御代田の自然を享受する、スモール・ラグジュアリーな美食体験
文・中村孝則
さる3月16日、ホテルやレストラン事業を手掛けるひらまつグループの「ひらまつホテルズ」が、長野県に「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」をオープンさせた。御代田町は、軽井沢町・佐久市・小諸市のちょうど中間に位置し、どの市町からもクルマで20分ほどの距離にある。交通の利便性だけでなく自然環境の良さが再認識され、リモートワークの後押しもあり、近年移住者も増加している。長野県内でも人口増加する数少ない市町村のひとつという。ホテルはその御代田の、ほぼ手付かずの豊かな森の6万㎡の敷地の中にある。本館を中心にヴィラ棟などは、その自然に溶け込むように設計されていて、客室総数わずか37室という、圧倒的にスペーシャスな演出をしている。
6万㎡もの広大な敷地の中、客室数は37室のみ。ゆったりと自然を享受する贅沢な空間。
御代田の山々に抱かれる、雄大なランドスケープ
現在、「ひらまつホテルズ」は、この最新の「軽井沢・御代田」を含めて、沖縄や伊勢志摩、京都や箱根など日本各地の名勝地に合計7施設を有している。どの施設も客室数を抑え、いわゆるスモール・ラグジュアリー・ホテルのお手本のような経営を展開している。「ひらまつホテルズ」の魅力というか強みは、何と言っても“
たとえば、館内や庭の動線は、レストランに向かう路地の風情を楽しんで欲しいと言わんばかりに、あえて合理的にはしていない。ヴィラから本館への遊歩道は森を散策するような気分を演出し、本館内部もレストランへの導線も、ゲスト同士が重ならないような配置を計算している。そのほかに、ミニキッチンを配した犬同伴のヴィラを作ったり、朝食の「モーニングバスケット」は、外に持ち出して、敷地内の芝生や森で自由に食べられるなど、食に関する遊び心のアイデアも盛り込んでいる。
朝食は「モーニングバスケット」として庭園で楽しめる。「
地元の食材を、ひらまつ流のフランス料理で味わう
肝心の料理である。「ひらまつホテルズ」のホテルのシェフは、基本的にひらまつグループ内のレストランで活躍するシェフから抜擢されるという。「軽井沢・御代田」に就任した料理長の柳原章央シェフも、「レストランひらまつ 広尾」や「メゾン ポール・ボキューズ」、渡仏して「レストランひらまつ パリ店」などで研鑽を積んでいる。その柳原シェフは、開業前の準備段階からこの御代田に通いつめて、すでに40ちかくの生産者を巡ったそうだ。自ら足を運ぶことで、新鮮でベストな食材のルートを確保するだけでなく、料理のアイデアも浮かぶのだという。こうした裁量の多くをシェフに与えているのも「ひらまつホテルズ」ならではの強みではないかと思う。
私が二晩にわたり体験した「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」のディナー・メニューは、合計9皿ほどで構成されていた。どの料理名も食材名だけがシンプルに書かれたものだった。「佐久鯉」「鹿 ゆり根 椎茸」「信州プレミアム牛 グリンペッパー」「猪 白アスパラ」「林檎」といった具合である。地元長野県産の食材を中心に、旬のものが選ばれている。料理はメイン食材を中心に、付け合わせやソースなどもシンプルに構成されている。味わいも、素材の持ち味を生かすアプローチながら、そこはパリを含め実戦経験の豊富な柳原シェフだけあり、濃淡・陰影・緩急・冷温といった、味覚のエッジの利かせ方も冴えて、コースの流れや食後感のバランスもいい。
地元の猟師が仕留めた猪の料理。ペッパーと旬の野菜を添えて。
時々の旬の魚は繊細な火入れが施され、
なにより佐久鯉やジビエなど、この御代田ならではの地元の食材を、ひらまつ流のフランス料理で味わえるのは愉しい体験である。その意味で、ここの料理は御代田を軸にした長野県の“ローカル・ガストロノミー”と捉えていいのだろう。柳原シェフは、数多くの生産者を巡っているが、長野県は地元野菜やフルーツ、畜産やワイン、海なし県ながら佐久鯉やマス類の養殖も盛である。山菜やキノコやジビエといった野生食材の奥行きも深い。ローカル・ガストロノミーということであれば、攻め所や発見どころは未知数である。今後はそのあたりも柳原シェフに攻めてもらいたいところである。
森で暮らすように過ごす豊かなホテルステイと、ローカル・ガストロノミー
地域の魅力でいえば、ホテルのある御代田はかつて縄文人たちが長きにわたって居着き、その遺跡が46箇所も残されている。その中には、縄文人たちが調理した「石蒸し料理」の跡も見つかっているという。縄文人たちは、今から約1万5先年から3先年前まで棲んでいたというが、それは美食の地勢的にも豊かである証であろう。縄文人たちの味覚と、私たちの味覚はかなり違っているだろうから単純な比較はできないだろうが、かつて御代田で食されていた縄文の食文化を紐解いてみるのも、今後のローカル・ガストロノミーのヒントになるのでないかと、個人的には期待もしてしまうのである。
本館客室からは、
いずれにせよ「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」にステイし、その土地の景色や空気や水に浸り、地元の食材を味わうことは、この御代田でしか味わえない美食体験になるはずである。
THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田
長野県北佐久郡御代田町大字塩野375₋723
Profile
中村孝則 Takanori Nakamura
コラムニスト。神奈川県葉山町生まれ。ファッションやグルメやワイン、旅やライフスタイルをテーマに、新聞や雑誌やTVで活躍中。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)、共著に『ザ・シガーライフ』(オータバブリケーションズ)などがある。
Premium Japan Members へのご招待
最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。
Lounge
Premium Salon
By Executives プレミアムジャパン…
Premium Salon