ホテルオークラ東京の「桃花林」といえば、誰もが知る中華料理の老舗である。その総料理長である陳龍誠氏がこの度、黄綬褒章を受章した。過日、それを記念して特別ディナーが開催された。
陳氏は今年還暦を迎えたが、厨房に入ったのは19歳で、27歳にはグアム島で料理長に就任したほどの人物だ。46歳でホテルオークラ東京の総料理長となり、現在に至る。いわば斯界の重鎮である。そのお祝いディナーは、食材に最大限の贅を尽くしたものとなった。
ホテルオークラ東京の「桃花林」の総料理長である陳龍誠氏。
希少な食材の数々と最高の料理人の見事なコラボレーション
まず、「ルイ・ローデレール コレクション244」で祝杯をあげた。
「特製盛り合わせ前菜」は、春のミル貝とゼンマイ、腹上いちばんの大トロとウルイ、フォワグラなどで、どちらかと言えば和を感じさせた。
しかし、次のスープからは本格中華のフルスロットルである。「正宗佛跳牆」は、あまりの旨そうな香りに修行僧ですら垣根を飛び越えてやってくると言われている代物だ。要は、フカヒレ、ナマコ、アワビ、貝柱、椎茸などの最高級乾物、それに冬虫夏草とクコの実、金華ハムなどから出汁を取った贅沢極まりないスープで、戻しの腕が試される非常に手間のかかるものなのだ。
「正宗佛跳牆」は高級感物と薬草から出汁をとったスープ。
味はわずかに薬膳ぽいが、極上コンソメのようなもので、体の細胞に染みわたるくらい素晴らしかった。
次の料理も、日本ではめったにお目にかかれないもので、「仔豚の丸焼き」である。香港に行けば、一頭3万円ぐらいと値は張るが食べられる。今回はスペインから仔豚を取り寄せたとのこと。薄皮餅と甜麺醤と白髪ネギで包んで仔豚の皮だけを食べる。北京ダックの仔豚版だ。豚の脂のついた皮が実に香ばしく美味である。
「仔豚の丸焼き」はパリパリの皮だけを食べる。
「鮑の姿煮込み」は、乾物の戻しが素晴らしく本当に柔らかい。
続く「鮑の姿煮込み」は、超高級な干し鮑を戻してオイスターソースと金華ハムの出汁で煮込んだものだ。鮑はナイフがスッと入るくらい柔らかく、まったりしたディープな味付けである。副菜のホウレン草、チンゲン菜が口をフレッシュにしてくれる。
今回は海鮮尽くしのようだ。次は「キンキの水晶仕立て」だが、北海道から取り寄せたゼラチンの多いキンキをアワビと金華ハムの出汁で蒸し煮にしたものである。魚の身がプリプリとした弾力があり、またアワビと金華ハムの出汁が上品に漂う一品である。
「キンキの水晶仕立て」は、北海道のキンキを出汁で蒸したもの。
メインの最後を飾るのは「活伊勢海老の湯引き」であるが(冒頭の写真)、最初にガラス器に入れた伊勢海老に紹興酒を注いで、バタバタと暴れさせるというパフォーマンス付きだった。香港のちょっと高級な中華料理店に行けば、車海老とかで同様のことはやってくれる。紹興酒の甘味が染みた伊勢海老をまず湯引きしてから、蒸す。それをぶつ切りにして、ニンニク、ショウガ、醤油、ごま油、ネギ、豆板醤などで作ったソースにつけて食すのだ。ソースがいい味を出していた。
「蟹肉とウニの炒飯」は蟹の餡かけが見事。
左はカスタードクリームが入った白玉ダンゴ。
ちなみに、ペアリングされたビバレッジであるが、白ワインがアメリカの「シャトー・サン・ミッシュル インディアン・ウェールズ」、赤ワインがオーストラリアの「ジャイアント・ステップス ヤラ・ヴァレー」、甕出しの紹興酒が「越王台2002 原酒」で、どれもたいへん素晴らしかった。
陳氏は「さらに探求心をもって精進していきたい」と挨拶された。メニューはここに紹介したものとは異なるが、「陳龍誠 紅綬褒章受章記念メニュー」なるものを3月31日まで開催している。陳氏の腕のキレは存分に味わえるはずである。¥19500とのこと。
石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
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