メイン画像川手寛康シェフメイン画像川手寛康シェフ

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.6.5

12. 「フロリレージュ」シェフ 川手寛康~料理を何につなげるかが今後の課題

料理人の幸せとは、その仕事で誰かをハッピーにすること

このインタビューのちょうど1ヶ月ほど前、神宮前の人気レストラン「フロリレージュ」を率いる川手寛康シェフには晴天の霹靂ともいうべき“事件”が起こった。ふとしたことから、左足首を骨折したのだ。インタビュー時、そしてその直後に開催された「アジアのベストレストラン50」の授与式では、痛々しいギブス姿で登場して多くの人々から心配の声をかけられた川手だが、変わらない笑顔は健在だった。

 

「救急車で病院に運ばれ、そこからは手術もあってほぼ1ヶ月入院しました。今、私がどれほどの幸せを感じているか、おわかりにならないと思いますよ。店にいられて、仲間がいてくれて、厨房に立てるのですから(※本当は医者から止められていたが)。こんなに長く料理から離れるのは初めてのことでした」。

 

厳密に言えば、川手シェフにとっての幸せとは「料理をすること」ではないという。「自分の料理によって、誰かがハッピーを感じてくださるのを垣間見るときに味わう満足感は、おそらく料理人に許された最高の贅沢」だと語る。その証拠として「もし無人島にたった一人漂着してしまったら? そこに素晴らしい食材がたくさんあったとしても、誰かに食べてもらえない料理はしないでしょうね」と茶目っ気たっぷりに打ち明けてくれた。

シグネチャーの一皿「サステナビリティ」。出産を経験した経産牛はこれまで、味が劣るとされ廃棄処分にされることが多かったが、川手はこれに厨房で出る屑野菜で作るブロスを合わせてメイン料理へと昇華させた。 シグネチャーの一皿「サステナビリティ」。出産を経験した経産牛はこれまで、味が劣るとされ廃棄処分にされることが多かったが、川手はこれに厨房で出る屑野菜で作るブロスを合わせてメイン料理へと昇華させた。

シグネチャーの一皿「サステナビリティ」。出産を経験した経産牛はこれまで、味が劣るとされ廃棄処分にされることが多かったが、川手はこれに厨房で出る屑野菜で作るブロスを合わせてメイン料理へと昇華させた。


食のダイバーシティーの中で、自分は“何担当”なのか?

いつも「フロリレージュ」のコの字型のカウンターは川手の料理を味わいたいゲストで満席。彼の料理がそんなファンたちに幸せを与えているのだが、実は他にも“川手ハピネス”を享受している人はたくさんいる。しかしそのことはあまり知られていない。例えば、食材の生産者。名店「カンテサンス」から独立して自身の店をオープンして以降、人気は安定しているけれど、店で使用する食材は当初と比べるとかなり趣が変わった。

 

「美味しければ正解、というのであれば、輸入食材や高級食材をバンバン使って好きに作ればいい。けれど、今や料理人の使命は美味しさの追求だけではありません。新型コロナウイルス後の飲食業界で手腕を問われているのが、時代、世界、環境、教育、フードロスなど、料理を通じてどんな社会貢献ができるかということです」。

 

より“意味と意義のある料理”を追求する川手が、これまで市場価値が低いとされてきた経産牛(出産を経た雌牛)や、南米奥地で原住民が大切に育て続けるアマゾンカカオなどの食材を多く用いるのは、食べ手が食事という手段を通じて世の中を勉強できるようにという思いからだ。また、家族で囲む料理こそが食の原点だという思想から、池袋の西武百貨店内カルチャーセンターで主婦向けの料理セミナーの講師を10年も行っている。数々のレストランアワードで受賞歴を持つシェフが講師だとは知らず、川手に習ったフランス家庭料理を自宅で作って大喜びで報告してくれる主婦も多いという。

 

「多様性という言葉は好きですね。自分なりに言い換えると『担当』という言葉がしっくりきます。料理人といっても本当に様々で、超がつくような前衛料理で表現を続ける人もいれば、頂点のみを目指して孤高の戦いを続ける人もいる。では私は? まだ答えは出ていませんが、今やっているいろいろなことがつながって、自分が何の担当であるかが、徐々にクリアになるのではないかと思っています」。

川手寛康 Hiroyasu Kawate

1978年、東京生まれ。高校卒業後都内レストランでの勤務ののち、西麻布「ル・ブルギニオン」へ。スーシェフを務めた後渡仏し、帰国後は当時白金台にあった「カンテサンス」でスーシェフを務める。2009年独立して青山に「フロリレージュ」をオープン。2015年に神宮前に移転し現在に至る。

フロリレージュ Florilège 

東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1

03-6440-0878

12:00~13:30(L.O.)

18:30~20:00(L.O.)

不定休

ランチ 7品前後 7,500円

ディナー 11品 15,000円

*税・サービス料別

Premium X 未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

Text by Mayuko Yamaguchi

 

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当サイトに掲載しているレストラン情報の内容が変更になっている可能性があります。公式サイトなどから最新情報をご確認ください。

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。

Stories

Premium X

未来に向けて日本の食を発信する新…

Premium X

ページの先頭へ

最新情報をニュースレターでお知らせするほか、エクスクルーシブなイベントのご案内や、特別なプレゼント企画も予定しています。