シェフ信太竜馬

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.4.17

5. 「élan」シェフ信太竜馬~「新しい伝統」を創り上げるタフなニューフェイス

自身で認識しない限り「不利な状況」は存在しない

2020年1月10日、自身のレストランを生まれ育った東京都渋谷区にオープンした。それから約3ヶ月、世界は新型コロナウィルスに翻弄され続け、4月6日からは一時的な営業自粛期間に入った。しかし信太(しだ)竜馬シェフの表情に悲壮感はない。

 

「仕方ないですよね。仲間の料理人たちも、みんなが同じような状況にいるわけですから。私は24歳でオープン2日目の銀座『ESqUISSE(エスキス)』に就職して7年を過ごしましたが、開店当初のレストランの厨房の凄まじさときたら、言葉にするのも難しいほどです。今、コロナの流行でお客様をお出迎え出来ず残念な状況ではありますが、この時期を、走り始めた店の改善と対策に充てられるんだと前向きに考えるしかないと思っています」と、朗らかに語ってくれた。

 

料理人という商売では「今」が最も大切で、過去はあくまでも過去だが、それでも信太竜馬という若い料理人がこれまでに辿った道のりは“エリート”と呼ぶにふさわしい。詳しくはプロフィール欄をご覧いただくとして、フランス料理界の重鎮と言われる「ロオジエ」や「トロワグロ」で修業し、さらに「エスキス」ではリオネルシェフだけでなく、「ロブション」出身の先輩たちのエスプリも吸収しつつ、時にそれらが厨房内でぶつかり合うこともあっただろうに、常に一料理人として上司であるシェフの料理を正しく表現することに淡々と努めてきた。そんな信太がいよいよ自身の方向性を作るに当たって重視したのは、「新しいトラディショナル」だった。

コースより「ラングスティーヌ タイマンゴー チョリソーとアンディーブ 金糸瓜 ソースシヴェ」。シンプルながら細部に施された手間と時間が、口に入れた瞬間から抗えない感動を生む。 コースより「ラングスティーヌ タイマンゴー チョリソーとアンディーブ 金糸瓜 ソースシヴェ」。シンプルながら細部に施された手間と時間が、口に入れた瞬間から抗えない感動を生む。

コースより「ラングスティーヌ タイマンゴー チョリソーとアンディーブ 金糸瓜 ソースシヴェ」。シンプルながら細部に施された手間と時間が、口に入れた瞬間から抗えない感動を生む。


肩肘張らずにガストロノミーを楽しむ人を増やしたい

パリと東京のトップダイニングの厨房で鍛え抜かれた1988年生まれの信太。「トラディショナルな料理」は、そんな彼にとって逆に新鮮な魅力で満ちあふれているという。モダンな内観や色・器遣いの斬新さに若々しい楽しさがある「élan」だが、一方で各テーブルには真っ白なクロスがかけられ、メイン料理の後には様々なチーズを客に選ばせる伝統的な「チーズプラトー」が登場する。「これをやるのが夢でした」と本人は楽しそう。

 

「ルールを崩したりあえてカジュアルなアプローチにしたり、はたまた超実験的な手法を盛り込んだりと、料理の世界は日々変化しています。私の理想の一つとして、トレンドを追うだけではなく、ガストロノミー(美食文化)が好きでレストラン巡りをする若い世代が増えればいいな、というのがあります。技法とか食材に関係なく美味しい料理を味わえばそれはそれで単純に幸せですが、そこにちょっとした知的好奇心が備わるとレストランはもっと楽しくなる。思い入れを持って料理を味わえる、そんな日本人が増えたら素敵です」。

 

信太の記憶に残る、強烈に格好いい食べ手の姿がある。白金高輪の名店「コートドール」で、一人で食事を楽しんでいた50代くらいの女性。「当時、同席した友人と私は料理学校に通う学生で、憧れの店でガチガチに緊張して味もわからないような状態だったんですが、その方は本当に楽しそうにアラカルトの食事を召し上がっていて。さらにレストランも料理もサービスも、何もかもが格好いい。忘れられない光景です」。

 

見た目の初々しさとは裏腹に、骨格の備わった料理観と動じなさが際立つ人。信太竜馬シェフの持ち味は、これだ。新型コロナウイルス感染症が収束する頃には、ひと回りもふた回りもグレードアップしたレストランとなって、年数を重ねた店に引けを取らない店となっているだろう。

信太竜馬 RYOMA SHIDA 

1988年東京生まれ。都内高校卒業後、辻調理師専門学校へ。同校フランス校を首席で卒業し、ロアンヌ「メゾン・トロワグロ(現トロワグロ)」へ。以降、銀座「ロオジエ」、パリ「オテル・ドゥ・クリヨン」を経て2012年銀座「ESqUISSE」に。2015年、初代「YOUNG CHEF」日本代表。2020年1月、表参道に自らの店「élan」オープン。
※4月6日から営業自粛中。再開時期はインスタグラムで発表予定。

 

エラン élan
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE4F
03-6803-8670
18:00~21:00(L.O.)
水曜定休
ディナー 10皿のコース ¥15,000、12皿のコース ¥20,000
*税・サービス料別

Premium X 未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち
和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

Text by Mayuko Yamaguchi

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新…

Premium X

ページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。