書道家として鍛錬を重ね、さらに書をアートへと昇華させることで新たな世界観を作り上げた世界的アーティスト、紫舟(シシュー)という女性をご存知だろうか。NHK大河ドラマ『龍馬伝』の題字を書いた人といえば分かる人は多いだろうか。
紫舟の作品は優美でありながら力強く、そして温もりがある。それは彼女自身とも通じている。衆目の一致するところであるが、紫舟は凛々しく、そして常に真っ直ぐである。その熱意はアーティストとしての作品制作だけでなく、社会活動にも表れている。


全ての力を出し尽くした。
まだ腹の奥底にのこっているゾ、底力!
轟々永劫金剛力、疾風烈風、
熱き渦流をときはなて、虎を起こせ、
龍を放て、朝輝(ちょうき)を兆せ!
「轟々!底力!」96万円(税別)
私は、紫舟主催のワークショップ『Love Letter Project』にずっと参加したいと熱望しており、昨年、ついにその機会を得た。参加をしてみると、想像以上にそれは素晴らしいもので、この感動を多くの人に伝えたくて、今回特別にお話を聞かせていただいた。


『Love Letter Project』の様子。
「嬉しいことに、ワークショップに感動してくださる方が多くいらっしゃいます。このプロジェクトをスタートした2005年当時、日本はとても豊かで満たされていました。そんな時代でも、孤独や苦しみがあり、誰にも認められないと嘆く人がいることを知って、書がそういう人々の救いや心の解放につながるのではないかと考えたのがスタートしたきっかけでした」。書は無心になれるとも言われるが、紫舟は無心ではなく少しだけ心を解放してくれるのだと話す。「書に向かう時、筆先や半紙に全神経を集中させるので、その一瞬だけは深い悲しみや苦しみを忘れさせてくれます。そのわずかな一瞬でも心が解放できれば」。〝書の力〟はきっと誰かの助けになる、その紫舟の思いはワークショップに参加してとても伝わってきた。
書を通じて、己の心と向き合い、心を鎮める


書道教室を行っていない紫舟に直接指導をいただける貴重な機会。
『Love Letter Project』は書道を学び、書で感謝する人へ手紙を書くというプロジェクト。書の心得のない私にとっては少しハードルが高かったのだが、学生時代の書道の授業とは全く違う教え方で、私たちに書道の楽しさと発見を与えてくれる貴重な体験であった。例えば、学校では筆を全部下ろさずに大切に扱うようにと何度も言われていたが、紫舟は筆をガンガン紙にぶつけても良いと言ってくれる。


書き手の想いが伝わってくる。
もちろん基本的な点の打ち方、払い、まっすぐに線を引くなどの練習を繰り返し、次には優しい気持ちで書く、強く激しい気持ちで書く、というように心で字を書くという体験をする。すると線の太さや点の打ち方などによって字に表情が生まれ、書き手の心が投影されていく。
そしていよいよ手紙制作に掛かる。大きな和紙いっぱいに、私は2人の娘たちへ感謝の気持ちを綴っていく。心の奥にある感謝の言葉を紡ぎながら、気持ちを込めて筆先に意識を集中。すると素直な優しい気持ちが込み上げてくる。完成した手紙はすぐに小さくプリントしてフォトフレームに入れて娘たちへ贈った。娘たちはどんなプレゼントを贈ったときよりも喜んでくれ、私をさらに感動させた。手紙を書く機会が減っている昨今だが、改めて自分の心を字に表し、その思いを綴る体験には新たな気づきがあったことは間違いない。


一歩踏み出さなければどこにも到達することはできない。
行く人になりなさい、龍が天を舞うが如く。
はじめなければ何者にもなることはできない。
為す人になりなさい、鯉が滝を昇るが如く。
「行かざれば至らず。龍の如く。為さざれば成らず。鯉の如く。」
金額はお問い合わせください。


いいことも、ほどほどがいい。
いいことであっても、頼まれていないよいことは、
時に、相手にはありがた迷惑になることがある。
手間暇かけてお料理をしたときに、
相手からの「おいしい」を期待したり、
「ありがとう」がないからと感情的になったり、お返しを求めたり、
してあげたのにと恩着せがましくなったり、
いつもわたしばっかり…と思ってしまうことは、
誰しもあるだろう。
そんな風に、いいことをしても、
そのことに執着しすぎて、きれいじゃない心が現れることもある。
してあげたのにという気持ちに囚われることだってある。
意識しないところでも見返りをほしがる気持ちが生まれることもある。
お礼がないと不満をもつのもいやだから、
いいことも、ほどほどがいい。
よい加減、いい塩梅、適当な量くらいが、いい。
いいことをしたら、そのことを後追いせず。
はい、終わり。いいことしたね、それで充分!
「ええ湯加減」73万円(税別)
「書は1300年に渡って日本人が大切にしてきた文化です。今、パソコンやスマホが当たり前になっていますが、それでも書道人口は減ることがありません。それは書がずっと私たちの心に寄り添っている証であり、伝統という力となって私たちへ多くの思いを伝えてくれているのだと感じています」。


作品制作に没頭する紫舟の姿。
写真 永田忠彦
紫舟が今後の社会活動として「未来の病院」を作りたいという話も聞かせてくれた。「世界的には健康保険の仕組みがない国も多く、安易に病院へ通えない現実もあります。病院へ行くほどでもない不具合なら、医師や薬剤師ではなく対処できるのが未来の病院です。書やアート、テクノロジーは人々をいやす力を持っていると思っており、それを形にするために今、様々な方と組んで少しずつ実現をしています」。書やアートは私たちに多大な影響を与え、多くの気づきをくれる。それを私は今回の体験で実感をしている。アートの可能性はまさに無限なのである。
(敬称略)


Profile
紫舟 SISYU
書家・芸術家・大阪芸術大学教授
日本の伝統文化である「書」を、絵、彫刻、メディアアートへと昇華させ日本の思想や文化を世界に発信している。フランス・ルーブル美術館地下会場でのSNBA展にて書画で金賞、彫刻で最高位金賞を日本人初のダブル受賞し、「北斎は立体を平面に、紫舟は平面を立体にした」と評される(2014)。イタリア・ミラノ国際博覧会日本館のエントランス展示を手掛け、金賞を受賞(2015)。天皇皇后両陛下(現、上皇上皇后両陛下)が『紫舟展』に行幸啓される(2017)。日本・NHK大河ドラマ『龍馬伝』や『美の壺』、伊勢神宮『祝御遷宮』、明治神宮『明治神宮鎮座百年祭』。
Photo by Noriaki Ito


Profile
平田静子 Shizuko Hirata
ヒラタワークス代表取締役、出版プロデューサー。1969年株式会社フジテレビジョン入社。1984年株式会社扶桑社へ出向し、宣伝部や書籍編集部で編集長として活躍。1994年雑誌CAZ編集長などを経て、同社執行役員、取締役、常務取締役などを歴任。2000年「チーズはどこに消えた?」を出版プロデュースし、販売累計400万部の大ヒットとなる。「日経ウーマン」主催のウーマン・オブ・ザ・イヤーの部門賞受賞。2010年株式会社扶桑社を退職し、同年にヒラタワークスを設立。2016年株式会社サニーサイドアップキャリア(人材ビジネス)の代表取締役社長に就任し、2020年退任。2020年より明治大学評議員。2021年アマナ社外取締役就任。
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