石がそのまま風化した土は、荒く亀裂を帯び2000万年の時を刻む。大蔵山寂土陶板。2019年制作。ギャラリー册にて展示。
Photography by Ikeda Yuichi

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北山ひとみが描く新時代プレミアムリゾート

2019.12.27

3. 陶芸家 近藤高弘と東北の土との出合い。アートビオトープ那須「水庭」幻想の時空間

石がそのまま風化した土は、荒く亀裂を帯び2000万年の時を刻む。大蔵山寂土陶板。2019年制作。ギャラリー册にて展示。

Photography by Ikeda Yuichi

「水庭と空和」-土の本性へ-

文・近藤高弘

 

秋夜の「水庭と空和」アートイベントは、夕刻、安田登さんの舞と謡に始まり、水庭に設置された空和(ウツワ)から火が燃え、幻想的な瞬間が浮かびあがる時空間を体感するものとなった。そして、土を媒介にした水と火の融合は、静寂ともに水庭の闇に沈んでいった。1年間に及ぶ準備と制作は、この45分間のアート・インスタレーションに凝縮され、記憶に残るものとなって終えることができた。

 

昨年、何年かぶりで北山ひとみさんにお会いしたのは、東京画廊で開催していた一柳慧さんと私との「消滅」というタイトルの2人展。一柳さんの音楽と共に、私が制作した土のウツワが、水によって崩壊していく様を提示した内容で、時間芸術である音楽に空間性を、空間芸術である美術に時間性を探求する試みの展覧会であった。その作品を観た北山さんに響くところがあったのか、その後、水庭でのアートイベントのお話をいただいた。

「水庭と空和」アートナイトイベント・インスタレーション。2019年10月に開催された「山のシューレ」では、夜の水庭で能楽師、安田登が舞を披露した。このために制作した近藤の作品(大蔵寂土水火盤)に火を灯した。 「水庭と空和」アートナイトイベント・インスタレーション。2019年10月に開催された「山のシューレ」では、夜の水庭で能楽師、安田登が舞を披露した。このために制作した近藤の作品(大蔵寂土水火盤)に火を灯した。

「水庭と空和」アートナイトイベント・インスタレーション。2019年10月に開催された「山のシューレ」では、夜の水庭で能楽師、安田登が舞を披露した。このために制作した近藤の作品(大蔵寂土水火盤)に火を灯した。

そして、那須を訪れ、石上純也さんの水庭を拝見させていただき、「ここには、何もしないほうが良い。誰の作品にせよ、この水庭の空間バランスやスピリットを崩してしまう」と感じた。ただ、「土を媒介に火の中から水を表出させる」という私のこれまでのコンセプトから、水庭に火というキーワードをイメージすることだけは出来た。そして、夜の水庭であれば、作品はほとんど見えなくなる。水庭のバランスを壊すことが避けられると思った。さて、その後、どのような作品にするか? 試行錯誤が続いていたが、私がこれまでかかわってきた東北の土で作品を制作することだけは決めていた。

釉薬が蛇の鱗のようにひび割れ青黒く光る。大蔵寂土窯変碗。2019年制作 ギャラリー册にて展示。Photography by Ikeda Yuichi  釉薬が蛇の鱗のようにひび割れ青黒く光る。大蔵寂土窯変碗。2019年制作 ギャラリー册にて展示。Photography by Ikeda Yuichi 

釉薬が蛇の鱗のようにひび割れ青黒く光る。大蔵寂土窯変碗。2019年制作。ギャラリー册にて展示。

Photography by Ikeda Yuichi

通常、京都市内の工房では、私は主に九州天草の磁器の土を使用して作品制作を行っている。自らが表現したい作品のための土をブレンドし、宅急便で取り寄せ、造形し、コンピューター制御の電気窯にて焼き上げている。一方、私には、東北の蔵王山麓を抜けていく旧街道の七ケ宿町という所に、もう一つの工房がある。今から20年ほど前に全寮制の高校の中に登り窯を造った。と同時に、裏山から焼きモノに使える粘土を発見したことがきっかけで、その後、毎年夏にワークショップを行うようになった。山から原土を掘り赤松の間伐材を利用して登り窯で焼き上げるという、焼きモノ本来の制作活動を行っている。ある意味、京都での制作プロセスとは対極にあるが、私にとってこの両極が陶芸を考える上で重要な要素となっている。

寂土の鉄分が釉薬変化して銀色となる。大蔵山寂土碗。2019年制作。ギャラリー册にて展示。Photography by Ikeda Yuichi 寂土の鉄分が釉薬変化して銀色となる。大蔵山寂土碗。2019年制作。ギャラリー册にて展示。Photography by Ikeda Yuichi

寂土の鉄分が釉薬変化して銀色となる。大蔵山寂土碗。2019年制作。ギャラリー册にて展示。

Photography by Ikeda Yuichi

そして、今回、アートビオトープのコンセプトや水庭に対峙するにもっともふさわしいと思う東北の土に出合った。それが、丸森にある大蔵山の伊達冠石(だてかんむりいし)が風化した赤土(寂土)である。伊達冠石は、晩年イサムノグチが好んだ石で、錆びた石肌と黒く磨かれたコントラストの彫刻作品は有名である。大蔵山は、2000万年前、2度海に沈んでいると代表の山田能資さんから聞いた。丸い石が、赤土の中から生れ落ちるように出てくる光景は何とも不思議な感じがした。そして私は、石も素晴らしいが、その石が浸食風化した赤土に心惹かれ、作品を制作し始めた。その後、試作を重ねるたびにその寂土は、カタチにおいても釉薬においても様々な表情を見せてくれ刺激を与えてくれる。

伊達冠石と寂土の大蔵山の風景。Photography by Isao Hashinoki 伊達冠石と寂土の大蔵山の風景。Photography by Isao Hashinoki

伊達冠石と寂土の大蔵山の風景。

Photography by Isao Hashinoki

私にとって、土の素材は表現の核をなすものであるが、その土をコントロールするのかしないのか?意図して造りだすことと、不如意や偶然の要素、素材をあるがままに生かすということなど、陶芸における魅力でもあり課題であると感じる。寂土は、その課題や土の造形の本性や核心を、制作を通じて指示し導いてくれているように思う。そして現在、アートビオトープの新設の空間に寂土による陶壁を制作中だ。

 

 

Photography by Kimu Sazi 近藤高弘 Takahiro Kondo 陶芸家 Photography by Kimu Sazi 近藤高弘 Takahiro Kondo 陶芸家

Profile

近藤高弘 Takahiro Kondo

陶芸家

1958年京都市東山清水に生まれる。学生時代は卓球選手として高校・大学の日本チャンピオン、国際大会日本 代表。京都市工業試験場研修生修了後、陶芸家の父・近藤濶の工房で修行。2002-2003年文化庁派遣芸術家在外研修員、エディンバラ芸術大学修士課程修了(Inglis Allen Masters賞受賞)。近年の個展に、瀬戸内市立美術館(岡山)、ジョーンBマービスギャラリー(ニューヨーク)、何必館・京都現代美術館(京都)。メトロポリタン美術館、スコットランド国立博物館、ギメ美術館他パブリックコレクション多数。

 

Photography by Kimu Sazi

 

アートビオトープ那須 https://www.artbiotop.jp/

Text by Takahiro Kondo

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