生井祐介シェフ

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未来に向けて日本の食を発信する新世代のシェフたち

2020.4.6

4. 「オード」シェフ生井祐介~飄々と楽しみ、シェフの重圧さえも味方にして

シェフという仕事にモチベーションを与えるものは

穏やかな笑顔と飄々とした雰囲気から、この人の内側に闘志が宿っていることを初めて会う人は、察知できないかもしれない。しかし、広尾のイノベーティブフレンチ「Ode(オード)」のシェフを務める生井祐介の頭には、2017年にこの店をオープンする前からずっと、未来に続く道のりまでが浮かんでいたのだろう。そのくらい、熱い思いを抱きつつこれまでの時間を過ごしてきた。

 

「Ode」のオープン前にシェフを務めた「シックプッテートル」でミシュラン一つ星を獲得した生井シェフ。その星は一度失うことになるが、その後2017年に新天地に店を開け、ようやく2019年には再び星を取り戻したという経緯がある。さらに2020年3月、「アジアのベストレストラン50」で初のランクインを果たす。アジア全域で35位という快挙だった。

 

「お客様に料理を喜んで召し上がっていただくことは、もちろん大変重要です。でも、逆に言えばそれはもう当たり前すぎてわざわざ言わなくても良いかも、という気もします。では、それ以外に何があるかというと、海外では今や珍しくなくなった『シェフはクリエイターである』という感覚ではないかと思います。世界には様々なレストランアワードがあってその数だけ評価基準がありますが、私は自分が考える理想の世界観を、料理という手法で表現できたらなぁとずっと考えてきました」

シグネチャーのひとつ「グレーの皿」。鰯のアラで作られたメレンゲを砕くと、中から尾崎牛の真っ赤な肉の色が。ビジュアルと味わいが一気に記憶に突き刺さる美味。 シグネチャーのひとつ「グレーの皿」。鰯のアラで作られたメレンゲを砕くと、中から尾崎牛の真っ赤な肉の色が。ビジュアルと味わいが一気に記憶に突き刺さる美味。

シグネチャーのひとつ「グレーの皿」。鰯のアラで作られたメレンゲを砕くと、中から尾崎牛の真っ赤な肉の色が。ビジュアルと味わいが一気に記憶に突き刺さる美味。

学んでいる時も必要なのは「自分の声」を無視しないこと

元々は音楽の道を志していた異色の人で、しかも料理の面白さに目覚めてこの道に足を踏み入れたのは25歳。当時、この業界での料理人デビューとしてはかなり遅いほうだった。しかし、10代の少年が師匠の教えに従って一挙手一投足から料理を学び始めるのに比べ、生井の場合は良い意味での「開き直り」があったようだ。師匠のシェフや付き合いのあったオーナー、客、食材を買う店の店主など、あらゆる出会いから独自の世界観を構築するためのエッセンスを吸収していった。

 

「スタートが遅い、星付きレストランでの修業経験がないなど、嘆いても仕方のないハードルはあるにはありました。けれど、生意気な奴だと思われそうで少々気が引けますが、何をやるにも自分の世界観ですべて作り上げてみたいという思いがあったんです。それはもう、料理に添える小さなハーブの置き方一つに至るまで。当時は、自分とお客様との間に、何か別の要素が混じるのが嫌だったのかもしれません。けれど、そんな気持ちが『さぁ次へ!』と自分の背中を押し続けてくれたのは確かです」。

 

オーナーシェフとして、店内では9人のスタッフを率いるようになった今、「アジアのベストレストラン」へのランクインはうれしいメダルとなった。主催者からランクインを知らせるメールが来た際(順位は知らされず、授賞式への参加の意思が問われるという)、迷惑フォルダに入っていてしばらく気づかなかったという。ミシュランとはまた異なる可能性が開ける感覚を、誰よりも実感しているという生井シェフ。グレーとチャコールで統一された静かな店内にみなぎるパワフルな空気を、ぜひ今、体験しておくべきだろう。

 

(敬称略)


生井祐介 YUSUKE NAMAI

1975年、東京生まれ。高校卒業後は音楽の道を志すも、その後出合った料理に面白さを見出し、25歳から本格的な修業を始める。表参道「レストランJ」、軽井沢「マサズ」を経て、八丁堀「シックプッテートル」のシェフに就任。2017年に独立し、「Ode」のオーナーシェフとなる。

オード Ode

東京都渋谷区広尾5-1-32 ST広尾2F

12:00~13:00(last entry)

18:30~20:00(last entry)

日曜定休

ランチ 季節の食材をつかった9皿前後のお料理 ¥7,000

ディナー 季節の食材をつかった13皿前後のお料理¥15,000

※税・サービス料別

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和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

Text by Mayuko Yamaguchi

 

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