『武と建 ~火の國のまほろば~』『武と建 ~火の國のまほろば~』

Lounge

Premium Salon

尾上菊之丞日記~よきことをきく~

2026.9.25

尾上菊之丞x尾上松也x土屋太鳳が熊本復興への祈りを込めて演じる『武と建 ~火の國のまほろば~』

こんにちは、尾上菊之丞です。

まずは何より、7月28日の熊本地震で被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く日常を取り戻されますことを強く願っております。

 

私はその前日、熊本を訪れていました。10月3、4日に熊本城ホールで上演される詩楽劇『武と建~火の國のまほろば~』のため、ヤマトタケルを演じる尾上松也さんと共に熊本城や市役所へ伺わせていただいたのです。この公演は、2016年の熊本地震から10年という節目に、復興支援イベントとして立ち上がったもので、少しでもその力になれたらという願いから企画されたものでした。





そうしたなかで、再び大きな地震が起こり、熊本の皆さまの不安やご苦労を思うと、本当に胸が痛みます。副知事や副市長、KKT熊本県民テレビの方々はじめ、熊本の皆さまにお会いして、明るく前向きに復興へ力を注がれているのを目の当たりにしたばかりでしたので、身を切られるような思いでした。何もできないもどかしさがありますが、皆さまのおかげで10月の公演は行われることとなりましたので、この舞台を通して復興への歩みに寄り添い、その祈りや希望をお届けすることができたらと思っております。

 




熊本城の石垣に込めた、復興への祈願



尾上菊之丞、尾上松也 熊本城にて 尾上菊之丞、尾上松也 熊本城にて

熊本城を尾上松也さんと訪問し、栗石にメッセージを書かせていただきました。



7月27日に熊本へ伺った際、副知事と副市長へ表敬訪問させていただいたのですが、その時点で「熊本城の完全復旧までにはあと26年かかる」という説明を受けました。

 

天守閣は10年前の震災後、シンボリックな存在として真っ先に復興作業が進められ、すでに上まで昇れるようになっています。一方で、本丸御殿などの建築物や石垣の復旧には長い時間が必要です。特に石垣は、当時どうやって作られたのだろうというくらい見事に計算されていて、石の置かれる場所を調べるところから始まり、一つひとつを元の場所に戻していく。今の技術で戻せるのは、1日に4、5個ほどだそうです。その石が約2万個――。広い敷地には、番号がふられた大きな石がばーっと並べられていました。



大きな石は石垣の表面に置かれる、築石。中に埋め込まれる少し小さめの石は「栗石(ぐりいし)」と呼ばれます。その栗石に、松也さんとメッセージを書かせていただきました。熊本城の復興は、熊本で暮らす皆さんのエネルギーになっています。お城だけではなく、そういう方々の思いを支える石ですから、心を込めて「祈願(いのり)」と記しました。僕たちが身を置く芸能というものは、そもそも根底を辿ると「祈願」に行きつきます。それが、復興への願いと繋がったらと思っています。

 



尾上菊之丞と尾上松也 尾上菊之丞と尾上松也

地元メディアの取材を受けているところです。



くまモンと尾上菊之丞 くまモンと尾上菊之丞

なんと、あのくまモンとツーショット。



僕も松也さんも初めての熊本城だったのですが、壁が黒い天守閣には威厳があり、力強さが滲み出てくるような風格がありますね。お城の周りには工事の様子を見られるルートが作られていて、復興の過程を間近に感じることができます。色々な説明をしていただきながら、お城の周りを巡ったのですが、触れ合う方々皆さんが熊本城を誇りに思っていることが伝わってきました。松也さんと一緒に〝熊本〟という土地の空気を感じられたことは、『武と建』の公演にあたって大きなことです。やはり士気が高まりますし、作品世界に入っていく角度のようなものが確実に変わるんですよね。舞台の創作に向けて、大切な旅となりました。



翌日は松也さんと別れ、僕は次の目的地である島根に行くため、博多へ。その夜に地震が起こり、愕然としました。熊本でお世話になった方々の顔が浮かび、どうすることもできないのですが、いても立ってもいられない心境で……。何か少しでも力になりたいと。

 

熊本の皆さんが、加藤清正が整備した地下水を誇りにされていて、「熊本は水道水が一番美味しい」とおっしゃっていたことも印象に残っていたんです。その水道が止まってしまったことを知り、東京からだと時間がかかるということで、鹿児島の知り合いを通してペットボトルを送ったり、とにかくできることを探しました。今もまだ大変な状況にある方も多いと思うのですが、石垣に込めた自分の思いとともに、自分のできるかたちで熊本の皆さまに寄り添っていきたいと思っています。



石見神楽と出雲大社で感じた、先祖の足跡



島根では、まず益田市を訪れました。益田市の石見神楽とは、昨年末の詩楽劇『八雲立つ』をはじめ、他の作品でもご一緒しているんです。そのたびに東京に来ていただいているのですが、いつか益田市でも公演ができたらいいなと思っています。

 

神楽は神に奉納するためのもので、その歴史は岩戸に隠れる天照大御神(あまてらすおおみかみ)を誘い出すために天鈿女命(あまのうずめ)が舞った踊りが起源だと伝えられます。そのなかで、石見神楽は神事でありながら芸能の要素も強く、僕らと通じるところが多くあるんです。

 

五穀豊穣や天下泰平を願って舞を捧げた『三番叟』のように、踊りは農耕民族だった我々が生きていくために必要なものだったのではないでしょうか。石見神楽とご一緒して、そういう根源的なルーツをより深く感じるようになりました。僕が刺激を受けたように、石見神楽の方々にも僕らから何かを感じていただき、お互いに高め合い深め合っていけたらと思っています。



出雲大社 神楽殿にて 出雲大社 神楽殿にて

出雲大社の神楽殿にて。正面の大注連縄は長さ約13メートル、重さ5.2トンだとか!



