フードディレクター、料理人として幅広く活躍する野村友里さん。東京で生まれ、多彩な仕事柄、丸の内から築地までよく知る人が、宵の銀座での魅力的なスポットとして挙げてくれたのが、「銀座もとじ」だ。日本の織りと染め、手工芸の技と美を広く伝えるこの店の姿勢に、食を通してさまざまな事象を伝える野村さんの、敬意と共鳴がある。
和の文化を守る姿勢に共感して
新橋という花柳界が近いせいか、銀座には有名呉服店が多い。なかでも野村さんのお気に入りは、銀座四丁目の交差点からほど近く、華やぎながらも落ち着いた通りにある「銀座もとじ」だ。
広々としたショーウインドウには四季折々、時節にふさわしいきものや帯が飾られ、凛としてみずみずしい和の美意識に満ちている。「この空間でゆっくり、時間をかけてていねいに作られた織りや染めの作品を眺めるのが好きです」。銀座もとじの二代目、泉二啓太(もとじけいた)さんとも親しく、きものを見るために、また最近は銀座でのイベント開催の打ち合わせも兼ねてよく訪れているという。
店内にディスプレイされた、染織家・柳晋哉さんのブルーのグラデーションが美しい帯地を手に取りながら、啓太さんの話に耳を傾けている野村さん。「もとじさんは、真摯な仕事をする日本各地の作家さんによるきものや帯、その価値と美しさを知る“入り口”となっていることがすばらしいと感じています」。反物を肩にかけてもらうと、野村さんの表情が華やぐ。
二代目の泉二啓太さんと、この夏着たい浴衣を選ぶ野村友理。
きもの姿で立ち働く日を目指して
「きもの好きなのに、茶事以外で着る機会がなかなかなくて」と野村さんは残念そう。しかし普段からきものを着ている友人もいるので、自分ももっときものを身近なものにしたいと思っている。
「週に2日はきものを着て仕事をしたい、とも思います。さりげなく紬を着こなせればいいですね」。紬が気になるのはモダンな柄が多く、着ていても気持ちが良いからだ。そしてなにより、周囲がよろこんでくれるのを感じる。
「きものは着ていることで、相手に誠意やもてなしの心が伝わる優れた装いだと思います」。銀座もとじに来れば、限られた時間で確かな審美眼で選びぬかれた上質なきものに触れられることも嬉しい。
閉店間際、灯りがこぼれる銀座もとじのウインドウ。
ショーウインドウを眺めて歩く楽しみ
銀座はここ数年で大きく変貌している。でも野村さんが好むのは、新しい場所より昔ながらの店や空間。「海外の友人を連れていくことも多く、銀座でも古くからあるお店によく行きますね」。そして銀座の楽しみといえば欠かせないのがデパートやショップのショーウインドウを眺めることだ。「メゾンエルメスのウインドウは国内外の友人のクリエーターが手掛けることもあって、季節ごとに目も心もよろこばせてくれます」。
「銀座もとじ」の閉店は夜7時だが、閉店間際のもとじのウインドウから浮かび上がる美しいきものに目を留めるひとときは、銀座ならではの時間。とりわけ夜には輝きを増すガラス越しの世界。そこには銀座の粋も洗練も、伝統も親しみやすさも映し出されている。日本でも有数のショーウインドウが並ぶこの町には、ただ眺めてそぞろ歩く楽しみもある。
野村友里 Yuri Nomura
料理人・フードディレクター
「eatrip」を主宰し、東京・原宿で「restaurant eatrip」を営む。ケータリング、フードディレクション、レシピ開発を手がけ、生産者との繋がりを大事にしながら紹介していくようなイベントやワークショップを定期的に開催。日本の四季折々を表す料理やしつらえ、客人をもてなす心をベースに、食を通じて様々な角度から人や場所、ものを繋げ、広げる活動を行う。監督作品に食のドキュメンタリー映画『eatrip』、著書に『eatlip gift』、『春夏秋冬 おいしい手帖』、『Tokyo eatrip』などがあり、2019年5月に『TASTY OF LIFE』を刊行。
銀座もとじ和織・和染(呉服・和装小物)
「新しい時代の新しい着物店」をモットーに、様々な顧客のニーズに応え、現代の街並に似合う呉服を提案。作家や専門家を招いての「ぎゃらりートーク」、着付け講座なども開催。ここで紹介した女性きもの専門店で、同空間で2店舗を展開する「和織(わおり)・和染(わせん)」、男性のきもの専門店「銀座もとじ 男のきもの」、大島紬専門店「銀座もとじ 大島紬」の3店舗が銀座の三越新館裏手の同じ通りにある。
東京都中央区銀座4-8-12 コチワビル1階
11:00~19:00(年中無休)
http://www.motoji.co.jp/women
公式 Facebook https://www.facebook.com/ginza.motoji/
公式 Instagram https://www.instagram.com/ginza_motoji/
◆野村友里さんが企画・制作にかかわるイベント、
『#007 eatrip city creatures』 at Ginza Sony Park が2019年4月20~5月24日まで銀座ソニーパークで開催中。
銀座にある資源は水、東京にある資産は人、と野村さんが考え、銀座に湧き出る地下水を使用した水畑を作り、人々の声や音楽を聞かせて食物を育む、という趣向。
各種イベントやワークショップも開催され、全国の美味しいものを集めた eatrip market やアーティストライブも開催される。
www.ginzasonypark.jp/release/19002/
Photography by Ahlum Kim
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