今回のアワードセレモニーには世界40カ国からシェフが集った。

Lounge

Premium Salon

By Executives プレミアムジャパンに集うエグゼクティブたちのブログ

2021.11.9

中村孝則/「世界ベストレストラン50」に見る飲食業界の未来

今回のアワードセレモニーには世界40カ国からシェフが集った。

二年半ぶりに開催された「世界ベストレストラン50」に飲食業界の未来を解く

文・中村孝則

 

さる10月5日。ベルギー王国第二の都市、アントワープで2021年度の「世界ベストレストラン50」のアワードセレモニーが開催された。コロナ禍による再延期を経て、実に二年半ぶりのアワードセレモニーとなった。



このアワードは、世界中の1040人の食の専門家による年に一度の投票によって決められるランキングであるが、今回は二年半の中で追加投票が行われ、コロナ禍でのレストランの活動も踏まえた投票結果になった。ランキングの結果については、一覧表を表示しているので、そちらを参考にされたいが、注目の第1位はデンマークの「noma」に決まった。シェフのレネ・レゼピ氏は、同アワードで合計5回目の首位獲得となるが、「noma」は移転後、新しい店として再出発しているので、厳密に言えば“新生”の「noma」の初の首位ということになるだろう。



2021年度の1位には、デンマークの「noma」が輝いた。5度目の1位である。 2021年度の1位には、デンマークの「noma」が輝いた。5度目の1位である。

2021年度の1位には、デンマークの「noma」が輝いた。5度目の1位である。



2位は、同じくデンマークの「ジェラニウム」が獲得し、ガストロノミー業界における北欧勢の強さを見せつけた。3位は、スペイン・バスク地方の「アサドール・エチェバリ」が獲得。シェフのビクトール氏は、シェフの投票によって決まる「シェフズ・チョイス賞」も同時受賞している。2018年度の同アワードセレモニーがスペイン・ビルバオで開催されたこともあり、「アサドール・エチェバリ」の評価はその影響に加え、薪焼きでの熱源で新たな味わいを作り出していることも加味されてのことだろうと私は推察する。21世紀以降に料理革命を起こした分子料理の対極ともいえるプリミティブなアプローチは、未来の美食のあり方にも一石を投じている。また4位の「セントラル」、7位の「マイド」は、ペルーから、9位の「プジョール」はメキシコと、中南米のレストランの活躍も面白い傾向である。同アワードが体現する世界の美食の多様性を反映している証でもあるだろう。



美食の勢力図の激変。ガストロノミーの新世界化が加速

 

今回の上位のランキングで私が注目したのは、20位以内にフランスのレストランが入っていないことだ。23位に、ようやくパリの「アルページュ」が顔を出す。美食における歴史と権威の象徴であったはずのフランスのレストランの牙城が崩れ、美食の勢力図が目まぐるしく変化している象徴ともいえるのだろう。そして今回は、コロナ禍を挟んで二年半ぶりということもあり、世界から8店のニューエントリーがあり、2店の復活もあった。レストランにとってはコロナ対策も含め、難しい時代であるが、逆にそれは世界中のレストランにとってチャンスでもあり、食べて側からすればこれほど面白い時代はないと私は思うのである。



50位までのリストを見ると、美食の勢力図の変化に気が付く。 50位までのリストを見ると、美食の勢力図の変化に気が付く。

50位までのリストを見ると、美食の勢力図の変化に気が付く。

 



1位を獲得したレネ・レゼピ氏は、壇上で受賞の理由について「変化し続けること、新たな課題に挑戦し続けること」と語っていたように、レストランが提供できうる、あらゆる可能性を探り続けることが、これからのガストロノミーに期待されるということである。少なくとも、このアワードに関しては見逃してはならないポイントではないだろうか。

 



傳、NARISAWA、フロリレージュが入賞
コロナ禍においても続く、日本勢の奮闘

 

注目の日本のレストランであるが、今回は3店舗が入賞した。日本勢のトップは東京・神宮前の「傳」に決まり、前回と同じ11位を獲得した。もう少しで10位圏内と惜しいところだが、日本への入国を制限している現状を踏まえると大健闘と言えるのではないだろうか。

 