その後、約10年ぶりに出雲大社へ向かいました。かつてオオクニヌシを主役にした『創国記~神々の宿命』(2013年の日本舞踊協会新作公演)を演出した際に参拝して以来、ずっとお礼参りをしたかったのですが、なかなか伺えずにいたんです。

 

 

今回の『武と建』も日本神話を扱っていますし、八百万の神様が集まるとされる出雲大社の空気を吸いたいと思っていました。いわば創作活動の一環でもあります。本殿の前で手を合わせていると、目に見えない大いなるものの存在を静寂のなかに感じると言いますか、そういう雰囲気に包まれるんですよね。

 

大注連縄(おおしめなわ)がちょうど1週間ほど前に新しくなったばかりで、とても綺麗でした。飴色になっていく注連縄も風情がありますが、真新しいものならではの気持ちよさがあります。縄を綯う技術もすごいですよね。熊本城の石垣に重なる職人技を感じました。

 

時を越えて残されてきたものに触れると、先祖の足跡を感じることができますし、それが確実に僕らの芸能に繋がっていると実感します。



踊ることと祈ること



現代は、ストリートダンスやアクロバットなど、フィジカルな体の動きにおいては圧倒的な技術を持つ素晴らしいダンサーがたくさんいます。そこで勝負をしようしたら、日本舞踊は敵わないかもしれません。ただ、神話の時代から繋がるルーツが根底に流れていることは、僕らの芸能の価値なのではないかと思います。

 

そのことを大切に創作するようになってから、日本舞踊の根本には「祈り」があると強く感じるようになりました。踊ることと、祈ること。この二つは、繋がっているんです。目に見えない思いや祈りを体に宿して表現し、それがお客様へと伝わっていく。



尾上松也 尾上松也


土屋太鳳 土屋太鳳




尾上菊之丞 尾上菊之丞



土屋太鳳、尾上松也、尾上菊之丞 土屋太鳳、尾上松也、尾上菊之丞

10月に上演する『武と建』は、いかにして熊本が「火の國」と呼ばれるようになったのか、ヤマトタケルの熊襲征伐を題材にしながら、熊本という土地を「まほろば」として描き出す新作です。ヤマトタケルとタケル姫の愛、景行天皇との親子の愛など、「共生と愛」をテーマに、生きていくことの力強さも表現したいと思っています。そして、見てくださった全ての方が〝熊本〟を感じる舞台にできたらと願っています。

 

皆さまの活力になるような舞台を届けられるよう、松也さん、土屋太鳳さんをはじめとする出演者やスタッフと共に、復興への祈りを込めて丁寧に作り上げていきたいと思っています。

 



令和8年 熊本地震復興支援イベント

詩楽劇『武と建(タケルとたける)~火の國のまほろば~』

日時/2026年10月3日(土)・4日(日)

開演時間/12時・15時30分(全4公演)

会場/熊本城ホール メインホール(熊本県熊本市中央区桜町3番40号)

構成・演出・振付/尾上菊之丞

脚本/戸部和久

出演/尾上松也(ヤマトタケル)、土屋太鳳(タケル姫)、林佑樹(イザナギ)、舞羽美海(イザナミ)、尾上菊之丞(景行天皇)ほか

料金/SS席 10,000円、S席 8,000円、A席 6,000円

(当日券は、SS席 11,000円、S席 9,000円、A席 7,000円)

公式サイト/ https://takerutotakeru.com/

 

*「文化庁 劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業」対象公演で、

4歳〜18歳のお子様をA席に無料招待。(同伴者は半額)

未来を担うお子様たちが舞台芸術に触れる貴重な機会です。

詩楽劇『武と建 ~火の國のまほろば~』公式サイト

 





















































Text by Natsuko Ohki










尾上菊之丞 Kikunojo Onoe

■尾上流四代家元 三代目尾上菊之丞 (おのえ きくのじょう)

1976年生まれ。2歳から父に師事し5歳で初舞台、2011年尾上流四代家元を継承し、三代目尾上菊之丞を襲名。自身のリサイタル「尾上菊之丞の会」、狂言師茂山逸平氏との「逸青会」を主催。新作の創作にも力を注ぎ、様々な作品を発表。新作歌舞伎や花街舞踊、宝塚歌劇団、OSK日本歌劇団やアイススケート「氷艶」「Luxe」など様々なジャンルの演出・振付を手掛ける。京都芸術大学非常勤講師/公益社団法人日本舞踊協会理事

 

「菊之丞FAN CLUB」へのお問合せは、尾上流公式サイトをご覧ください。











最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

Lounge

Premium Salon

尾上菊之丞日記~よきことをきく~

Premium Salon

not_post_contentページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。