京都に春をよぶ花 「梅」と「天神さん」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける二月の花】京都に春をよぶ花 「梅」と「天神さん」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける二月の花】

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未生流笹岡家元 笹岡隆甫「月々の花、月々の京」

2024.2.22

京都に春をよぶ「梅」と「天神さん」【未生流笹岡家元 笹岡隆甫が生ける二月の花】

1919(大正8)年に創流され、西洋の花を用いた新しい「笹岡式盛花」を考案したことで知られる「未生流笹岡」。当代家元、笹岡隆甫さんは、伝統的な華道の表現だけでなくミュージカルや狂言など他ジャンルとのコラボレーションを試みるなど、幅広い分野での活動で注目を集めています。京都で暮らす笹岡さんが、月々の花と、その月の京都の風物詩を語る連載「月々の花、月々の京」、二月は「梅」と「天神さん」です。












梅は華道家にとって挑戦しがいのある花

 

家元邸内の茶室の待合に、梅と藪椿をいけてみました。待合は本来、花を飾る場ではありませんが、シンプルな背景で想像以上に花が映えます。

 

2月の花といえば梅。この梅は「雲竜梅」と呼ばれるもので、その名の通り、雲に乗って天に昇っていく竜のような曲がりくねった枝ぶりが特徴。いけばなでも重宝します。雲竜梅に限らず、梅は元来屈曲した枝ぶりが持ち味で、その枝ぶりを活かしたさまざまないけ方が考案されました。華道家にとって、挑戦しがいのある花材です。

 

右の方に伸びている枝の先端と、中央に立ちあがった枝の先端、そして根元。これらを結んだ線が三角形になっています。

 

「三角形」という言葉が出てきましたので、ここで少し、「未生流笹岡」の花型に触れたいと思います。



古典様式を「盛花」に取り入れた「未生流笹岡」の流祖

 

未生流笹岡は1919(大正8)年に、曾祖父である笹岡竹甫が創流しました。背の低い皿状の器に盛るようにいける「盛花」が流行しはじめていた頃です。江戸時代から続く「未生流」の高弟であった竹甫は、鱗形(直角二等辺三角形)という未生流の古典の型を盛花に取り入れた「笹岡式盛花」を生み出し、新たな流派を立ち上げました。笹岡式盛花は、大小二つの直角二等辺三角形を組み合わせたものです。

笹岡竹甫が大正時代に生みだした「笹岡式盛花」は、大小二つの直角二等辺三角形を組み合わせるようにいけることが基本。 笹岡竹甫が大正時代に生みだした「笹岡式盛花」は、大小二つの直角二等辺三角形を組み合わせるようにいけることが基本。

笹岡竹甫が大正時代に生みだした「笹岡式盛花」は、大小二つの直角二等辺三角形を組み合わせるようにいけることが基本。





自然の景色を味わう「新景色花」

 

私自身、二代家元である祖父から、新しい型を考案しなさいと常々言われてきました。幼いころより厳格な直角二等辺三角形を構成する稽古を続けてきましたが、自然の枝には三角形の型におさまりきらないけれど、味わいのある枝ぶりのものがたくさんあります。そうしたやんちゃな枝ぶりを活かし、もっと自由にいけてみようと私が提案したのが「新景色花」。

 

流内で教授者の先生方と共に勉強を重ね、202110月、青蓮院門跡で開催した三代家元継承10周年記念のいけばな展で発表しました。味わいのある枝を大きく振り出し、その足もとにひっそりと一輪の花を添える、という趣向です。

 

この雲竜梅のいけ方がまさに「新景色花」。今回の作品は、たまたま雲竜梅が三角形におさまっていますが、枝ぶりさえ良ければ、三角形におさまっていても、そうでなくても問題ありません。

 

添えた花は藪椿。花器は、朝日焼の十六世松林豊斎さんから、創流100周年のお祝いにといただいた作品です。たおやかな曲線を持ちながらも、どこか凛としたたずまいは、雲竜梅の風情ともよく合います。




「天神さん」の梅と「老松」の上七軒団子

 

京都で梅といえば、やはり「天神さん」の愛称で知られる「北野天満宮」の梅です。毎年、2月初旬から3月下旬まで、およそ50種類約1,500本の梅が植えられた2万坪の梅苑が公開されます。見頃はやはり2月下旬。わが家でも、毎年この頃になると天神さんを訪れ、京都にようやく訪れた春の兆しを満喫します。そして梅苑内の茶店で、上七軒の老舗、有職菓子御調進所「老松」さんの、七軒団子をいただくのが恒例です。


京都人は、「北野天満宮」のことを、親しみを込めて「天神さん」と呼ぶ。「天神さん」の梅が咲き始めると、京都の冬も終わりに近づく。©Akira Nakata 京都人は、「北野天満宮」のことを、親しみを込めて「天神さん」と呼ぶ。「天神さん」の梅が咲き始めると、京都の冬も終わりに近づく。©Akira Nakata

京都人は、「北野天満宮」のことを、親しみを込めて「天神さん」と呼ぶ。「天神さん」の梅が咲き始めると、京都の冬も終わりに近づく。©Akira Nakata




上七軒の芸舞妓衆もお目見えする大茶会

1500本もの、紅梅、白梅が咲く梅苑の景色は圧巻。©Akira Nakata 1500本もの、紅梅、白梅が咲く梅苑の景色は圧巻。©Akira Nakata

1500本もの、紅梅、白梅が咲く梅苑の景色は圧巻。©Akira Nakata





天神さんの梅のクライマックスともいえるのが、225日に行われる「梅花祭」です。北野天満宮に祀られている、菅原道真公の祥月命日にあたるこの日、梅の花を愛した菅原道真を偲び、梅の花が添えられた神饌を本殿にお供えにして祭典が行われます。また、この日は、秀吉が開催したという「北野大茶会」にちなみ、梅苑では野点が催され、上七軒の芸舞妓衆もお目見えし、祭事もとても華やかなものとなります。






1100年ぶりに蘇った「曲水の宴」

 

平安貴族の遊びに、「曲水の宴」というものがあります。流れる小川の前に座り、酒の入った盃が自分の前に流れてくるまでに、詩歌を詠む雅な宴です。

 

北野天満宮では、2016年、約1100年ぶりに、この「曲水の宴」が再興され、私は第1回の曲水の宴に第1詠者として参加させていただきました。天神さんの曲水の宴は、男性が漢詩、女性が和歌を詠む和漢朗詠形式。漢詩の出来栄えはともかく、優雅で厳かな貴重なひとときでした。

 

今年の大河ドラマ「光る君へ」は、平安時代が舞台です。あまり知られていない、平安時代の貴族の生活ぶりがドラマを通して再現され、興味深く拝見していますが、この「曲水の宴」も、いつか登場するかもしれませんね。

 

「梅花祭」を過ぎると、3月はすぐそこ。お雛様の季節です。京都にもようやく春が巡ってきます。



笹岡隆甫(ささおかりゅうほ)  笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) 

photography by Takeshi Akizuki

笹岡隆甫 Sasaoka Ryuho

 

未生流笹岡家元。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。2011年、未生流笹岡三代家元を継承。伊勢志摩で開催されたG7会場では装花を担当。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、国内外の公式行事でいけばなパフォーマンスを披露。京都ノートルダム女子大学と大正大学で客員教授を務める。近著の『いけばな』(新潮新書)をはじめ、著書も多数。



Text by Masao Sakurai(Office Clover)

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