シェフ目黒浩太郎

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未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.4.3

2. 「abysse」シェフ目黒浩太郎~「成功のレール」がない今、僕たちが目指すもの

「成功パターン」がなくなった現代のレストラン業界

abysse(アビス)。フランス語で「深海、奥深いもの」を表す言葉を名に掲げたレストラン内は静かで、文字通り海の底にいるかのような雰囲気が漂う。昼下がりの店内ではセーター姿の若者が一人、緊張しつつも感動の面持ちで料理を堪能している様子が印象的だった。調理の専門学校に通う学生なのだという。深海の主、目黒浩太郎シェフは、この場所でスタッフ一丸となって目指している先に何があるのかを話してくれた。

 

「1985年生まれの僕ら世代が、今や料理界では“若手”でなくなりつつあります。独立後に開業して5年。その時は20代でした。20代のシェフは、当時は珍しい存在だったような記憶があるのですが、今周りを見渡すとたくさんいます。料理人のモデルパターンが多様化したのが、まさにここ5年10年のことだったのではないでしょうか」。おっしゃる通りで、かつては「料理学校を出て都内有名店で経験を積んで渡仏して星付きレストランで修業して凱旋帰国してオーナーシェフに」という明解な成功パターンがあった日本の飲食業界だが、昨今、大きく変わった。

 

渡仏の代わりに、北欧、南米、北米、豪州、アジアと、ガストロノミーのホットスポットは今や世界中にある。師弟制度や働き方にも変化が訪れたし、食べ手側にしても、「星付き」以外にも注目すべき料理コンペティションが増え、その結果、レストランの評価基準もダイバーシティーが良しとされるようになった。そんな中、逆に何を目指して歩めばいいのか、目的探しが難しくなっているのでは?

料理 料理

春の料理の一皿「細魚 玉露」。細魚(さより)に軽く塩をし、添えた葉野菜に玉露のオイル。味わいある塩味と玉露の旨みをオイルがまとめ上げた軽やかな料理。


トップポジションからの景色を、自身の目で見るために

「僕が今、どこを目指して進んでいるかというとおそらく、絶対的な“格”を手に入れることだと思います。もちろん、もっとディテールに言及すると、納得のいく食材やブレない料理の確立などもあるんですが、さらにその先に見据えているのは、圧倒的な存在感を放つ店であり、料理人になることです。僕はこれを素直に野心だと認めているし、この思いが自分のモチベーションになっていると自負しています」と目黒シェフ。脳裏にあるのは、かつて出席した料理コンペティションの授賞式だ。自身も晴れがましい栄誉を与えられたが、その日、トップの栄冠に輝いたシェフたちを壇上に眺めつつ「いつか彼らが見ている光景を自分の目で見てみたい」と固く心に誓ったのだという。

 

理想の料理、そしてその先にあるものを見据え、目黒シェフの日々は趣味とも仕事ともつかないスケジュールで埋め尽くされている。例えば、レストラン巡り。ライバルシェフが営むフレンチやイノベーティブも時には行くが、「基本はお寿司を食べに行くことが多いです。魚のことを最もよくご存知なのが寿司の料理人だと思っており、最高の魚の味を確かめに行く作業、ですね」と語る理由は、abysseの料理の代名詞でもある魚介をさらに勉強することにある。器ギャラリーでは主に個展を見に行く。親しくなった若手作家にはその後、自身の料理を盛るのに最適な器を焼いてもらうことも多々あるという。

 

生き馬の目を抜く華やかな世界には味をつかさどるあらゆるアーティストがいるが、目黒シェフのように静かにコツコツと闘志を燃やす料理人は、逆にその生真面目さが新鮮に映る。一段一段、その階段を上がっていく姿を今、見ておくべき人だ。

目黒浩太郎 Kotaro Meguro

1985年生まれ。和食の料理人だった祖父、栄養士の母の影響を受け、自身も幼少期より料理の道へ。服部栄養専門学校卒業後に都内数店に勤務し、その後渡仏。マルセイユの「Le Petit Nice」での修業を経て帰国し「カンテサンス」へ。2015年独立し、魚介と山の恵みを得意とするフレンチ「abysse」開業。2019年、代官山に移転。

 

アビス abysse

東京都渋谷区恵比寿西1-30-12 EBISU-HILLS1F

03-6804-3846

12:00~13:00(L.O.)

18:00~20:30(L.O.)

水曜定休

ランチ 季節の食材 11皿のお料理 12,000円

ディナー 季節の食材 13皿のお料理 15,500円

*税・サービス料別

Premium X 未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

(敬称略)

Text by Mayuko Yamaguchi

 

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