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未生流笹岡家元 笹岡隆甫「月々の花、月々の京」

2024.6.20

「アジサイ」と「茅の輪」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫がいける六月の花、六月の京都】

1919(大正8)年に創流され、西洋の花を用いた新しい「笹岡式盛花」を考案したことで知られる「未生流笹岡」。当代家元、笹岡隆甫さんは、伝統的な華道の表現だけでなくミュージカルや狂言など他ジャンルとのコラボレーションを試みるなど、幅広い分野での活動で注目を集めています。京都で暮らす笹岡さんが、月々の花と、その月の京都の風物詩を語る連載「月々の花、月々の京」、6月は「アジサイ」と「茅の輪」です。







子どもの頃。縁側から庭のアジサイをぼーっと眺めているのが好きでした


原種に近いヤマアジサイを一輪挿しにいけてみました。大輪の花を咲かせる西洋アジサイもこの時期には華やかですが、楚々としたヤマアジサイも風情があります。亀甲柄の花器のシャープな直線と、しなやかな曲線を描くヤマサジサイの枝ぶりとの組み合わせが面白いと思います。

場所は家元邸茶室前のつくばいです。家元邸の庭にはヤマアジサイが昔からあり、今回いけたヤマアジサイも庭から切ってきたものです。子どもの頃、雨に濡れたヤマアジサイを、縁側からぼーっと眺めているのが好きでした。ヤマアジサイの花は、咲き始めのころの白から、日を追うごとにピンク、そして紫へと移り変わっていきます。時とともに移ろうその美しさと、そこに同居するはかなさが、ヤマアジサイがもつ何ともいえない魅力です。西洋アジサイも、ひとつひとつの小さな花が集まって大輪の花となります。みんなで力を合わせているところが、なんとも微笑ましく思われます。



アジサイは、意外に水揚げが難しい花。花器にも水をたっぷりと


6月はアジサイをいけることが多いのですが、アジサイは意外に水揚げが難しい花です。茎を切る際には、根元に近い薄茶色の部分を残すようにすることが大切です。花の付け根近くのまだ柔らかい黄緑色の部分で切ってしまうと、すぐに弱ってしまいます。また花器にたっぷりの水を注いでおくことも忘れてはなりません。

梅雨のこの時期は、雨も多く憂鬱な気分になる時が多くなります。そんなときに、ブルーや青紫の爽やかな寒色系の花は、沈みがちな心に一服の清涼剤となります。

三千院あじさい 三千院あじさい

数千本のアジサイが花を開かせる大原の「三千院」。6月6日から7月7日までは、「あじさい祭」が開催され、多くの人で賑わう。©Akira Nakata







一輪挿しは、気軽ないけ花。どんどんトライしてみてください


ある意味では気軽にいけることができるのが一輪挿しです。家のちょっとしたコーナーに、一輪挿しの花があると、気分はとても豊かなものになりますので、堅苦しく考えずにどんどんいけてみることをお薦めします。

じつは、以前「つれづれなるままに」と題して、お稽古の余り花を一輪挿しにいけ、それをフェイスブックでアップし続けたことがあります。105回続けましたが、それなりに面白く貴重な経験でした。いけることもさることながら、うまく写真を撮ることの難しさを実感しました。撮る方向ひとつで、一輪の花といえども、表情ががらりと変わります。また、背景などもいろいろ考えなければなりません。スマートフォンで撮影を続けるうちに、一眼レフのような、高性能のカメラが欲しくなりました。

 





茅の野を潜って夏越の祓。祇園祭まで、あとわずか。


6月の下旬になると、方々の神社に茅の輪がお目見えします。とくに1年の半分が過ぎた6月30日は、「夏越の祓」が執り行われます。一年の半分の汚れを祓い、残る半分の無病息災を祈る神事で、この時に茅の輪を潜ると、ご利益がいただけると言われています。

また、6月になると必ず登場するのが「水無月」と呼ばれる和菓子です。外郎(ういろう)の上に小豆を乗せた三角形のお菓子で、外郎は氷を、小豆は魔除けを意味するといわれています。茅の輪を潜り、「水無月」をいただくと、7月もすぐそこ。

中京の新町通りや室町通りを夜分に歩くと、笛と鉦(かね)の音が町屋の二階から聞こえてきます。祇園祭まであとわずか。囃子方の練習にも熱が入ります。

茅の輪 茅の輪

大半の神社では、6月下旬に茅の輪が設けられるが、北野天満宮の茅の輪は、6月1日にお目見え。©Akira Nakata



















笹岡隆甫(ささおかりゅうほ)  笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) 

photography by Takeshi Akizuki

笹岡隆甫 Sasaoka Ryuho

 

未生流笹岡家元。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。2011年、未生流笹岡三代家元を継承。伊勢志摩で開催されたG7会場では装花を担当。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、国内外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露。京都ノートルダム女子大学と大正大学で客員教授を務める。近著の『いけばな』(新潮新書)をはじめ、著書も多数。



Text by Masao Sakurai(Office Clover)

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