師走の京都を彩る「柚子」と「をけら詣り」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける十二月の花】師走の京都を彩る「柚子」と「をけら詣り」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける十二月の花】

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未生流笹岡家元 笹岡隆甫「月々の花、月々の京」

2023.12.28

師走の京都を彩る「柚子」と「をけら詣り」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける十二月の花】

1919(大正8)年に創流され、西洋の花を用いた新しい「笹岡式盛花」を考案したことで知られる「未生流笹岡」。当代家元、笹岡隆甫さんは、伝統的な華道の表現だけでなくミュージカルや狂言など他ジャンルとのコラボレーションを試みるなど、幅広い分野での活動で注目を集めています。京都で暮らす笹岡さんが、月々の花と、その月の京都の風物詩を語る連載「月々の花、月々の京」、十二月は「柚子」と「をけら詣り」です。












世界遺産の二条城に大きな黒松をいける

二条城二の丸御殿台所にいけた黒松です。17世紀初めに建てられた建物は、広い土間と板の間が特徴で、建造当時は文字通り厨房として使われていました。重厚な空間に対峙すべく、力強く存在感がある黒松を用いました。背丈は2メートルをゆうに超えています。こうした味わいのある枝ぶりの松は、自生ではなかなかお目にかかることはできないので、専門の庭木屋さんから入手することになります。

 

松は比較的扱いやすい花材ですが、さすがにこれだけ大きいと、たっぷりの水分が必要です。この作品のときも、展示期間が1カ月と長期でしたので、毎日水を補給するなど、なかなか世話が大変でした。




世界遺産であり重要文化財でもある二条城は、文化財保護の観点から、さまざまな規制が課せられています。たとえば水。板の間に水が零れることは厳禁ですので、緋毛氈で巻かれた花台の内部には巨大な器が仕込まれていて、万一、松をいけている朽ち木の水盤から水が漏れても、その巨大な器で水を受け止められるようにしました。また、松葉や幹に昆虫などの生物が潜んでいないか、厳重にチェックします。

 

 

宇治の平等院鳳凰堂での献花の際もそうでしたが、こうした貴重な文化財を保護するためには、ある程度の規制はやむを得ないと思います。逆に、こうした規制をきちんとクリアしつつ、歴史が香る建築で花をいけるのは、華道家にとってもよい経験となります。




1000年以上前から栽培されていた水尾の里の柚子


1000年以上前から栽培されていた水尾の里の柚子 1000年以上前から栽培されていた水尾の里の柚子

たわわに実る、水尾の里の柚子。鎌倉時代に、とある天皇がこの地に柚子を植えたことが、その発祥とされている。
©Akira Nakata








展示が長丁場となるため、松の足もとに添える季節の花は、旧暦の「二十四節気(にじゅうしせっき)七十二候(しちじゅうにこう)」をテーマに、5日ごとにいけ替えることにしました。写真の実物(みもの)は、金柑と小柚子です。雄壮な枝ぶりの松と、愛らしい金柑と小柚子の取り合わせの妙を演出しました。冬至と言えば柚子。柚子は、強い芳香が邪気を祓い、古来厄除けに通じるとされてきました。「冬至」と音が同じ「湯治」にもつながるので、冬至の日に「柚子湯」に入ると風邪をひかないともいわれています。京都では、奥嵯峨に位置する水尾の里が、柚子の産地として知られ、1000年ほど前から栽培されてきたそうです。






大晦日は、八坂さんへ「をけら詣り」に

 

冬至を過ぎると、もう年の瀬です。我が家では、28日までに床の間や門松などのお正月支度を終えることにしています。そして大晦日の夜は、「をけら詣り」で八坂さんへ。午後7時頃から本殿で行われる除夜祭の後に、境内に設けられた燈籠に火が入ります。その際、「をけら」と呼ばれる菊科の植物の根を乾燥させたものも一緒に焚き上げられます。この根は非常に強い匂いを発するので、柚子と同様邪気を祓うとされてきました。この「をけら火」を火縄に移して消えないように家まで持ち帰り、新年のお雑煮を焚く火にする、それが「をけら詣り」で、火縄を持った人が、それをくるくる回して祇園町や四条大橋を歩く姿は、京都の大晦日の風物詩といわれています。









「吉兆縄」と呼ばれる火縄 「吉兆縄」と呼ばれる火縄

「吉兆縄」と呼ばれる火縄は、境内で購入することが可能。今は固く禁止されているが、かつては火縄を持ったまま、電車に乗る人もいたとか。©Akira Nakata







午後7時半頃から元旦の早朝まで「をけら火」は燃やされていますが、宵も更けると、初詣の人も加わり、八坂さんの境内は大混雑。そこで、我が家はいつも午後7時半前後の開始早々に出掛けることにしています。そして、本来は新年のお雑煮なのですが、まだ時間が早いので、大晦日の年越しそばを作るときの火種にしています。

 

 

京都人は新しもの好きと言われる反面、こうした古くからの行事を大切にし、「去年も同じように過ごしたなぁ」と言いつつも、毎年同じことを繰り返しています。私自身、「五山送り火」や「をけら詣り」などの行事の日は、物心ついた時からほぼ欠かすことなく京都で過ごしています。1度でも欠かすと、大袈裟に言えば、自分のルーツを疎かにしたように感じてしまう……。それが京都人なのでしょうね。









笹岡隆甫(ささおかりゅうほ)  笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) 

photography by Takeshi Akizuki

笹岡隆甫 Sasaoka Ryuho

 

未生流笹岡家元。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。2011年、未生流笹岡三代家元を継承。伊勢志摩で開催されたG7会場では装花を担当。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、国内外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露。京都ノートルダム女子大学と大正大学で客員教授を務める。近著の『いけばな』(新潮新書)をはじめ、著書も多数。



Text by Masao Sakurai(Office Clover)

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