京都府立陶板名画の庭京都府立陶板名画の庭

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未生流笹岡家元 笹岡隆甫「月々の花、月々の京」

2023.8.15

【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける八月の花】樹木希林さんと京都・五山送り火の思い出











1919(大正8)年に創流され、西洋の花を用いた新しい「盛花」を考案したことで知られる「未生流笹岡」。当代家元、笹岡隆甫さんは、伝統的な華道の表現だけでなくミュージカルや狂言など他ジャンルとのコラボレーションを試みるなど、幅広い分野での活動で注目を集めています。京都で暮らす笹岡さんが、月々の花と、その月の京都の風物詩を語る連載「月々の花、月々の京」、八月は睡蓮と五山送り火です。









モネの作品にオマージュを込めた睡蓮

 

 

京都府立植物園の入り口近くに「京都府立陶板名画の庭」という、安藤忠雄さんが設計を手掛けた美術館があります。誰もが知る著名な名画を陶板にして展示する施設で、池の中にはモネの「睡蓮」が配置され、ゆらめく水面を通して見ると、また格別の趣があります。(写真の右から左上に伸びる水色のラインが水面下に置かれたモネの陶板です。)この池を水盤に見立て、モネへのオマージュも込め睡蓮を生けました。睡蓮は水面に浮かぶようにして咲きます。この広大な水盤に自然の睡蓮の姿をそのまま生けると、どうしても平板になってしまいますので、水面から離したり、直線的に花が並ばないようにし、全体的に奥行きが生まれるような工夫をこらしました。さらに、シマフトイを鋭角に折り曲げ、立体感を出しました。朝日新聞での連載のために、この睡蓮を生けたのは7月末の朝。午前9時には早くも気温は30度を超え、灼熱の太陽に照らされながらの作業です。長靴で池に入り、汗だくとなっての花生けでしたが、またとない経験となりました。







睡蓮は葉が水面を散歩しているかのように生けます

水連の花 水連の花

©Akira Nakata









睡蓮と蓮は、混同されがちですが、水面に浮かぶように咲く睡蓮に対し、蓮は水面から立ち上がり、高い位置で咲きます。光沢があり切れ込みを持つ睡蓮の葉に対し、蓮の葉は円形で光沢はありません。いけばなとしての睡蓮は、一輪の花を挟んで、切れ込みを向かい合わせた二枚の葉を組み合わせた「組み葉」と、茎を残した一枚の葉を水面に浮かべ、あたかも葉が水面を散歩しているかのような「流し葉」で構成します。

 





写真は、山科の「勧修寺(かじゅうじ)」に咲く睡蓮です。「観修寺」は醍醐天皇が建立したとされる門跡寺院で、皇室と藤原氏にも近い由緒ある寺院です。境内には、氷室池と呼ばれる池を中心とした池泉庭園が広がり、夏の睡蓮をはじめ、杜若(かきつばた)、花菖蒲など四季折々の花を楽しむことができます。





樹木希林さんとの、思い出の五山送り火








7月の祇園祭が終わり、うだるような暑さが続く京都は、8月16日に五山送り火を迎えます。大文字、妙法、舟形、左大文字がよく見える旧稽古場の屋上は、またとない観覧席。家族や親戚が集まって順々に火が灯るのを見守るのが習わしとなっています。

 

 

 

樹木希林さんがご存命の頃のこと。樹木さんが出演されたNHKの送り火中継で、京都府立洛北高校の屋上に特設スタジオを作ったのですが、京都らしい演出をしようとステージの周りに池を作り、そこに睡蓮をいけることになりました。

 

 

睡蓮は本来、午前中に開花し夕方には花を閉じてしまいます。送り火の点火は夜八時。大量の睡蓮を準備し、かろうじて夜まで咲き残った花を、本番用に生けました。ところが本番では土砂降りの雨。(そもそも、五山送り火は季節的にも往々にして夕立に見舞われがちです。)特設スタジオの花をいけた後は、サテライトスタジオとなっていたNHK京都放送局に移動して、いけばなパフォーマンスを披露したため、私は雨の影響のない室内。隣のアナウンサーの声も聴きとれないほどの大雨の中にいた樹木さんが、いけばなパフォーマンスの感想を聞かれ、まじめな顔で「笹岡さんはいいわね~、雨に濡れなくて」と答えたので、サテライトスタジオのお客様は大ウケ。五山送り火が近づくと、時々その夜のことを思い出します。

 






写真は広沢池から見た鳥居形です。8月16日には燈籠流しも行われ、五色の燈篭がゆらゆらと漂うその奥に送り火が浮かぶ光景はとても幻想的です。

 

 

五山送り火を終えると、その翌週は地蔵盆。それが終ると夏も終わりに近づき、朝晩はめっきり涼しくなってきます。秋もすぐそこです。
























笹岡隆甫(ささおかりゅうほ)  笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) 

photography by Takeshi Akizuki

笹岡隆甫 Sasaoka Ryuho

 

未生流笹岡家元。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。2011年、未生流笹岡三代家元を継承。伊勢志摩で開催されたG7会場では装花を担当。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、国内外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露。京都ノートルダム女子大学と大正大学で客員教授を務める。近著の『いけばな』(新潮新書)をはじめ、著書も多数。



Text by Masao Sakurai(Office Clover)

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