鍋料理というと、しゃぶしゃぶやすき焼きなどの定番が真っ先に浮かぶかもしれない。しかし、視点を変えて一つの鍋の中だけで完結する味や流れを考えるのは、創造性にあふれた作業でもある。また同時に、季節の素材の味わいを存分に楽しめる魅力的な料理である。
細川亜衣は、世界の旅を通し、また、日々の食材との対話を通して、次々と名作の鍋料理を創造する。汁、具、香り、食感。さまざまな要素に心を配り、一つの鍋を完成させる過程はとても楽しいと彼女は語る。
「家族は毎日鍋でもよいと口を揃えます。それは、ほかの料理にはない、火を通したばかりの食材の食感や、食べる人それぞれが完成させる醍醐味を味わえるからかもしれません。」
冷凍したトマトを鍋に入れると、とろりとした食感になる。
情熱的な赤色が食欲をそそる「赤鍋」
そこで、この夏から四季の鍋をご紹介いただくことにした。いわゆる鍋料理の固定概念を覆す新しい味を、ぜひ試してみてほしい。
夏はトマトを使った「赤鍋」である。スープは細川が鍋料理によく使うという昆布といりこだし。そして今回のポイントは冷凍したトマトを使うこと。トマトは冷凍することによって繊維が壊れ、煮込むとトロッとして濃縮な味わいになるのだと言う。そこにトマトの食感を楽しむためにプチトマトを加え、赤い食材を入れていく。
鶏肉だんごは、通常はつなぎとして小麦粉や卵を入れるものだが、敢えて塩麹しか使わない。この方が手軽であるし、鍋のスープは濁らず、肉々しい味わいが楽しめるからだ。
鍋に入れる食材はレシピ通りである必要はないと細川は言う。鍋は創造性にあふれた料理なのだから、その日の冷蔵庫と相談しながらご自身でアレンジしていって欲しい。
赤鍋
昆布といりこのだし 1リットル
酒 大さじ2
干し梅干し 4個
冷凍トマト 中4個
赤パプリカ 2個
赤甘長唐辛子 2本
プチトマト 10個
鶏ひき肉 200g
塩麹 小さじ2
発酵しょうが 大さじ2
ごま 大さじ2
その他
葉もの
(サニーレタス、えごまの葉、香菜、バジリコなど)
赤パプリカと完熟甘長唐辛子は高温のオーブンでこんがりと焼き、冷めたら薄皮、軸、種をのぞく。
プチトマトは湯むきする。
冷凍トマトは水で洗って皮をむき、薄く刻む。
卓上に出せる鍋に昆布といりこのだし、酒、干し梅干し、冷凍トマト、プチトマト、赤パプリカ、赤甘長唐辛子とその焼き汁を入れて煮る。
鶏ひき肉は塩麹を加えてよく混ぜる。
汁が煮たったらスプーンで肉だねを丸く落として再び煮立て、塩味をととのえる。
発酵しょうがを汁ごと中心に盛り、いったごまをふる。
卓上で温めながら汁ごとめいめいの鉢に取る。
好みで葉ものを煮て食べる。
*干し梅干しは梅干しをざるに広げてかりかりになるまで干したもの。果肉のジューシーさはなくなるが、甘みが増し、塩辛くなくなる。
*発酵しょうがは千切りの新しょうがを3%塩水にひたして白濁するまで発酵させたもの。汁の味をみて酸味が出ていたら冷蔵保存する。なければ生の千切りをそのまま使う。
細川亜衣 Ai Hosokawa
料理家。熊本・taishojiにて料理教室や料理会などを主宰。「トースト」(BON出版)、『料理集 定番』(アノニマ・スタジオ)、「旅と料理」(cccメディアハウス)、「taishoji cookbook 1.2」(晶文社)など多数を発売中。最新刊には、オンラインマガジン『エプロンとレシピ6月号』(grembiuli&ricette)がある。
Photography by Ai Hosokawa
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