帯「威毛(おどしげ)錦」(龍村美術織物)

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令和にまとう初春のきもの 逸品選

2020.1.22

10.「龍村」を代表する名作帯、鎧かぶとの文様に見る戦国武将のモードの世界

帯「威毛錦(おどしげにしき)」(龍村美術織物)

成人式や婚礼などをはじめ、晴れの場に欠かすことのできないきものや帯。美術織物の至高に名を連ね、多くの女流作家や女優に愛されながら、令和の現代においてもなお新鮮で格調高い龍村美術織物の粋美を、その礎を築いた初代龍村平藏の精神とともに紹介する。

 

ベストセラー「威毛錦(おどしげにしき)」に咲く龍村の洗練

龍村の名品といわれる帯は数多くあるが、ことに有名な写真上の「威毛錦(おどしげにしき)」(写真は丸帯)はその名前を知らなくても、多くのきもの好きに知られている文様だ。端整で完成された意匠美、そしてあふれんばかりの色糸で織られたモチーフは類い稀な美しさを誇る。

 

この文様は一般的に「鎧威(よろいおどし)」などともいわれる。鎧やかぶとの札を糸や革で綴ることを「緒通し(おとおし)」というが、戦で“威(い)を振るう”に通じることから「威(おどし)」の字が使われるようになったようだ。威の緒は戦人の晴着として、また陣中での武将の威厳を表すために、文様や色彩に多くの趣向が凝らされた。赤・黄・紫・黒など一色のものや、小さな文様を表したもの、グラデーションのような配色にしたものや、植物の沢瀉(おもだか)など他の装束のデザインを取り入れたもの、また、肩取(かたどり)や褄取(つまどり)のように、今のきものの柄付けのような工夫をしたものなど多種多様。まさに戦国の世に花開いたモードの世界といっても過言ではないだろう。

 

この威の意匠の面白さを、帯の図柄に取り入れたのがこの「威毛錦」である。繻子(しゅす)地に、龍村がこだわり抜いた色彩の緯(よこ)糸を用いて、四種の威と桜花、楓葉を織り表している。この帯は昭和13年5月にベルリンのカイゼルダムで開催された「第一回国際手工業博覧会」に出品され、見事金賞を受賞している。また現在は、写真下「慶賀松縅錦(けいがしょういきん)」のような威に松を取り合わせた、新味ある格調高いデザインも発表されている。

袋帯「慶賀松縅錦(けいがしょういきん)」(龍村美術織物) 袋帯「慶賀松縅錦(けいがしょういきん)」(龍村美術織物)

袋帯「慶賀松縅錦(けいがしょういきん)」(龍村美術織物)


text by Akira Tanaka

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