振袖「黒地草花扇面」(ハツコ エンドウ)

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令和にまとう初春のきもの 逸品選

2020.1.7

5. 華燭の典に咲く。ハツコエンドウ 花嫁振袖の格調と風格

子供から大人への通過儀礼として着る振袖に対して、花嫁のまとう引き振袖は未婚から既婚への通過儀礼という人生行事を祝う晴着。その着姿から「お引きずり」とも呼ばれる。令和の寿ぎにふさわしい、格調や風格を持つ大人の女性の振袖を、その意匠表現とともに紹介する。

黒地の魅力を鮮やかに放つ花嫁振袖二趣

きものをはじめ、日本の工芸では濃色の地色を「濃地」と表現することが多い。その濃地の究極が黒地である。黒地のきものの格調や凜とした華やぎは、ほかの色にはない唯一無二の存在である。婚礼に目を向けると既婚女性の第一礼装は黒留袖であるし、黒の花嫁振袖は「他の色には染まらない」という決意を装いに込めた色として好まれている。

おめでたい扇面を重ね合わせた黒の花嫁(左)と、紅白の桜に繊細な白上げの波と荒々しい波涛(はとう)文を表した花嫁振袖(右) おめでたい扇面を重ね合わせた黒の花嫁(左)と、紅白の桜に繊細な白上げの波と荒々しい波涛(はとう)文を表した花嫁振袖(右)

おめでたい扇面を重ね合わせた黒の花嫁振袖(左)と、紅白の桜に繊細な白上げの波と荒々しい波涛(はとう)文を表した花嫁振袖(右)

きもののモチーフとして頻繁に取り上げられる器物文様に「扇(おうぎ)」がある。扇とひと言でいっても、その表現は多種多様だ。平安貴族の装身具から材を得た「檜扇(ひおうぎ)」、扇に貼る紙のみを表した「地紙(じがみ)」、能楽や位の高い僧侶が手にした「中啓(ちゅうけい)」などさまざまである。写真上の振袖「黒地草花扇面」の主題は、扇子の扇面。扇は末が広がることから、「末広」とも呼ばれ縁起のよい文様とされている。この振袖も、金彩の地紙に四季の草花が表された扇がすっきりと配され、黒地に引き立つデザインだ。

 

このように地空きの黒が生かされたきものは、花嫁振袖にしては落ち着いた風情やしゃれ感があり、むしろ令和のモダンで洗練された時代の花嫁にマッチしているともいえよう。金と黒の扇を重ね合わせた表現も婚礼の衣装としてふさわしい趣を感じさせる。


蒔絵を思わせる瀟洒な佇まいが主役を引き立てる 蒔絵を思わせる瀟洒な佇まいが主役を引き立てる

蒔絵を思わせる瀟洒な佇まいが主役を引き立てる

他方、写真下の振袖「黒地桜波文集」は蒔絵のような表現の風景模様で、一幅(いっぷく)の絵画を見ているかのような豪奢なデザインである。裾には、黒地に鮮やかに輝く不定形な金彩の場を設け、そこに繊細な白上げの波と、荒々しい波涛(はとう)文を表している。その波文様とともに配されているのが、自然の樹形を豪放に表した、めでたさあふれる紅白の桜だ。華やいだ表現の波と桜を取り合わせることで、なお一層美しさを引き立たせている。日本の美を一枚に詰めた豪華な秀作振袖である。

振袖:ハツコ エンドウ ウェディングス 銀座店
レンタル価格:写真上/500,000円 写真下/800,000円(税別/編集部調べ)

 

https://weddings.hatsuko-endo.co.jp/salon/64

text by Akira Tanaka

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