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未生流笹岡家元 笹岡隆甫「月々の花、月々の京」

2023.9.29

【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける九月の花】京都で愛でる花と中秋の名月











1919(大正8)年に創流され、西洋の花を用いた新しい「笹岡式盛花」を考案したことで知られる「未生流笹岡」。当代家元、笹岡隆甫さんは、伝統的な華道の表現だけでなくミュージカルや狂言など他ジャンルとのコラボレーションを試みるなど、幅広い分野での活動で注目を集めています。京都で暮らす笹岡さんが、月々の花と、その月の京都の風物詩を語る連載「月々の花、月々の京」、九月は「桔梗」と「名月」です。









桔梗と紅万作で表現した、夏の名残と深まりゆく秋の風情

 

 

青紫の可憐な花をつける桔梗は、家紋にも用いられるほど、古くから親しまれてきた花です。秋の七草のひとつでもあり、季語としても秋の部類に入りますが、じつは初夏から花が咲きます。水揚げが難しく、花を長持ちさせるためにはたっぷりの水が必要。蕾のうちにいけておいて、紫色の柔らかな花びらが、次第に開いていく様子を見るのも楽しいものです。桔梗をはじめ、秋の花は色も優しくたおやかなものが多く、主役にするよりもアクセントとして添えた方が風情となります。







桔梗の花 桔梗の花

桔梗の花言葉は「変わらぬ愛」「清楚」「誠実」「気品」。品のある花色と気品を感じさせるたたずまいから付けられた。戦国武将では、明智光秀が家紋に用いたことで知られる。©Akira Nakata









今回、主役としたのは紅万作(べにまんさく)です。「丸葉の木」とも呼ばれる落葉低木で、とても可愛らしいハート形の葉をつけます。この葉が秋になると、緑から黄色、紅、そして最後には茶色へとグラデーションをなすように色付いてきます。ひとつの枝がこれほどさまざまな色で彩られる秋の植物はほかに無く、この季節になると使いたくなる花材のひとつです。そんな「紅万作」に添えたのが桔梗です。夏に咲く花ということもあり、夏の名残と次第に深まりゆく秋の趣を表現してみました。





曲木造形作家が手がけたオブジェを花器に見立てて

 

少し変わった花器のように見えますが、じつは花器ではなく、亘(わたり)章吾さんという曲木造形作家が手がけたオブジェです。家具工房や海外の曲木技法、そして伝統的な木桶制作に従事して修業を積んだ亘さんは、その技術を活かして吉野檜のみを使った斬新なフォルムの作品を精力的に発表している注目のアーティストです。このオブジェも、そもそも花を生けることを考えて作られていないので、水を少ししか入れることができません。

 

 

作品の形状に合わせ、オブジェを置いた机に着いてしまわないぎりぎりのところで、できる限り低くいけたのがポイントです。





記憶に残る、実相院門跡での観月コンサート

 

 

9月に入ると空気も澄み、夜空の月も輝きを増します。もう20年近く前のこと。岩倉の実相院門跡で、コンサートを楽しみながら月が出るのを待つ、というイベントを開催しました。皇室ゆかりの寺院なのに傷みも激しく、早急な修復が必要であることを多くの人に知っていただくために、当時京都に住んでいらしたエッセイストの麻生圭子さんの発案で、私を含めた有志が集まってのコンサートイベントでした。

 

 

出演は、ギター・デュオのゴンチチさん、私は会場の飾花担当です。西向きの広縁に竹製の大屏風をしつらえ、そこにナナカマドの紅葉をいけました。心配していたお天気も、当日は快晴。コンサートが終盤に近付くころ、大屏風の後ろから美しい月が姿を現しました。もちろん、月が上る時刻や位置を予め調べ、それに合わせて作品の高さや色彩、いける場所などを計算してのことです。実相院の建築、いけばな、月、虫の声、そしてゴンチチさんの演奏。すべてが一体となった素晴らしい空間となりました。今でもその光景が目に浮かぶほど、鮮明な記憶となっている月の思い出です。

 

 

京都には月の名勝が沢山が数多くあります




東山の稜線に上る月。その風情は「月はおぼろに東山」と、祇園小唄にも歌われた。©Akira Nakata








大覚寺の大沢池に浮かぶ月、東寺の五重塔にかかる月、東山から上がる月……。京都には月の名勝が数多くあります。また、上賀茂神社の「賀茂観月祭」、下鴨神社の「名月管弦祭」平野神社の「名月祭」など、多くの神社で観月祭が行われます。私は上賀茂神社からお声掛けをいただくことが多く、「賀茂観月祭」での献花を何度かさせていただいています。その際は、やはりススキをはじめ、桔梗や萩などいわゆる「秋の七草」が中心となりますが、紅万作をいけたこともあります。

 

 

今年(令和5年)の中秋の名月は9月29日です。今年はどんなお月様が、京都の街を照らしてくれるでしょうか。





























笹岡隆甫(ささおかりゅうほ)  笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) 

photography by Takeshi Akizuki

笹岡隆甫 Sasaoka Ryuho

 

未生流笹岡家元。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。2011年、未生流笹岡三代家元を継承。伊勢志摩で開催されたG7会場では装花を担当。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、国内外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露。京都ノートルダム女子大学と大正大学で客員教授を務める。近著の『いけばな』(新潮新書)をはじめ、著書も多数。



Text by Masao Sakurai(Office Clover)

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