19位には東京・青山の「NARISAWA」が、前回から順位をあげてランクイン。その根強い人気は、成澤由浩氏が一貫して表現し続ける「イノベーティブ里山キュイジーヌ」の世界観に世界の人々がようやく追いついてきた感すらある。そして39位には、東京・神宮前の「フロリレージュ」が入賞。初の世界ランクインという快挙を果たした。シェフの川手寛康氏の数年来の地道な活動が、この結果に結びついたというのが私の感想である。来年以降もさらなる高みを目指してほしいと願うのである。



「傳」は日本最高位の11位、「NARISAWA」は前回から順位をあげて19位。「フロリレージュ」は、初入賞で39位にランクインした。 「傳」は日本最高位の11位、「NARISAWA」は前回から順位をあげて19位。「フロリレージュ」は、初入賞で39位にランクインした。

「傳」は日本最高位の11位、「NARISAWA」は前回から順位をあげて19位。「フロリレージュ」は、初入賞で39位にランクインした。

 



誰も取り残さない食の未来をつくること
ポジティブなメッセージでアフターコロナを生きる

 

今回のアワードは、フランダース地方が誘致しアントワープの「フランダースミーティング・コンベンションセンター」が会場となり、世界の40カ国からシェフが集い、120のインターナショナル・メディアを含め700名以上の人が世界から集った。ベルギーでは2回のワクチン接種もしくは48時間以内の抗体検査の陰性証明があれば、原則的に飲食店の入店は自由で、アルコールや時短などの制限もない。写真をご覧いただければわかるように、会場でのマスク着用はほとんどない。

 

個人的な印象で言えば、ベルギーやフランスのレストランシーンは、ほぼ平常に戻っている。しかも、このような大規模な美食イベントも開催され始めているのである。日本では、未だEU圏内からの渡航制限を設けているが、国際的な相互主義からも不公平な印象を受けるのである。もちろん、多様な意見があるのは承知の上であるが、日本にとって観光の要である飲食業界を復活させることこそ急務ではないだろうか。



会場となった「フランダースミーティング・コンベンションセンター」には、世界から700名の関係者が詰めかけた。 会場となった「フランダースミーティング・コンベンションセンター」には、世界から700名の関係者が詰めかけた。

会場となった「フランダースミーティング・コンベンションセンター」には、世界から700名の関係者が詰めかけた。



日本からは、50NEXTに選ばれた「エテ」の庄司夏子氏も参加。 日本からは、50NEXTに選ばれた「エテ」の庄司夏子氏も参加。

日本からは、50NEXTに選ばれた「エテ」の庄司夏子氏も参加。



ちなみに今回のアワードは単にランキングを競い合うだけではなく「誰も取り残さない食の未来をつくること」そして「ポジティブなメッセージを発信すること」が大きなテーマとなった。“誰も”という中には、シェフやレストラン関係者だけでなく、観光業や農林水産業者や畜産加工業者、あるいはテーブルウエアや食の研究者など、食にかかわる全ての人々を対象にしていることを見逃してはならない。このアワードを開催することが、多くの関係者を物心双方で応援すること目指しているのである。その意味で、日本でもこうしたイベントが開催されることを個人的にも強く願うのである。

 

 

ちなみに、50ベストはこの信念に則り、来年度の「世界ベストレストラン50」および「アジアベストレストラン50」の開催にむけて準備を進めている。いずれ、オフィシャルサイトで発表される予定なので、読者のみなさまも注視してほしい。このコロナ禍を経て、人々が食の本質に目覚め、未来に明るい復活があることを切に願うのである。

 



中村孝則 Takanori Nakamura 中村孝則 Takanori Nakamura

Profile

中村孝則 Takanori Nakamura

コラムニスト。神奈川県葉山町生まれ。ファッションやグルメやワイン、旅やライフスタイルをテーマに、新聞や雑誌やTVで活躍中。現在、「世界ベストレストラン50」日本評議委員長も務める。剣道教士7段。大日本茶道学会茶道教授。著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)、共著に『ザ・シガーライフ』(オータバブリケーションズ)などがある。


最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

Lounge

Premium Salon

By Executives プレミアムジャパン…

Premium Salon

ページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。