具合だ。切り身の表面がうっすらと虹色に輝く。
高知県産のスジアラに鯖のへしこソース。与謝野ホップと未熟苺、オキサリスを添えて。
フランス語で「キュイッソン・ナクレ」と呼ばれる、低温でゆっくりとした火入れの調理法で、虹色は瑞々しく旨味が保たれたまま火が入った証である。ほろりと崩れる身を噛みしめる。ふくよかな白身の味わいに、鯖のへしこが入った滋味深いソースがよく合う。柑橘系の酸味の代わりとした未熟苺と添えたオキサリスが、爽やかな酸味をもたらしてくれる、「コトシエール」渾身の一品だ。
15階に位置する「コトシエール」の眺望は素晴らしく、晴れた日にはアベノハルカスが見えることも。
河本英樹シェフは2014年には28歳の若さで、休職してフランスへ料理留学。1年間に4軒の星付きレストランで研鑽を重ねた。
牛肉文化の京都だからこそ、銘柄牛を用いた黒毛和牛のポワレ
この日のコースの肉料理は、黒毛和牛「京の肉」のポワレ。分厚い杉板の器は北山杉だ。
黒毛和牛フィレ「京の肉」のポワレ。北山杉の器は「コトシエール」開店以来から使われ続けてきたもの。
「『コトシエール』の開店以来使っている杉板です。この器を作ってから随分時間が経っているのに、まだ杉の薫香がし、焼いた牛肉の香りにその薫香が加わります。京都は圧倒的に牛肉、その中でもフィレ肉を良しとする土地です。そんな土地柄のところでお出しする牛肉ですから、質にはかなり気を使い、「京の肉」という銘柄牛を使います」
「ソースに旨味を出し過ぎるな」。印象的な総支配人の一言
魚と肉のシグニチャー料理2品にも、「ホテルグランヴィア京都」の、そして河本シェフの料理哲学が込められている。高知の宿毛漁港から箱買いで仕入れる魚は、今が旬のものがほとんど。しかも厨房で蓋を開けて初めて魚種が判明する。
高知の海から届いた魚の一皿。そのアラで作ったサフラン風味のスープドポワソンとともに。
「その当日、皆で何を作ろうかあれこれ相談して決めていきます。地元でしか消費されない魚が、このような一品になるんだと、漁港の方々が一番喜んでくれる。僕自身もそれが一番嬉しいことです」
ブルターニュ産ピジョンとフォワグラのキャベツ包み。トリュフの香り
「鳩の方は、まさに王道の料理。佐藤総支配人の意見を聞きながら10回以上試作しました。鳩の肉やキャベツへの火の入れ方など細かなアドバイスをいただき、とても勉強になりました。印象に残ったのは、『ソースに旨味を出し過ぎるな』という一言でした。この料理は、ソースで食べるものではなく、素材の旨味で食べる料理だということなのです」
定期開催される「ワイン会」ではソムリエ厳選のワインとのペアリングを楽しむ
「コトシエール」では偶数月の20日は「シェフズディナー」、奇数月の第2木曜日は「ワイン会」を開催。「シェフズディナー」であれば河本シェフが客席まで出向いて料理の説明をし、「ワイン会」であればソムリエが全面に出て料理とのペアリングを取り仕切る。そうすることにより、ゲストの意見をよりダイレクトに料理や飲み物に反映させることができる。
ホテルのダイニングだからこそ堪能できるサービスが心地よい。
オケージョンに合わせて楽しめるバラエティ豊かなダイニング
「ホテルグランヴィア京都」には、「コトシエール」のほか、鉄板焼の「五山望」、日本料理の「浮橋」、オールデイダイニング「ル・タン」、バー「オルビット」などの直営レストランがある。とりわけ「ル・タン」のバイキングは充実。ディナータイムには寿司カウンターが設けられ、本日のお勧めの産直寿司ネタを、寿司職人が目の前で握るサービスや、特設のドリンクコーナでは、ホテル内のレストランで活躍するソムリエやバーテンダーが、料理にマッチしたお酒を選んでくれる。また、「浮橋」では会席料理の他に、夕食限定の「おばんざい」メニューもあり、新幹線乗車前に軽くつまむことができ、旅行客にも人気だ。
さまざまな料理を楽しむことができる「ル・タン」のバイキング。料理にマッチするワインやカクテルなどまで料金に含まれるるため、大人気。
和食「浮橋」は会席料理のイメージが強いが、実は「おばんざい」と共に日本酒を楽しめるエリアも存在。おばんざいで一献傾けてから旅立つという使い方ができるのも、京都駅直結だからこそ。
バーテンダーが作るお酒と、料理とのコラボレーション
2019年に総支配人に就任した佐藤さんは、総料理長であった経験を活かしながら、ホテルの料飲部門でさまざまな改革を打ち出している。
「バーテンダーが作る飲物を料理とマッチングさせる、そんな取り組みを始めようとしています。ソムリエがワインを提供するだけでなく、バーテンダーがレストランに入り、料理に合わせたお酒を作る、そんなシーンがあってもよいと思うのです。良いバーデンダーがたくさんいるのに、昨今の傾向としてバーテンダーが働く場所が少なくなってきています。良いバーがあり、優れたバーテンダーがいる。それが、良いホテルの条件です。それを守るためにもバーデンダーがレストランに参加する機会を作ることが大切だと思います。料理人、サービス、ソムリエ、バーテンダー、すべてが一体とならないと良いホテル、良いダイニングは生まれません」
メインバー「オルビット」で活躍するバーテンダーが、レストランでも活躍する。
やがて日本にも来る、パリのラグジュアリーホテルの流れ
時間があれば、佐藤さんはおいしいものを食べ歩き、話題の場所に出かける。何が人の興味を引き、何が主流となっていくかを見極めるためだ。コロナ禍前には、パリに幾度も足を運んだ。
「パリのラグジュアリーホテルが大好きです。たとえば「ホテル・ル・ブリストル・パリ」。本当に素晴らしいなと思います。何もかもが一流。そうしたパリのホテルは、館内に三ツ星クラスのレストランを招致しているところが主流です。つまり、ダイニングをとても重視しているということです。この流れは、日本にもすでにやってきています。だからこそダイニングをいままで以上に充実させなければなりません」
やがて来るラグジュアリーホテルの流れ。それはダイニングの充実にほかならない。その流れを「ホテルグランヴィア京都」はいち早くキャッチして改革を進めている。
ホテル内のダイニング、どこを訪れても佐藤さんの食への情熱が息づく。これからも「食のグランヴィア」を目指し、口福を届けてくれるにちがいない。
この日は宴会場の厨房に。スタッフに気軽に声をかけながら、料理のひとつひとつを丹念に見て回った。
ホテルグランヴィア京都
京都市下京区烏丸通塩小路下ル JR京都駅中央口
Photography by Makoto Itoh
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