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2020.5.22

10. 「ラシーム」シェフ 高田裕介~遅咲きのスターシェフが見せる千変万化

注目度が高まる、関西ガストロノミーの雄

2018年、「アジアのベストレストラン」に初登場にして17位。いきなり「ハイエストニューエントリー賞」をさらって話題となった。1年後に14位、2020年3月には10位となり、「シェフズチョイス賞」を受賞。すっかり関西ガストロノミーを代表する一人となった「ラシーム」の高田裕介シェフだが、この話題の人が実は遅咲きの沈思黙考タイプであることは、まだあまり知られてはいない。調理師学校を卒業後も大阪市内の数店舗で経験を重ね、料理修業のために初めて渡仏したのは30歳の時だったという。帰国後に自身の店を開業し、ミシュランの星を2つに増やして「アジアのベストレストラン」でも頭角を現し……という今も、まだどこか自身を俯瞰で見ているような雰囲気が漂う。

 

「もちろん、いただいた賞がうれしくないわけではないんですが、僕はずっと大阪をベースにガストロノミーの世界を眺めてきた経緯があるので、華やかなスターシェフの世界にドボンと飛び込める精神的資質が備わってないんですよね」と照れながら笑う。

 

しかし、少しだけ遅咲きだったこと、大阪に店を構えて料理界に生きてきたことの2点は、間違いなく高田の料理人としてのキャラクターを作り上げた大きな要因だ。

コースメニューより「淡路新玉ねぎ、カツオ、フードロスZERO」。一見ユニークで楽しい雰囲気を醸しつつ、どこか哲学がにじむのが高田流だ。 コースメニューより「淡路新玉ねぎ、カツオ、フードロスZERO」。一見ユニークで楽しい雰囲気を醸しつつ、どこか哲学がにじむのが高田流だ。

コースメニューより「淡路新玉ねぎ、カツオ、フードロスZERO」。一見ユニークで楽しい雰囲気を醸しつつ、どこか哲学がにじむのが高田流だ。


探し続け、変わり続けることこそキャラクター

「調理師学校の卒業とバブル崩壊が重なりました。大阪市内の数軒の店で長年修業し、さらにフランスに渡って働いた。その間、僕は僕なりに料理業界の“流れ”を、懸命に観察してきました。東京やパリにはあらゆる飲食店があって、多様性ヨシという文化が根付いているように思いますが、大阪にはいい意味で田舎っぽいところも残っています。『ほんまに美味いんか、それ?』という疑問に素直に従う健全な食べ手の精神があるので、大阪では強いものだけが流行り、次へ次へと進んでいく感じがあります」。

 

高田自身、店を開いてからの10年間で3度の方向変換を行なった。トレンドに乗ろうという意図ではなく、「自分の今を表現するためには容れ物(店)の仕様も変えないと」という思いに駆られてのことだった。時には「これでうまくいかないようなら、店をたたんでも良い」と覚悟するような重い決断もあったという。けれど、なんとなくそのままでいるよりは実行を選んだ結果が、今につながっている。

 

ネオビストロの時代があり、カジュアルな北欧の流れを入れた時期を経て、クラシックを意識する温故知新スタイルに。そして現在、すべてを削ぎ落としたようなシンプルなスタイルに行き着いた。しかし、まだこの先にも変化が起こりそうな気配がある、それが「ラシーム」。

 

「どれかが失敗だったとか成功したとか、そういうのではないんです。いろんな要素が重なっていって、そこに自分の持ち味とか土地が持つキャラクターが合わさり、今に至った。今、20代の料理人たちは選択肢が多くていいなぁと思うこともありますが、複雑に熟成を重ねた自分の今も、まぁ悪くないんじゃないでしょうか」。

 

奄美大島の出身ということもあり、店で料理に使用する食材の多くを奄美大島や鹿児島など、九州産が占める。写真のセンスが見事で、店のInstagramでは独特な視点で撮影した料理写真が多くのフォロワーを集めている。フランス語で「頂き」を意味する言葉を店名に掲げた高田。静かに淡々と言葉を選んで語る人だが、目指しているのはさらに彼方にある頂きだろう。

高田裕介 Yusuke Takada

1977年、鹿児島県奄美市生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、大阪市内のフレンチやイタリアンの店に勤め、2007年渡仏。「タイユヴァン」「ミーティング」「ホテルムーリス」で修業し、2009年帰国。2010年、大阪に自らの店「La Cime」をオープン。2012年にミシュラン一つ星。2016年、二つ星に昇格。2018年「アジアのベストレストラン」初登場17位。翌年は14位に上がり、2020年10位に。

ラシーム La Cime
大阪市中央区瓦町 3-2-15 瓦町ウサミビル1F
06-6222-2010
12:00~13:00(L.O.)
18:30~20:00(L.O.)
定休日 毎週日曜以外に月1日、年末年始、夏季休暇
ランチ 9品目 10,000円
ディナー 12品目 20,000円
*税別

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和食はもちろんのこと、フレンチ、イタリアン、中国料理と、日本の飲食業界には秀逸なレストランが群雄割拠。しかし、さらにその奥を眺めてみれば、未来の日本の食を背負って立つ新世代が芽吹き、目を見張る活躍を見せている。あらゆる垣根を越えて食と向き合うシェフ12名を「Premium Japan」編集部で選抜。目指すベクトルを聞いた。

 

(敬称略)

 

Photo by Hiyori Ikai
Text by Mayuko Yamaguchi

 

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